この記事では、マイケル・トレーシーとフレッド・ウィアセーマの著書『No.1[ナンバーワン]企業の法則』(THE DISCIPLINE OF MARKET LEADERS)について紹介します。
本書には、市場でナンバーワンになり、その地位を維持するために必要となる3つの価値基準について書かれています。
価値基準の第一が「オペレーショナル・エクセレンス」(経営実務面での卓越性)です。市場で平均的な製品を、最良の価格で、しかも最も面倒が少なくてすむ形で提供しようとするものです。
オペレーショナル・エクセレンスの事実上の発明者はヘンリー・フォードです。「効率的生産」という概念で自動車製造帝国を建設し、その考え方を全社に余すところなく浸透させました。
オペレーショナル・エクセレンスが高く掲げる旗は「最低の総コスト」です。顧客に関わるあらゆるコスト(価格、購入に費やす時間、修理の不便さなど)の総計が安いことにおいて、他社にひけをとらないということです。
「最低の総コスト」によって強調するのは、信頼性と永続性です。それらが顧客の将来のコストを安くすると考えています。
利便性も重要なコスト要因です。がっかりしたり、イライラしたりすることも、顧客にとってはコストであり、迅速かつ信頼できるサービスの提供によって、これらのコストも最低限にしようとします。
最低総コストのサービスを提供するための価格・信頼性・利便性の組み合わせは、企業によって異なるとしても、手順化され、規則化され、高度に編成された効率的手段を追求することにおいては共通します。それは努力の効率に加えて総合調整の効率です。
標準化された資産と効率的な作業手順が企業の背骨をなしているため、コストの負担を強いるような変化を嫌います。需要が巨大で、顧客がコストに関心を持つマーケットに対し、余計な飾りを一切つけない製品・サービスを提供します。
人事管理
オペレーショナル・エクセレンスの運営では、チームの仕事が重要です。全員が計画とルールを知っていて、それぞれに何をなすべきかを心得ています。
教育可能な人材を欲し、その企業の精神を徹底的に叩き込みます。
優等的な従業員とは、チーム・プレーヤーとして最高の人材であり、同僚に認められることが最大の名誉です。
効率的な取引
ヘンリー・フォードは、自社内に完全な縦割り一貫生産を作り上げました。活動のすべてを総合調整することによって、全体間の取引コストを低下させました。
今日では、全体の取引を実質的に一体化することができるようになっています。自社とその供給、流通業者を、単一の生産供給チームの構成員であるとみなしています。お互いの結びつきを合理化することによって、重複、遅延、複雑な支払い関係をなくしています。
例えば、供給者に自社の在庫管理の責任を負ってもらうことによって、供給者の製品の流通をスムーズにし、末端への供給コストを引き下げることができます。
オペレーショナル・エクセレンス企業と取引をしようとするなら、自らもまたオペレーショナル・エクセレンス企業にならなければなりません。
情報技術
オペレーショナル・エクセレンスを可能にする重要な技術の一つが、情報技術です。
情報技術も、それに適合した組織上の規律がなければうまく機能しません。中央に集権化され、統制のよくとれた、標準化された業務構造が必要です。
情報システムは、核となるオペレーティング・プロセスの中でのみ活用されるわけではありません。厳しい品質およびコスト管理を維持するための計画と監視、経営上の決定を下す際に使う詳細なデータも、情報システムから出てきます。
オペレーションの統制範囲を広げたり、顧客サービスを向上させるために、移動携帯技術を積極的に取り入れています。
顧客サービス
顧客の総コストを大幅に引き下げようとする努力は、顧客サービスの面でも、時間の無駄を徹底的に削減しようとします。
通常、他社から買い付けをする企業は、その支払業務を司るのに多数の人員を配置して、供給者からの請求書に間違いがないかどうかをチェックしようとします。顧客もまた、忙しい自分の時間の一部を他人のミスを訂正することに割いていく習慣から抜け出せません。
しかし、オペレーショナル・エクセレンス企業は、総コストを最低にするために、自社のサービスを、努力を必要とせず、欠点のない、しかも即時提供できるものにするよう万全を期します。
これを成し遂げるため、顧客サービスのサイクルを再設計し、製品の選別、発注、受取、支払い、メンテナンスという作業を仮借なく合理化します。
多様性は効率を損ないますので、やり方を一つに絞ることが大事になります。顧客を自社のやり方に馴染ませることも重要です。その代償は、低価格と効率を手に入れることができることです。
成長の重視
オペレーショナル・エクセレンス企業が、最良の総コストという比類なき価値理念を提示することによって得るものは「成長」です。
成長は3段階の総合的な方法によって達成されます。まず、一定の堅実な量のビジネスを確保して、持てる資産を継続的に稼働させます。ついで、既存の資産を活用するための新しい用途を開拓します。最後に、この方式を他の市場でも繰り返します。
ただし、資産の稼働率を高くかつ堅実に保つための需要管理には、2つの落とし穴があります。
一つは、需要に応えようとする管理姿勢が複雑な要素を持ち込み、それがコストを増やすことになりやすいことです。変化に富むことは、効率を失うことにつながります。
もう一つは、需要をシフトさせる手段として低価格と販促活動を使うと、特別扱いを受けられるまで購入を控えたほうがいいと顧客に教えることになってしまうことです。そうなると、需要は実際には減ってしまいます。
これらの落とし穴にはまらないように注意する必要があります。