公式組織の成立と存続 − バーナードの組織論⑥

組織が成立するためには、次の3つの条件を満たすことが必要です。これらは相互依存関係にあります。

  1. 相互に意思を伝達できる人々がいること(「伝達(コミュニケーション)」)
  2. それらの人々が行為を貢献しようとする意欲を持っていること(「貢献意欲」)
  3. 共通目的の達成を目指すこと(「共通目的」)

3つの要素によって成立した組織の存続は、協働体系に貢献しようとする個人の意欲にかかっています。

貢献意欲には、目的が遂行できるという信念が必要です。これが組織の「有効性」です。

貢献意欲を継続させるためには、目的を遂行する過程で、各貢献者が、犠牲(貢献の負担)より大きな満足を得ることができなければなりません。個人的満足の総合が、組織の「能率」です。

組織の成立および存続は、その体系の均衡を維持し得るかどうかに依存します。第一次的には3要素の内的均衡が必要ですが、究極的には組織という体系とその外的な全体状況との均衡が必要です。

組織の有効性と能率は、いずれも外的均衡の条件です。前者では、環境の状況に対して組織目的が適切かどうかが問題です。後者では、組織の外部にあって組織に貢献しようとする個人に対して貢献以上の満足を提供し得るかどうかが問題です。

組織の内的・外的均衡に関わる諸要素は、外的要因とともに変化し、相互依存的です。したがって、体系が均衡を維持し、存続するためには、一つの要素の変化を補うように他の要素の変化が起きなければなりません。

組織の要素

協働意欲

組織を構成するものとして重要なのは、人間が提供する用役、行為、行動、影響力などです。これらは、協働体系に対して努力を貢献しようとする人々の意欲がなければ、十分に提供されることはありません。

ここで言われる「意欲」とは、克己、個人的行動の自由の放棄、人格的行為の非人格化を意味します。その結果、人々の努力の凝集、結合が可能になります。

貢献意欲は、個人によって一様ではありません。特定の組織にとって、大半の人々の貢献意欲はマイナスの状態であり、特定の誘因(インセンティブ)に応じてプラスの貢献意欲をもってくれる人は少数に過ぎません。

また、同人の貢献意欲も常に一定ではなく、断続的、変動的です。

組織の維持に当たっては、非常に数が少なく、かつ不安定な貢献意欲に対峙していることを自覚する必要があります。

個人が、ある協働体系に貢献意欲を持つためには、貢献によって得られる満足の可能性(誘因)が、貢献に伴う犠牲(負担)を上回っている(「純満足」がある)必要があります。さらに、その純満足が、別の協働体系に対して持つ純満足よりも上回っている必要があります。

評価尺度は、その個人の主観です。

目的

組織には目的が不可欠です。目的のないところに協働はないからです。目的が明示され、それを容認する人が協働に参加します。

目的は、協働する貢献者の立場から見て、協働的側面と主観的側面を持ちます。つまり、組織の貢献者は、組織人格と個人人格の2つの人格を持つことを意味します。

協働的側面とは、組織にとってのメリットという側面です。貢献者が個人的動機から離れ、組織全体にとっての目的の意味を考えています。組織の目的であると貢献者が信じているものです。

これは貢献者の個人的な解釈であるため、目的の客観的意味とは相違し、かつ各貢献者によっても相違している可能性があります。この相違が、ついには協働を分裂させることもあります。

ですから、協働が成り立つためには、目的を明示すると同時に、各貢献者の理解を一致させることも重要になります。共通目的であるという信念を貢献者に植え付けることが、基本的な管理職能です。

目的の協働的側面について述べましたが、そもそも、組織の目的は、それ自体、個人にとって直接にはいかなる意味も持ちません。

個人にとって意味を持つのは、個人に対する組織の関係です。組織が個人に課する負担、組織が個人に与えるメリットが問題です。これが、目的の主観的側面です。

目的の協働的側面もまた主観的解釈に違いありませんが、個人を離れて組織全体の目的をとらえようとします。目的の主観的側面は、組織の目的への貢献に伴う個人的な負担と満足を問題にします。

組織の目的と個人的動機とを明確に区別しなければなりません。両者を一致させるべきであるという議論もありますが、それはきわめて稀なことであり、思い込みであるか、個人的動機を無視しているかのどちらかである可能性が高いと考えられます。

伝達(コミュニケーション)

組織の共通目的と個人的動機を結びつけること、つまり、共通目的に貢献することによって個人的欲求が満たされることが、協働を可能にします。この状態を維持するために伝達(コミュニケーション)が必要です。

共通目的や、人々を協働に参加させる誘因をを知らせることは、伝達の重要な役割です。

伝達によって協働が維持されると考えれば、伝達技術が組織の構造、広さ、範囲などの組織形態を決定すると言えます。組織内の専門化は、本質的には伝達の必要のために生じ、維持されます。

組織の理論を突き詰めれば、伝達が中心的位置を占めることになります。

組織の存続

組織の有効性

組織は「有効」でなければなりません。つまり、組織の目的を遂行する能力を持たなければ存続することができません。その能力とは、環境条件に応じて適切な行為を行うことです。

組織は、一方で、目的を達成できなければ存続することはできませんが、他方で、目的を達成した組織は、自ら存続を終えます。

したがって、継続する組織は、新しい目的を繰り返し採用します。実際の組織は、一般的な目的を掲げながら、個別目的を次々と更新しているのが実態です。

ある企業が、「靴の製造」を目的として掲げている場合、実際には特定の種類の靴を製造しているはずです。そして、定期的に新製品を製造することで、実際上の目的を更新し続けています。

目的の一般化は、実際の協働の具体的目的を代替的に表現するものですが、永続的な組織という観点では重要な側面であると言えます。

組織の能率

「能率」は、協働体系に必要な個人的貢献の確保の程度を意味します。個人的貢献が確保できなければ、協働は成り立たず、組織を維持することはできません。

個人的貢献を確保するためには、個人から貢献を引き出すための誘因(貢献によって得られる満足の可能性)を提供できなければなりません。

したがって、「組織の能率とは、その体系の均衡を維持するに足るだけの有効な誘因を提供する能力である」と言い換えることができます。

組織を長期間にわたって維持するための誘因は、人間の本性を考慮すれば、物質的または貨幣的なものだけでは不十分です。非経済的な誘因も必要です。

例えば、物的生産を行う組織にあっては、技能や仕事の完成についての誇りを得るような条件を確保することがあげられます。