戦略プランニングの活用と誤用 − ルメルトの戦略論㉓

リチャード・ルメルト(Richard P. Rumelt)は、戦略論と経営理論の世界的権威で、ストラテジストの中のストラテジストと評されています。

この記事では、『良い戦略、悪い戦略』(GOOD STRATEGY, BAD STRATEGY)および『戦略の要諦』(The Crux: How Leaders Become Strategists)を基に、ルメルトの戦略論を概説します。

戦略プランニングが始まったのは、第二次世界大戦中のアメリカでした。戦争遂行を後押しすべく、民間の生産を計画・管理するために用いられました。

ジョージ・A・スタイナーは当時の優れたアナリストで、戦時中、金属および各種加工品の生産・物流計画の立案に携わり、戦後はプランニングの専門家として認められるようになりました。

スタイナーの提唱する戦略プランニングは、経営幹部による長期的視点に立ち、予測が中心でした。大きな流れや主要なイベントが予測可能であり、その予測に基づいて今日投資する気概を組織が持ち合わせていれば役に立つでしょう。

ところが、多くの組織では、未来のためにとっておくべきリソースを目先の需要のために使い尽くしてしまいます。経営幹部に求められる気概は欠片も見当たりません。

ミッション・ステートメント

やる気を起こさせる方法として現在人気なのは、長持ちする有意義な目標を掲げることです。

「ビジョンやミッションが明確でなかったら戦略を立てられるはずもない」などと言われ、ビジョン、ミッション、価値観などいくつものステートメントを打ち出すことが要求されます。

しかし、順繰りに幾つものステートメントを作成するのは、単に時間の無駄です。多くのステートメントが必要だという主張には論理的裏付けがなく、それが有効だという証拠もありません。

ミッション・ステートメントから戦略を導き出せるとしたら、そのミッション・ステートメントはどこから来たのでしょうか。答えは、ビジョン・ステートメントからであるようです。ビジョン・ステートメントはコアバリュー・ステートメントからです。

ルメルトによれば、会社を率いるのにビジョン・ステートメントもミッション・ステートメントもいりません。現在直面する変化やチャンスに対応する戦略を考え、実行すること自体がミッションを作り出すことです。

企業の戦略プランニング

1970年代から、多くの企業が「戦略プランニング」という言葉を使うようになったといいます。製品や製造のライフサイクルが数年、数十年に及ぶ場合には、戦略プランにはメリットがあります。

しかし、戦略プランニングは、多くの企業に期待した成果をもたらしませんでした。戦略プランが実際には実行できないという不満もよく耳にします。結局、競争環境を予測することは困難なのです。

しかし、根本的な問題は、戦略プランが戦略ではなかったことです。実際にやっているのは、売上高や利益といった財務目標がどうなるかを予想し、予想通りの実現を目指していただだけです。

それは一種の予算計画であって、重要課題に取り組もうするものではありません。プランニングの過程で幅広い問題を取り上げたとしても、すぐに議論の中心は財務指標に戻り、予算の割当という段取りになります。

CEOは、財務実績を投資家やアナリストに説明し、証券取引委員会(SEC)に報告するといったことに日々忙殺されており、報酬が財務実績や株価に連動していることも多いからです。

漠然とした戦略コミットメントで戦略をすっかり立てた気になっていることも、財務実績に注意が向きがちな理由です。