リチャード・ルメルト(Richard P. Rumelt)は、戦略論と経営理論の世界的権威で、ストラテジストの中のストラテジストと評されています。
この記事では、『良い戦略、悪い戦略』(GOOD STRATEGY, BAD STRATEGY)および『戦略の要諦』(The Crux: How Leaders Become Strategists)を基に、ルメルトの戦略論を概説します。
良い戦略は、最も効き目のあるところに知力やエネルギーや行動を集中させることによって威力を発揮します。
これはレバレッジ(テコ入れ効果)です。
的確な予測
レバレッジには的確な予測が重要です。競争に直面している企業の場合、顧客の需要や競争相手の反応を的確に予測できるかどうかが将来を決することになります。
戦略策定においては、すでに起きた出来事を起点にして、世の中の趨勢、経済や社会の動向、他の関係者の動きなどを手がかりに、下流で起こり得る出来事を予測するのが定石です。
予測には予知能力といった超自然的な能力は必要ありません。多くの場合、人々の習慣、好み、力関係や、変化を促す要因、阻害する要因を見抜くだけで事足ります。
支点を選ぶ
レバレッジを実現するためには、エネルギーやリソースの効果を数倍に高められるような「支点」を見つけなければなりません。
適切な支点を選んでテコを当てがえば、力は何倍にもなります。適切な支点は、自然に形成されたか人為的に作られたかを問わず、何らかの不均衡であることが多いといいます。
不均衡の例として、高まっているニーズに応える製品が提供されていない、開発された能力が十分に発揮されていない、他に応用が期待される能力があるのにそれが実現しない、などがあります。
長期の競争関係では、ライバルが持ち合わせている本来的な能力と現在の力との不均衡、見せかけの主張と実態との不均衡などにつけ入る隙きがあります。
集中
リソースには制約があります。制約があるからこそ、投入する対象を厳しく吟味せざるを得ません。
ある効果には閾値があります。閾値効果とは、あるレベル(閾値)を超えるまではほとんど変化が現れないけれども、そのレベルを超えれば一気に大きな変化が表れることを指します。
このようなケースでは、ターゲットを慎重に選び、手持ちのエネルギーやリソースを集中投下することが望ましいことになります。
閾値効果があると考えられているものに、例えば広告があります。少しずつ広い範囲に長い時間広告を出すのではなく、場所も時間も限定して大量に出すほうが効果があります。
一般に、大きな市場で小さなシェアを獲得するより、小さな市場で大きなシェアを獲得するほうが収益率は高いと考えられています。
組織で集中が生まれる要因として、経営幹部の注意や認識能力の限界があげられます。心理学的には、閾値以下のシグナルに気づかないか、無視するからこそ集中が生まれます。これを「サリエンス(顕在性)効果」と呼びます。
勢いづいていて成功が成功を呼ぶような好循環に入っているときも、集中が起きます。このような集中によって大きな成果をあげ、人々の注意を集め、世論をも変えた例は少なくありません。