キュロスの人生は成功裡に過ぎ、年を重ねていきました。7度目にペルシアに戻った折、宮殿で眠っていると夢を見ました。とてつもなく大きな姿をした者が彼に近づき、「キュロスよ、準備せよ、お前はもう神々のもとに行くのだから」と言ったといいます。これにより、彼は死期が近づいていることを知りました。
彼は、ペルシアのしきたりに従い、神々に犠牲を捧げ、これまでの多くの立派な成果への感謝を捧げました。神々のご配慮を認識していたこと、自分の成功が人間の能力を超えると自慢することなど決してなかったことに感謝し、子どもたちや妻や友人たちに幸運を与えてくださるよう、そして自分の生涯に相応しい人生の週末を与えてくださるよう、神々に祈りました。
その後、キュロスは入浴もせず、食欲もなくなってきたので、息子たち、友人たち、行政官たちを呼び、最後の教育を行いました。
後継者の指名
2人の息子のうち、兄のカンビュセス(キュロスの父と同名)を王位につけ、弟のタナオクサレスをメディアとアルメニアとカドゥシオイの太守にする。
兄にはより巨大な支配権と王国の名前を残すものの、より実現の困難なことを熱望し、キュロスの業績に対する競争心に刺激されて平静にしておれず、陰謀を企てたり、企てられたりすることがつきまとうだろう。
カンビュセスにとって、黄金の王笏(君主が持つ象徴的かつ装飾的な杖)が王位を維持するのではなく、信頼のおける友人たちが王にとって正真正銘の確固たる王笏である。
人間が忠実な者として生まれついていると思ってはならず、各人が自分自身のために信頼すべき者たちを獲得しなければならない。信頼すべき者たちは、決して強制によって得られず、好意によって得られる。
カンビュセスが他の者たちにも一緒に王位を守らせる努力をする場合、同じ血筋の者、すなわち弟であるタナオクサレスより先に守らせ始めてはならない。兄弟こそ最も親しい者たちであり、兄弟のためを思う者は自分のことを配慮しているのであり、偉大な兄は弟にもっとも大きな名誉となる。
だから、タナオクサレスが最も早くカンビュセスに仕え、最も心を込めた援助をしなければならない。カンビュセスは、弟であるタナオクサレスに最も重視されても、他の者に嫉妬されることはない。
父であるキュロスを喜ばせようと心がけるなら、兄弟互いに尊敬し合え。
永遠の魂
自分がこの世の生を終えれば、もはや存在しなくなるという考えなど持っていない。子どもたちも同じ考えであると思っている。
魂は、人間の死すべき肉体の中にいる限り生きており、肉体から離れると死んでしまうというものではなく、魂が人間の肉体の中にいる限り、その肉体を活かしていると思っている。
精神は、肉体から分離され、純粋で汚れのないものになったときに、最も知性的になるのが当然であると信じている。
以上のとおり魂が肉体を離れるのであれば、自分の魂に畏敬の念を示して、自分の願うことをして欲しい。
神々への恐懼
そうではなく、魂が肉体の中に留まり一緒に死んでいくのなら、永遠に存在し、すべてを見そなわされ、あらゆる能力を持たれ、全世界のこの秩序を不滅の、不老の、無欠の、美と偉大さにおいて筆舌に尽くしがたい状態に維持される神々には、少なくとも恐懼し、不敬と瀆神の行為を決して行わず、また行おうとする考えを持ってはならない。
人々への敬意
神々の後には、たえず生まれ続ける人間の種族すべてに敬意を示さなければならない。それは、神々が兄弟2人を闇の中に隠されないから、彼らの行為はすべての者の目に耐えることなく明白に生き続けなければならないからである。
2人の行為が純粋で不正に汚れていないことが明らかになると、その行為はすべての人間に彼らを有力者として示すだろう。
しかし、互いに不正を意図し合うなら、2人はすべての人間に信頼されなくなろう。最も愛されるべき者が害を加えられるのを見れば、いかに努力しようと、誰も2人を信頼することなどもはやできないからである。
自分が死ねば、自分の身体は黄金の棺にも、白銀の棺にも、その他の棺にも横たえず、できるだけ早く大地に返して欲しい。すべての美しいもの、すべての良いものを生み出し、育てる大地と一体になることより幸せになることはないのだ。
自分はとにかく人間を愛していたし、今も人間に善事をもたらすものを共有することが喜びであると信じている。
最後の言葉
最後の言葉として、味方に親切にすれば、敵を懲罰することができるということを覚えておくように。
さようなら。