組織の「基礎様式」としての第二様式 − ブラウンの経営組織論⑨

この記事では、かつてアメリカの組織論における独特な一角を占めたアルヴィン・ブラウン(Alvin Brown)の『経営組織』(Organization of Industry, Prentice-Hall Inc., 1947)を紹介します。

企業の目的が単一かつ画一的でなく、純粋な努力の倍増をもってしては到底達成できないことが多いのですが、そういう場合には何らか別の様式が要求されることになります。

ここに、責任の分化が、数についてだけでなく、性質上からも存在することになります。

【原則】
  • 諸責任はそれらの範囲上分化し得る。これが、組織の基本的な形態である。

つまり、数人の受任者の責任の範囲が、委譲者の課業の全体ないしは委譲者の課業と等しい部分にまで及ぶのではなく、各責任の範囲が委譲者の課業とは何らか異なった部分に及ぶのです。

これが、組織の様式としてしばしば分業と呼ばれてきたものです。この様式を組織の「第二様式」と呼び、あらゆる企業に通じる組織の基礎的な様式です。

第二様式が適用される組織は、企業の数ほどの多様性を持っていますから、慣習に拘泥することはできず、他の企業を模倣してうまくいくことはありません。

わが社における経営活動における諸要件を考え抜くことが決め手です。

最高経営者と第一次委譲

株主から最初の全面的責任の委譲を受けた取締役会は、自身に留保したいと思う責任を除き、全ての責任を個人に委譲しようとするのが普通です。

これは、2人以上によるよりも1人の成員によるほうがよりよく遂行されるという原則を守り、また、グループによって監督を行使するには本来難点があることを考慮してのことです。

この個人は、最高経営責任者たる役員であり、時に取締役会の会長と呼ばれることがありますが、社長と呼ばれる場合が最も多いでしょう。

取締役会会長という肩書を持つ役員の責任を規定するには、その人が単に取締役会を主催するだけの役員か、それとも取締役会から委譲を受けた別個の責任を執行する役員かを区別することが重要です。

最高経営者(以下「社長」と呼びます。)への責任の委譲は、完全ではありません。当初の規定により、また引き続いて行われる経営活動上の実際によって、取締役会に一定の責任が留保されます。

社長は、取締役会の協議を経て、かつその認証を得た後、初めて行動することができます。

社長に対する委譲の範囲は大きいので、社長自身が最初に当たるべき組織上の問題は、自身の総責任を、適当な数の個別の責任に分割することです。これを「第一次委譲」と呼びます。

第一次委譲を行う際には、まず経営活動上の要件の詳細な分析を行ったうえで、次いで分析によって明らかになった経営活動の諸領域をいくつかの基準に従ってまとめます。

第一次委譲であるからとって、あまりに大括りな責任の分割を確定させた後に、個々の責任ごとに詳細な分割を行おうとすると、後々見落としが見つかり、最初からやり直す羽目になるでしょう。

経営活動の諸要素

組織者(社長自身または社長から組織責任を委譲された者)は、まず企業の目的と、目的の達成に必要な経営活動の性質とを考慮し、経営活動の部分を構成する努力(課業)の種類を決定します。

経営活動は、密接に関係した一つの全体ですから、これを相互に排他的な部分に分かつのは簡単ではなく、恣意が入らざるを得ません。

まずは、分類の的確性もさることながら、経営活動の諸要素を明確にすることです。

一般的な分割方法は、企業の目的を達成するための経営活動の流れ(順序)に沿って、業務(部門)を列挙するイメージになります。

例えば、調達、研究、開発、製造、営業、発送、配送、アフターサービスなどですが、ブラウンは、製造業を例に20以上の諸要素に分解します。

実際に分析してみれば分かるとおり、会計や総務的な要素のように、経営活動の流れの特定の位置にのみ関係するのではなく、様々な段階に関係する業務要素があることが分かります。

いずれの要素も企業の目的を達成するためのものですから、社長の総責任の諸要素であり、一部分です。社長の責任のうちの異なる部分であり、相互に範囲も異なっています。

第一次責任の選定

最初の段階では、漏れがないように細かめに要素分解したほうがよいので、社長からの第一次委譲としては細かすぎます。

ですから、分解の次に、社長からの直接委譲に相応しい程度に諸要素をまとめます。このようにしてまとめられた責任が「第一次責任」であり、これらを社長から直接委譲するのが「第一次委譲」です。

第一次責任の性質は、その企業における経営活動の性質によって決まります。

例えば、製造業であれば、通常「製造」と「営業」が第一次責任に含まれるでしょう。建設業であれば、「製造」の代わりに「調達」と「工事」に分割したほうがよいかもしれません。「研究」を分離したほうがよい場合もあるでしょう。

商業であれば、「製造」の代わりに「仕入」が来るかもしれません。一般消費者向け商品が対象であれば、「営業」とは別に「広告」を独立させるほうがよいかもしれません。

第一次責任を決定するには、企業目的に対し最も顕著かつ直接的に貢献する経営活動の諸要素を選定する必要があります。

重要なのは、諸要素間が相互に排他的になり、各要素内は同質的になるように結合することです。社長が直接監督できる数には限度があるので、できる限り少数の責任に結合することも重要です。

あらゆる業種にとって重要ものに「財務」責任があります。これは他のどの責任とも関わりながら、どの責任にも単独で含ませることができず、資金調達という特有の任務もあります。

したがって、「財務」は、社長が直接監督すべき第一次責任として分離するのが一般的でしょう。小規模の企業であれば、社長の留保責任とすることも多いでしょう。

諸要素をまとめること

諸要素をまとめるに当たっては、いくつかの注意事項があります。

「財務」のようにあらゆる要素に関わることは、その他大勢の集まりのようになってしまうことがあるので注意が必要です。

あまりに多様な要素の結合になりやすい「エンジニアリング」という区分もよく使われます。

エンジニアリングは、工場設計、工場保守、製品設計、工程設計、作業改善、営業支援、顧客サポートなど、あらゆる範囲に関わりを持ちながらも、熟練や経験が求められるため、その専門性が重視され、一括りにされがちです。

その専門技術が企業の成否を制するほどに重大である場合には、独立した第一次責任として分離されることの正当性が強まります。しかし、経営活動の流れにおける隣接が同質性の重要な要件であることを考えると、矛盾が生じることになります。

ブラウンは、責任は相互に排他的でなければならないとする原則からすれば、経営活動の流れにおける隣接を重視して組み合わせるほうがよいと主張します。

エンジニアリング上の熟練や経験の類似性を重視すると、経営活動の流れにおける広い責任の範囲に関わり過ぎるため、責任の重複が起きやすいからです。

ですから、エンジニアリングは、その経営活動の流れに従って分割された責任の中に位置づけるべきであり、その責任の中で、必要とする特定のエンジニアリングを熟練させることができるといいます。

第二次委譲

社長から最初の受任者たちに対する責任の委譲を規定すると、次にそれぞれの責任の範囲内にある経営活動の諸領域をさらに分割することになります。

これを「第二次委譲」と呼びます。その方法は、第一次委譲を検討した方法と特に異なるところはありません。

第二次委譲を誰が行うかということについては、第一義的には、第一次委譲の受任者が、それぞれ自分に割り当てられた責任について行います。

組織者を別途置く(社長が組織責任を委譲する)場合は、その者が行いますが、社長自らが第二次委譲に直接関与することも少なくありません。

社長が第二次委譲についても決定を下す責任を留保し、かつ、第一次委譲の受任者たちを集めて協議させたうえで最終決定することも多いでしょう。第一次委譲の受任者は、この決定を受け入れたうえで、これに従って第二次委譲を行います。

地理的に離れた場所に複数の製造拠点、営業拠点、保管拠点などを有している場合は、第二次委譲で場所の基準による責任の分割を行うことが多いようです。

ただし、拠点が別であっても、専門技術的な共通事項がある場合には、場所ごとに分割するよりも、独立した責任にして、各拠点にサービスするようにしたほうがよい場合もあります。この場合、各拠点には、連絡要員に当たるような担当者を置くことが望ましいことがあります。