貿易自由化の弊害とダブル・スタンダード − グローバリズムの正体⑥

貿易の自由化は、国の増収につながるとされています。資源を生産性の低い用途から高い用途へ移さざるを得なくなるからです。エコノミストは、これを競争力の活用と呼びます。

しかし、資源を生産性の低い用途から生産性ゼロの用途に移したとしたら、国は豊かになりません。これこそ、国際通貨基金(IMF)のプログラムのもとで頻繁に起こっていることです。

貿易自由化による雇用の破壊

貿易自由化の直後には、しばしば雇用が破壊されます。国際競争の圧力で、非効率的な産業が潰れるからです。

IMFは、保護貿易主義の壁に守られて形成されてきた非効率的な仕事が排除されれば、より生産的な新しい仕事が生まれるはずだと信じてきました。しかし、それは事実ではありません。

新しい会社や仕事が生まれるには、資本と起業家精神が必要ですが、発展途上国ではどちらも不足しています。前者は銀行融資がないためで、後者は教育がなされないためです。

IMFの緊縮プログラムには金利の引き上げが含まれています。これが成長に必要な資本のコストを高くしてしまうため、融資が進まなくなるのです。

また、多くの多国籍企業は、発展途上国における労働条件の改善を怠ってきました。参入してきたときの彼らには、儲かる機会をできるだけ早くつかもうという考えしかありませんでした。

東アジアにおける段階的自由化

最も成功した発展途上国の集まる東アジアは、確かに外の世界に門戸を開きましたが、それは順を追っての、ゆっくりした移行でした。

東アジアの国々はグローバリゼーションを利用して輸出を伸ばし、その結果として速やかに成長しましたが、保護障壁の撤去には慎重で、新しい雇用が創出されたのを確認してから、段階的に壁を取り払っていきました。

政府が新しい雇用や事業の創出に必要な資本が整備されるように手配し、新しい事業を促進するための起業家的な役割も果たしました。

貿易自由化への敵意

発展途上国の労働者の生活は生存ギリギリのところにあり、貯金や失業保険といったセーフティ・ネットもありません。失業率が20%を超えていることも稀ではありません。

貿易自由化は約束したことを実現できないどころか、失業率を高めるだけという例があまりにも多かったため、強い反対が起こりました。

先進国のダブル・スタンダード

貿易自由化への敵意を疑いなく強めたのは、これを推進する際に見られた偽善でした。欧米は自分たの製品に関しては、途上国に対して輸入の自由化を求めましたが、自国においては、途上国の競合品に経済を脅かされそうな分野について保護政策を取り続けました。

世界貿易機関(WTO)は国際貿易協定の交渉をするためのフォーラムですが、アメリカの貿易交渉担当者は、貿易自由化の推進とスピードアップを要求します。IMFは自由化プロセスの加速を援助の条件にします。危機に直面している国は、これらの要求に応じるほかありません。

アメリカ商務省の通商代表は、しばしば国内の特定の利害に突き動かされて外国を非難します。そこで行われる再調査に関わるのはアメリカ政府だけです。アメリカによって訴えられ、調べられ、判定が下され、制裁が科されることになるのです。

腐敗した政府の悪用

新規参入を図ろうとする外国の実業家が、発展途上国の政府を賄賂で丸め込み、関税による保護などの特権を与えさせる例があります。先進国の政府が介入する例も少なくありません。

そのようなことが横行するため、発展途上国の内部では、政府の干渉が当たり前で、おそらく参入業者から金をもらっているのだろうとの見方がますます強くなっています。

アメリカの閣僚が新興国に外遊するときに、実業家たちを同伴させ、訪問先の新興市場に接近を図り、参入の機会をつくろうとすることがあります。

ときには競争相手に対抗するために、政府の力が求められることもあります。

アメリカ政府も含めて、各国政府がやってきたことの中で最も重大なのは、発展途上国にきわめて不利な協定を、その国の腐敗した政府に調印させて、頭ごなしに守らせたことです。

こうした投資が大きな利益をあげるのは、役人への賄賂によって、政府から特権を取り付けているからです。

採掘権販売とオランダ病

外国からの直接投資は、民主的なプロセスを損なうという代価を払わなければ入ってきません。これが特に顕著なのが、採鉱です。

石油でも他の天然資源でも、外国企業は明らかに採鉱権を低価格で獲得しようと狙っています。途上国側も、採鉱権を売ることで貴重な収入がもたらされます。

しかし、開発とは社会変革です。国の遠隔地にある鉱床に投資されても、それは変革を支援することにはほとんどなりません。資本が生み出されるだけです。そこから富の偏在する二重経済が生じます。

資本の流入が、逆に開発を妨げることがあります。資本の流入によって通貨価値が高騰し、輸入品が安くなって、輸出品が高くなるため、国内の他の輸出産業が深刻な打撃を受けるのです。これは「オランダ病」と呼ばれ、北海の天然ガスを発見した後のオランダの経験に由来しています。

資本が手に入ると動機が変わりやすいのも問題です。資源に恵まれた多くの国では、エネルギーを富の創出に使おうとせず、天然資源に関わる収益を追求する努力ばかりがなされるようになります。

豊富な資源からくる富が腐敗を加速させ、国の財産の支配権を巡って内紛を繰り返す特権的なエリートを生み出すこともあります。

IMFは、こういった様々な問題を無視する傾向がありました。IMFによる雇用創出のための処方は単純でした。政府の介入を排し、税金を減らし、物価上昇率をできるだけ低く抑え、外国事業の参入を促せというわけです。

そのような考え方には、宗主国意識が反映されています。発展途上国は自分で事業を興せないのだから、外国に頼るしかないだろうという意識です。