行動方針、基準および手順 − マッキンゼー マービン・バウアーの経営論④

この記事では、マービン・バウアーの経営論について、『マッキンゼー 経営の本質』(ダイヤモンド社)に基づいて説明してみたいと思います。

「行動方針」とは、戦略を実行するときに、あらゆるレベルの具体的な行動の指針となるべきものです。

「基準」とは、戦略の実行において参照すべき業務基準や評価基準を指します。

「手順」とは、重要な仕事や反復的な作業の進め方に関する決まりのことです。

これらはいずれも、戦略計画を実際の業務として動かし、成果をあげて目標を達成するうえで重要な経営プロセスです。

行動方針とは

行動方針とは、ある状況でどう行動するかを決める基本的な考え方を意味します。

事業を進めるうえで社員全員が守るべき大まかな針路を示すために、行動方針を掲げます。その方針は経験に基づいて作成され、時の試練を受けます。

社員であれば地位の上限を問わず、そうした方針を通して会社の大原則を理解しなければなりません。行動方針は、会社の意思、決定、行動の憲法です。

行動方針は、適用する条件をはっきり決めておかないと効果を発揮できません。ですから、方針を立てるときには、どんな状況があり得るか、その時どうすべきか、網羅的に考えておく必要があります。行動方針の実行に係る費用その他の影響、方針を立てなかった場合の影響なども考慮します。

行動方針は、顧客に向けて表明することによって、顧客から信頼を勝ち得、好ましい企業イメージをつくりあげることに一役買うことができます。

行動方針は基本的な考え方ですから、あらゆる行動を細かく決めて押し付けるものではありません。管理の行き過ぎは、社員を無能扱いすることになります。誰もが自分たちの裁量や判断の余地を望み、常識を信用して欲しいと思っています。

経営理念において「これが我々のやり方」という確たるものが示されていれば、行動方針を定めるには及ばないような業務で、経営理念そのものが行動指針の役割を果たしてくれます。

戦略と行動方針の関係

行動方針は、戦略計画を実行する時の案内役です。

戦略と関連づけられた方針は、経営システムを構成する要素として社内に広く浸透し、社員が折りに触れて確かめる指針となり、結果的に戦略の効率的な実行につながります。

行動方針の効果

競争力を生み出すのは単純明快な行動方針です。方針は環境の変化に応じて修正されるものではありますが、しかし揺るぎなく守られなければならないものです。

行動方針を貫く企業は、組織として力を発揮しやすく、無駄なコストは省かれ、好ましいイメージも確立できます。

行動方針を決めるには

行動方針は簡潔である必要があります。事実に基づき、現状に即し、事業環境の変化を考慮します。常識に反せず、時代を超えた価値観に支えられている必要もあります。

まず、行動方針が適用される状況について、事実を集める必要があります。特に社外でのデータ収集が大切です。行動方針を決めるのは個人(責任者)の判断であるとしても、情報分析の段階で事実と意見を混同してはいけません。

最善の行動方針は、一定の状況で取り得るすべての行動を吟味したうえで生まれます。行動方針を決める前に何通りもの行動を具体的に想定し、その行動の結果(想定外の影響など)やコストについても考慮して、最適な行動を選びます。

基本的な条件が変わったら、行動方針も再検討する必要があります。時間の経過や技術・地理的条件の変化、競争への対処、経営陣の刷新、政治・社会動向の影響、人口構成の変化などは、新しい条件をもたらします。

行動方針がシンプルで永続的な価値に根ざしていれば、軌道修正の幅は小さく、行動の一貫性は保たれやすいでしょう。

修正が必要になるまでは、行動方針は首尾一貫して守ります。例外を認め過ぎると、方針として成り立ちません。方針は徹底されないと効果が上がりません。経営幹部に対する尊敬も失われます。経営の意思は、方針を守り抜く姿勢に反映されます。

基準とは

基準(実績や行動の測定・評価基準)も、戦略に沿った行動を促す役割を果たします。基準が整っていれば、行動方針は一段と明確になり、効果が高まるはずです。

方針がはっきりした基準を伴っていれば、社員は方針をどう守ればいいかが分かるので、スムーズでスピーディーに方針を運用できます。

倫理規範は別として、基準は高ければよいというものではありません。費用対効果のバランスが最もよくとれている基準が最適であり、長期的な利益は最大化されます。

ところが、上司が高すぎる基準を設定し、部下に押し付けることがあります。この場合も、経営システムが機能していれば、上司が提案した基準に対して部下は意義を申し立てることができます。

基準を設定する手順は、方針を立てる手順と似ています。考えられる選択肢をできるだけたくさん用意し、それぞれに伴うコストや予想される結果を検討して、費用対効果のバランスが最もよくとれている選択肢を選びます。

手順とは

手順とは、基準に従って方針を運用する時の段取りを説明したものです。行動の進め方を具体的に指図するので、コストや生産性に直接絡んできます。

基準を完全に満たせるかどうかも、手順によって決まってくることがあります。

今の手順でよいのか、もっといい手順はないか、常に改善の余地を検討します。

特に複数の部門にまたがって手順が運用される場合、部門のトップ、場合によっては全社のCEOしか作業全体を俯瞰できる人がいないので、改善がなされにくくなります。

文書化する

行動方針・基準・手順は、守られなければ行動の指針とはなりません。社員がそれらを知らなければ、守れないのは当然です。

したがって、それらは文書化される必要があります。社内に掲示するほか、マニュアルやガイドの形にまとめ、いつでも見られるように配布すべきです。

文書化すれば、関係者全員にスムーズに伝達できます。書き表す作業を通じて、その内容が綿密で漏れのないものになります。文書が回付されることによって、より多くの事実、イマジネーション、代案、視点が付け加えられます。

行動方針等から影響を被る人がすべて、それらの見直しプロセスに参加すれば、最終方針等は明快でわかりやすいものになるでしょう。