キュロスは、支配権を維持するための様々な制度をつくりましたが、彼の後を継いだ王たちもその同じ制度を維持し続けました。
しかし、法が統治を決するわけではありません。指導者がよければ法は厳正に適用されますが、指導者が悪ければ法の運用も悪くなります。
法は王だけで運用できるわけではありませんから、法の執行者として様々な役割の者を配置する必要があります。部下は上司を模倣しますから、王こそが最高の模範となるべき優れた者でなければ、部下たる執行者もまた必ず堕落する者となります。
キュロスは、広大な領土の統治を自分と一緒に監視する者たちを優れた人物にするための配慮こそ、自分の手でなさねばならない最優先の役割であると考えました。
何より、自分こそ優れた資質を研かなければならないと決意しました。自分が手本となるべき人物でなければ、他の者たちを立派で優れた行為に向かわせることなどできないと思ったからです。
中央集権国家体制の整備
キュロスはいろいろな部署にそれぞれの係官を配置しましたが、この成功を自分と一緒に監視する者たちを欠かせないと考え、その者たちをできるだけ優れた人物にするための配慮は自分の手でなさねばならないと考えました。
戦わなければならなくなったときは、最大の危機を共にしなければならない者たちの中から、自分の脇と背後を固めて戦ってくれる者たちを選ぶ必要がありました。
この者たちの中から、歩兵隊と騎兵隊の中隊長たち、彼が不在の場合の司令官、諸都城と全種族の監視官と太守、戦わずして必要な物を入手するために送るべき使節を任命すべきであると考えました。
キュロスは、これらの人物を確保する役目を自分が引き受けることにし、自分も同じように優れた資質を研かなければならないと決意しました。自分が手本となるべき人物でなければ、他の者たちを立派で優れた行為に向かわせることなどできないと思ったからです。
彼がこの重要な任務に従事できるようになるためには、十分な時間を確保する必要がありました。広大な領土を統治するには多くの出費も避けられないため、収入も無視することはできませんでした。
行政が優れて行われると同時に時間を確保できる方法を考察した結果、軍隊の階層構造による指揮命令体制に倣って、国家機構を中央集権化しました。
貴族たちの宮廷への出仕
キュロスは、他の者たちの労働で生活できる者たちを宮廷に出仕させました。宮廷にいると支配者の側におり、最も優れた者たちにより自分のすることをいつも見られていますから、悪いことも、恥ずべきこともしようとしないと考えました。
出仕しない者たちは、何かやむをえない事情から、あるいは不正のために、さもなければ怠惰だから出仕しないのだとみなしました。
出仕しない者を強制的に出資させるために、キュロスはいくつかの方法を使いました。出仕しない者の財産を没収する方法、出仕している者たちに最も楽で利益の得られる仕事を命じる方法、出仕しない者たちにはいかなる物も与えない方法などです。
出仕しない者から財産を没収した場合、他の信頼できる者(必要な時にいつでも出仕してくる者)に与えました。
出仕した部下たちに、キュロス自身が誰にも増して徳を身に着けた者であると示す努力をするなら、彼らの支配者としてとりわけ立派で優れたものを求めさせられると考えました。
命令を下し、無法な者を見て罰することができる優れた支配者は、それ自体が目に見える法律であると考えました。
神々への畏敬
優れた支配者の態度ということにおいては、神々をさらに畏敬する自分を示すということも重視しました。マゴス(神に仕える者)を任命し、夜が明けると神々への賛歌を歌い、マゴスたちが指示した神々に毎日犠牲を捧げました。
この行為を他のペルシア人たちも真似ました。なぜなら、もっとも幸福な支配者であるキュロスがしているように神々を敬うなら、自分たちももっと幸福になれると信じたからであり、またキュロスにも気に入られると思ったからです。
キュロスは、自分の部下たちの敬虔が自分にもよい成果をもたらすと考えました。キュロスは自分を仲間たちの援護者とみなしていましたので、仲間がすべて神に敬虔の念を持てば、互いにも、彼自身にも無法な行為をする傾向はさらに少なくなると考えました。
友人や味方の者には決して不正を加えず、正義を厳しく見つめることを重視する点をも明示するなら、他の者たちも恥ずべき利得を手に入れず、正道を歩むことを一層望むようになると考えました。
謙虚と節度
自分がすべての者に恥ずべき言動をとらないようにして、すべての者に対して謙虚であるのが明白になれば、すべての者を一層謙虚にさせると考えました。
人は、支配者といった恐れを抱く者に対して謙虚になることは普通のことですが、恐れを抱く必要がない者に対しても謙虚になれる人に対しては、自分も謙虚に対応しようと思うものです。
部下は上司の真似をします。支配者が優れた者とみなされる場合であっても、部下に対して尊大にのみ対応し、何ら敬虔さを示す対象を持たないなら、その部下もまた、自分の部下に対して同じような対応をするでしょう。部下から見て偉大なる支配者が、敬虔さと謙虚さを日頃から部下に示すなら、部下もまた、自分の部下に対して同じような態度を示すようになるでしょう。
素直に服従する者たちを、最も偉大な、苦労に満ちた功績をあげる者たちより尊重すると明示すれば、とりわけ自分の側近たちは服従することを変わることなく心に銘記すると考えました。
キュロスは、自分自身が節度を守ることを示して、すべての者にも一層節度を守る訓練をさせるようにしました。
キュロスは謙虚と節度を区別しました。謙虚に振る舞う者たちは、人の目につく恥ずべき行為を避けますが、節度を守る者たちは、ひと目につかない恥ずべき行為をも避けると考えました。
自分が一時の快楽によって善事から引き離されることなく、進んで苦労した後に初めてすばらしい楽しみを得ていることを示せば、節度がもっともよく覚え込まれると考えました。
キュロスは、宮廷で下級の兵士たちに規律を厳しく守らせて上官たちに服従させ、互いに極めて謙虚に振る舞わせ、折り目正しい行動をとらせました。
兵士の戦闘訓練
キュロスは、戦闘訓練のために、兵士たちを狩猟に連れ出しました。狩猟は、戦闘にとり最善の、馬術にも最適の訓練であると考えたからです。
支配者は、支配される者たちよりも優れていなければならないと考えていましたので、キュロス自身が自制と戦闘技において最も厳しい訓練をしました。
競争心と栄誉
キュロスは、良いことをとりわけ熱心に求める者たちを見ると、彼らを贈り物、官職、栄誉のある席、その他のあらゆる褒賞で称賛しました。
すべての者が彼からできるだけ優れた人間に思われたいと願うように、彼は各人に激しい競争心を起こさせました。
優雅な服装と立ち居振る舞い
支配者は被支配者を魅惑しなければならないとも考えていました。
ですから、服装にも気を使い、メディアの衣服を着用するようにし、統治関与者たちにも同じようにさせました。さらにメディアの習慣を取り入れ、目の隈取や化粧をするのがよいとも思っていました。
立ち居振る舞いにも気をつけ、特に政権関与者たちには、人前で唾を吐かない、鼻をかまない、何事にも驚かないなどの訓練もさせました。
これらの振る舞いもまた、被支配者から尊敬を受けるに値する者と見られるのに寄与すると考えました。