製品リーダー企業の価値基準 − マーケット・リーダーになるために必要な価値基準②

この記事では、マイケル・トレーシーとフレッド・ウィアセーマの著書『No.1[ナンバーワン]企業の法則』(THE DISCIPLINE OF MARKET LEADERS)について紹介します。

本書には、市場でナンバーワンになり、その地位を維持するために必要となる3つの価値基準について書かれています。

価値基準の第二が「製品のリーダーシップ」です。性能の限界をとことんまで追求する製品の提供に専心します。

顧客は、ただ一回の革新的な商品に数限りない改良を加えるだけでは、感動しなくなりました。製品リーダーになるためには、革新的な製品を次々と着実に生み出していけることを示さなければなりません。

顧客は、製品の性能について、企業が考えているよりも遥かに幅広い感覚を抱いています。目に見え、実際に体験できる便益を求めており、理性にも感性にも訴えてくるような性能を革新的な製品が発揮することを期待しています。

オペレーティング・モデル

製品リーダーに必要なオペレーティング・モデル(価値を提供するための最適な手段の集まりであり、経営システム、ビジネス構成、企業文化などで構成される)は、エジソンが開発した諸原則に基づいています。

エジソンは、ありえないと思われることを実現する夢を追うことによって、組織を燃え立たせる必要があると信じていました。つまり、突破口となる製品群が、企業の栄養剤になると考えていたのです。

エジソンは、人的資源を最も有望なプロジェクトに注入できるよう定期的に組織を再編しました。エジソンが重視したのは、作業工程ではなく、特別に才能豊かな個々人でした。

従業員の仕事の構成を決めるものは、特定の機能ではなく、製品の創造でした。新製品の開発作業が始まる前に、まずインスピレーションでビジョンを描き、そのビジョンを実現させることが仕事のプロセスでした。

製品リーダーの製品開発の特徴は、顧客の声に卑屈に耳を傾けないことです。顧客が企業のために次の突破口を開く新製品を定義してくれることはありません。製品を創造し、定義することが開発の第一歩であり、それは企業における判断です。顧客の意見は参考に過ぎません。

エジソンが求めた人材は、それぞれの分野での適性能力に優れ、天性好奇心に富み、ほとんど不可能に近い目的にあえて挑戦するエネルギー満々の人材でした。まさに自分と同じように考え、行動する発明的で実行力のある人材を育てていたのでした。

今日の製品リーダー企業も、野心に富み、自由な思考ができる卓越した人材の有無こそ成否のカギを握ると心得ています。

エジソンは、野心的な目標を掲げることによる動機づけの力も活用しました。高尚な目標が創造心を掻き立てました。

エジソンは、目標達成に必要な段階がどのようなものかを探るため、目標から逆の方向に思考をめぐらしていきました。これも製品リーダーに共通する特質の一つです。

一度突破口を開く製品をつくっても、なかなか売れるものではありません。本当の新製品は、最初のうち需要がほとんどない場合が多いからです。

ですから、新境地を開く製品の開発と手を携えて、マーケットの育成を進めていく必要があります。マーケットを用意し、潜在顧客を教育しなければならないのです。

新境地を開いた製品は、販売需要を自然のレートで伸ばしていきます(「革新の拡散レート」)。そのカーブはS字状を描き、初めはゆっくり、次に急ピッチ、それから横ばいという形になります。

製品リーダーにとっての挑戦は、この拡散レートをより早いものにすることです。実物大の見本展示、初期の愛用者募集計画、大規模なマーケティング教育などが、取り組みのレパートリーです。

なお、新製品をマーケットに出すには、大々的なコミットメントと巨額の投資が必要です。新製品開発には複雑極まる最新技術を使うので、専門研究スタッフを擁するのも難しい問題です。

さらに、今日の巨大かつ膨らむ一方の知識ベースにも、大きなリスクを伴います。これによって、競争相手にも革新のための数多くの機会とアイディアに道が開かれるからです。

製品リーダーは、コストとリスクの相乗効果で成功をふいにすることがないよう、開発活動をうまく管理することが重要になります。

資源の優先配分

製品リーダーにとって、アイデアの数は限りない一方で、投資にまわす金額には限りがありますから、明確なふるい分けの基準を設けることによって、資源配分目録を速やかに絞っていく術を心得る必要があります。

開発期間中には、前途に最も有望とみられる機会に向けて資源の優先的に配分します。その結果生まれた製品のマーケット・ライフサイクルの続く限りは、その製品に向けて配分します。

絶えず、いま活動しているプロジェクトないしマーケットに向けて資源を移動し続けます。

先行き不透明の事業からは、不確実要因を取り除くためのあらゆる努力を惜んではなりません。しかし、最後は、経営トップがビジョンを描き、洞察し、会社の明日の方向を定め、または定め直します。

機能とプロセスの役割

製品開発プロセスを、流れのいい、反復可能な、よく整備された一連の活動に転化させる必要があります。

ただし、システムから無駄を排除し、全員が効率のいい方法を遵守し、指定された手順を厳格に守っていくようにさせるだけでよい、というわけにはいきません。

一般的な実務手順と構造上のプロセスがあっても、個々人の行動を駆り立てるようにうまく設計されていなければ、そのプロセスは機能しないからです。駆り立てる要因は、問題解決に対する渇望と官僚主義に対する嫌悪です。

人々がが心身ともに何の屈託もなく伸びやかに活動できるようにするため、効果的な総合調整力を発揮し、発明の才と規律とをうまく調和させなければなりません。

こうした調和融合の妙を達成するたには、いくつかの原則があります。

第一の原則は、社員を常に決められた軌道の上に乗せておくことです。そのために、それぞれの仕事が明確に定義された結果目標と厳しい締切時間を課されるようにします。

第二の原則は、威圧感のない組織にすることです。大企業の場合、小企業の起業家精神の美点を活かすべく、チームや各種集団に分割します。場合によっては、研究実験室を本社から隔離します。

第三の原則は、最大の配当を生み出す手順・過程に力点を置くことです。この意味するところは、通常、製品開発努力の最終局面を重視することです。取り返しのつかない失敗に気づいて手遅れにならないようにするため、機能横断的に仕事をし、いちばん最近の開発段階に注目します。誤りがあるとすれば、その段階に根因があるとして、その解明に全力をあげます。

開発サイクル一巡の時間を半分に縮めれば、同じ時間で2倍の数のタマを打ち込むことができることになります。しかも、開発プロジェクトのスタートが遅ければ遅いほど、最新の顧客情報と技術の恩恵に浴する可能性が大きくなります。

開発サイクルを縮める要因の一つは、機能横断的なチーム編成です。ただし、そのプロジェクトに応じてチームの規模は大きくなることがあり、100人を超えることさえあります。

コミュニケーションを考慮すれば、チームの規模は小さいほうが運営しやすいので、チームが大きすぎる場合、製品の構成をブロックに分け、それに応じてサブチームに分担する方法があります。

サブチームが十分に小さければ、その内部のコミュニケーションは難しくありませんが、サブチーム相互間のコミュニケーションが必要になれば、再び困難な問題が生じます。このような場合は、チーム同士がどう話し合うべきか、明確なガイドラインをあらかじめ作っておくことが効果的です。

サブチーム間の進捗に差が生じてきたときは、人材を融通し合うなど、追加的な支援が必要です。

人材こそ製品リーダーの最大の資産

製品リーダーの基本原則は、何にも増して有能な人材が自社の成功をもたらす実行者であり、また究極的には新境地を開く発明は個人の力から生まれるものである、ということです。

だからこそ、トップ経営陣は、才能ある人材の発掘、刺激、育成、指導、確保に心と時間を砕きます。その結果、採用する人物には、大幅な自由を与えます。

従業員の潜在能力を伸ばす手段として、厳しい挑戦を課したり、同僚へのライバル意識を刺激したりします。同僚たちは互いに切磋琢磨してベストの存在となり、それぞれが相手の水準と成績レベルを上げていく効果をあげます。

ただし、従業員には、与えられた重要な目標の他には余計な制約をなるべく課さず、臨機応変に対処できるようにしてやります。その代わり、従業員の想像力を刺激するために必要なことは何でもしてやります。

有能な人材への最高の報奨は、今よりもっと挑戦的な使命を課してやることです。有能な人材を組織の一箇所に閉じ込めておいてはいけません。

経営者は、有能だが変わり者でもある従業員に対し、彼らが機能横断的なチームの中で協力して働いていけるよう保証してやらなければなりません。

リーダーとしての強みを活用する

顧客は、新製品が余分なコストをかけるに値すると感じ取らなければ、プレミアム価格を払おうとはしません。

製品のライフサイクルに合わせて価格を調整するには、初めは新しくかつ独特だと言われたものでも、間もなくその輝きを失い始めることを頭に入れておく必要があります。

顧客に訴えていた価値も下がっていきますから、企業も製品価格を下げていかなければなりませんが、値下げの時期は長期的に見た利益を最大限にするよう慎重に決める必要があります。

新しいコンセプトが市場で成功するには、よく理解されるよう巧妙な宣伝が必要です。しかし、大宣伝にもかかわらず十分に理解されないときは、最初の価格を低く設定せざるを得ません。

顧客の理解度は次第に高くなっていくはずですから、その製品が根を張り、顧客がその真の価値を認めるようになれば、製品リーダーは価格を本来の水準に上げることができるでしょう。

製品リーダーの活力の源泉は製品の突破口を開くことにあるとはいえ、製品の種類の拡張にも積極的です。少し違ったニーズを持つ新しいセグメントの顧客開拓を促し、需要を増やすからです。

製品リーダーの特徴は、価値を生産するオペレーティング・モデルを駆使して、競争相手に代わって自分で自分の革新的製品を引退させていくことです。

一つの新製品で市場を制圧するや否や、もうそれを時代遅れのものとして駆逐する方法を考え始めます。チャンピオンと同時に挑戦者になろうとすることによる緊張が、躍動の原動力です。