リーダーシップの分析 − 「X理論」と「Y理論」⑬

1930年代まで、リーダーシップは個人の特性であり、リーダーとなるべき能力と性向を特別に身につけているのはごく僅かの人間しかいないと一般に信じられていました。

さらに、そのような能力や人格は、習得するというよりも、生まれつきのものであると信じられていました。

このため、この分野の研究は、リーダーシップの一般的な特徴を明らかにすることによって、埋もれているリーダーを発掘しやすくしようとしました。

1930年代以降になると、リーダーの人格と同時に行動について研究をするようになりました。

リーダーの一般原則

リーダーに共通の能力や人格の基本型は唯一つではありません。リーダーの人柄は重要ですが、何が不可欠かは状況によって異なります。

設立早々で苦闘している会社と、大規模で安定している会社とでは、必要なリーダーシップは違います。一つの会社でも、部門が異なるとリーダーシップに必要な才能や手腕は違います。

会社での地位によってもリーダーシップは違います。例えば、職長と社長が同じ種類のリーダーであるとは言えません。

才能や人柄が異なっているリーダーが、ある与えられた状況でお互いに交代した場合でも、同じようにうまくいくことさえあります。

ある人の特定の性格の弱さを、他の人の強さによって補えることがあります。経営幹部が集団指導をしている場合、メンバーの異なる才能を補い合っています。

結局、かつてリーダーにとって不可欠だとされてきた特性によって、リーダーの成功や失敗を区別することができないということが分かります。

多くの特性の中で不可欠な手腕や態度は、学習によって、身につけたり、改めることができます。計画し行動する能力、問題を解決する能力、広く人々と意見交換して活用する能力、責任を引き受ける能力、人間関係を扱う能力などです。

関係としてのリーダーシップ

リーダーシップには、少なくとも次の大きな変動要素があると言われています。

  1. リーダーの特性
  2. 部下の態度、欲求、その他の個人的特性
  3. 組織の目標、構造、果たすべき職務の性質などの特性
  4. 社会的、経済的および政治的環境

リーダーに必要な個人的特性は、その他の要因によって変化します。そこから、リーダーシップは個人の特性ではなく、これらの変動要素の複雑な組み合わせであるという考え方が出てきます。

リーダーとその環境は相互に影響し合うので、相互に原因となり、結果ともなります。したがって、環境によって、ある種のリーダーが淘汰されるということが起こります。

Y理論においては、相互依存の関係を円滑にすることを重視し、それを実現するための監督者の手腕と態度を要求しますが、これを習得する人々の生まれつきの人柄や能力は多様です。

管理者を訓練して一つのリーダーの型に当てはめようとするよりも、自分自身に合った方法で、自分自身の特殊な環境に十分配慮して、必要な条件を創り出そうとするほうが、うまく行くのです。

もちろん、管理者がそれらの条件を創り出すときに、経営者の考え方や組織構造がにプラスになったり、マイナスになったりします。

リーダーシップは準備できるか

企業が置かれた環境の変化を長期に渡って予測することはできませんから、必要なリーダーの人間的特性を予測することも不可能です。

経営者の主な仕事の一つは、いろいろな型の人材プールを作り、必要を満たす人材を選択できるようにすることです。

いろいろの供給源に対して門戸を開くことも必要です。管理者教育は、社内の選ばれた少数に対してではなく、多くの人々を対象にすべきです。

経営者はすべての教育参加者に同じ目標をもってするよりも、個々人特有の能力の開発を目指すべきです。

異なった人材の開発は、継続して行う必要があります。開発した人材は、実際に活用できるよう、会社の昇進方針を決める必要があります。

リーダーシップが、リーダーとその環境との複雑な組み合わせで決まるとすれば、将来有望と目される人材のすべてが、経営陣候補とはなり得ないことを認識する必要があります。

職長として、工場長として、専門家として、あるいは経営陣として、優れたリーダーになる人材はそれぞれ異なっていると考えられます。

それぞれの従業員に相応しい仕事を与え、その持っている能力を最大限に伸ばすことができるようし、相応しい遇し方をすることによって、どんな地位にあっても優れたリーダーシップを発揮すれば大切にしたいと考えていることを、従業員に伝えていく必要があります。