組織の第五様式「複合組織」 − ブラウンの経営組織論⑭

この記事では、かつてアメリカの組織論における独特な一角を占めたアルヴィン・ブラウン(Alvin Brown)の『経営組織』(Organization of Industry, Prentice-Hall Inc., 1947)を紹介します。

組織の分化を高度に進めると、責任はそれだけ不確実となり、関係は多様となります。このことによって、行動の自由は制限され、決定は遅れることになります。

企業の目的が複雑性を増せば、事実上目的は集合的なものとなります。そもそも目的が企業の起動力なので、複数の目的は複数の企業をもたらさずにはおきません。

ここにおいて、単一の企業が、事実上諸企業の集合体となります。責任は諸企業に分かたれる必要があり、ここから複合企業が生まれます。これが組織の第五様式です。

第五様式では、第一次委譲において、集合的な目的が、受任者に分担されます。各受任者の目的は、一つの目的の一部分というよりも、一つひとつが完全な目的です。

【原則】
  • 複合組織は複雑な企業についてとられる最終的な対策である。

複合組織は、持株会社を親会社として複数の子会社が設立される場合もあれば、一つの企業内に事業部制として導入される場合もあります。

ブラウンは、この事業部を含めて「企業」と総称しています。要するに、内部に製造あるいは仕入れと営業の機能を包含している組織のことを「企業」と呼んでいるわけです。

複合企業の諸類型

第五様式は、各責任は同質的であるべきという組織原則にその理由求めることができます。

複合組織をとる企業には4つの類型があります。

第一は、数種類の産業分野にわたって活動する企業です。製造業であっても、製品、それらの製造方法、製造場所、市場の性格が著しく異なるため、これらを一緒にできないことがあります。

第二は、統合的というべき類型です。製品の構成要素である原材料の最初の源泉から始まり最終の販売に至るまで、包括的に経営に当たることを意味します。

そういう企業は関連グループをなし、単一だといってよい最終諸製品を作るという意味では単一の目的を持つと言えますが、数段階にわたる活動は著しく性格を異にすると言うことができます。

こうした多様性のために、ある規模に達すると複合組織によらなければ効果的な経営活動を図れなくなります。

第三は、地理的な事情に基づいて、ある種類の自然的な障害が生じる場合です。広く海外にわたる利害関係をもっている企業は、地理的な事情が企業の経営に特有の性格を与えます。

第四は、単に規模が大きくなるだけで複合性が生じる場合です。

製品の多様性

製品の種類が異なれば、市場、製造方法、営業方法も異なるのが一般的です。

一つの企業においても、製造する製品の多様性が増すことによって、異なった市場を相手にし、異なった製造方法や営業方法をとる必要が出てきます。

そうなると、すべての製品を包含する「製品」と「営業」という区分よりも、製品で区分し、それぞれの製品区分の中に「製造」と「営業」を含めたほうが、管理しやすくなります。

このような場合には、複合組織を採用し、第一次的には製品種類別に一つずつの責任を構成するのが自然です。製品種類別責任の内部で、製造と営業とについて第二次委譲が行われます。

統合企業

統合企業の例として、ある特定の金属で消費諸財を作るメーカーを考えることができます。

当該企業は、鉱山を持ち、鉱石を採掘します。この鉱石は、諸他の場所へ輸送され、製錬されて金属となります。金属はさらに諸他の場所へ運ばれ、加工されて消費諸財となります。さらに、諸他の場所に運ばれて販売されます。

このような全体のプロセスでは、採鉱、製錬、加工の間にはきわめて異質な問題が生じる可能性が高いと言えます。そのため、この3つの複合組織に分けることが望ましいと考えられます。

加工の部分については、最終消費財がどの程度の同質性を持つかに応じて、一つの製造業とみなすのがよいか、更に製品別の複合組織をとるのがよいかが分かれるでしょう。

地理的条件

一定の妥当な範囲を超えると、地理的条件からどうしても複合組織をとらざるを得なくなるでしょう。典型的には、海外に複数の拠点を持つような場合です。

国内であっても、地域によって特有の商習慣などがある場合は、複合組織をとるほうが効果的であることもあります。

企業の規模

製品、市場、製造方法などに特別な変更はなくとも、単純に企業の規模が大きくなったために、複合組織をとらざるを得なくなることもあります。

例えば、製造拠点や営業拠点の数が増加したことにより、エリアを複数に区画して、エリア別の複合組織にし、その中に製造と営業を持つといったことです。

地理的条件による複合化に見えますが、あくまで規模が拡大して拠点が増え過ぎたことが理由でエリア分けをするということであり、地理的条件が直接の理由ではありません。

責任の分割

組織の第五様式は、第一次委譲において、複合組織としての基礎構造を決定するということであり、第二次以降の委譲においては、単独企業と同様に、他の様式が適用されることになります。

ただし、複合組織全体で一つの組織(企業)である以上、個々の構成単位である組織(企業)は完全に独立しているわけではありません。

したがって、組織上の措置については、2つの全般的な領域が存在することになります。構成単位たる諸企業と、これらの企業にとり外部的な経営活動の諸要素です。

後者は、少なくとも社長と取締役(会)が存在します。さらに、構成単位に共通の経営活動のうち、外部的なサービスとして別個の形で委譲されるものもあります。

構成単位企業

【原則】
  • 複合組織にあっては、構成単位たる各企業は独立起業であると考えるべきである。

構成単位たる各企業の内部組織は、これまで見てきたすべての原則に基づいて決定されます。

社長が構成単位たる諸企業の各首脳者に対して行う委譲は、その性質上、広範囲にわたり、「実行」責任とほとんど釣り合うほどの部面責任(計画と点検)を伴います。

この高い度合いの委譲を行うことによって、企業総体としては規模によるハンディキャップを脱却し、迅速かつ確実に決定し、行動することができるようになります。

これは、大規模企業に小規模企業の特長を導入する方法です。実際、構成単位たる各企業の首脳者は、同等な規模を持つ独立起業の社長とあらゆる点で似ており、実質的に同等の責任を持ちます。

複合組織の果たす大きな寄与は、複合組織をとらなかったら不可能な監督業務を解決する点にありますが、これは本質的にその構成単位諸企業の持つ自治的な性格から生じます。

補助的サービス

【原則】
  • 構成単位たる諸企業に対して、一定の補助的なサービスを提供することが望ましい場合がある。

単一のより大きい単位が、専門化されたサービスを提供すれば、構成単位諸企業の資質(余力)と経済とは著しく向上します。同時に、全体の結縁関係のゆえに、独立機関の持つ不利を避けることができます。

ブラウンは、具体例として、工場設計および建設に必要なエンジニアリング、広告、基礎研究、法務・公共関係などのサービスをあげています。

単純な企業によって遂行されるときには経営活動の主流にあったものでも、当該諸責任が外側に位置し、かつ全企業に共通するサービスとして提供できるものであれば、それらの経営活動は補助的となります。

このことは、外部の独立業者が補助的サービスを提供するのと異なるところはありません。実際、当該諸責任は同族諸企業内での補助企業と言うことができます。

補助的な諸責任を独立させることは、必ずしも構成単位諸企業から当該課業についての全責任を取り去ることを意味するのではありません。

全般的かつ共通的な責任と特定の責任との間には区別があってしかるべきです。補助的責任は全企業の必要とする共通項的な援助を提供しますが、各企業の内部には、組織上の諸要素があってそれに特有な関心事を取り扱います。

例えば、広告責任については、通常、企業内で機能を持つと同時に、外部の広告代理店を活用するように、構成単位企業に独自の部門を持ちながら、外部的に専門的なサービスを受けられるようにするという考え方です。

責任をいかに配分するかは経営活動の諸要件によって決まります。

分離し難い責任

経営活動の諸要素のうちには、分離し難いために、構成単位諸企業への委譲から除外しなければならないものもあります。

全体を一つの企業として諸勘定を合併しなければならないこと、資本構成・株主関係など、財務上あるいは総務上の一部について、中央で外部的に処理しなければならないものがあるでしょう。

部面責任

複合組織の終局的な側面を考察するに当たっては、構成単位諸企業が本質的に自治的な性質を持っていることを忘れてはなりません。

終局的な側面とは、社長の力量を拡大して構成単位諸企業の運営に当たることができるようにする措置と関係があります。

【原則】
  • 計画と点検を委譲すれば、複合組織の経営活動に助力を与えることができる。

社長は構成単位諸企業の首脳者たちの能力に信頼を置き、彼らに高い度合いの責任を委譲することに決めることもできます。

この場合、社長は、自分が任務を果たすのに適当な少数の補佐者を必要とし、補佐者は事業のデータを分析し、それらに基づいて差し障りのない監督の側面で助力します。

とはいえ、いかなる場合も、全企業に共通する問題が残されます。これらの問題をよりよく処理するために、社長は専門家たちの助力を得たいと思うでしょう。基本構造は複合組織をとっていても、実益があれば諸他の様式を活用してよいわけです。

構成単位諸企業に共通する諸問題が存在する限り、社長が直接責任を負うべき「計画」と「点検」の領域が必ず存在することになりますから、社長が部面責任として委譲できる候補になります。

これらの責任が委譲される場合、構成単位諸企業の外部(中央)に部門として置かれることになります。

例えば、購買・人事・従業員関係については、方針に統一性のあることが望ましいので、これに該当するでしょう。

監査は、利害から超脱する性質を持っていることから、同様の対応が望ましいでしょう。

財務計画は、構成単位諸企業に完全に配分することは不可能であり、少なくとも統合的に取り扱う財務責任が必要です。

組織計画についても、構成単位諸企業と並んで中央に一つの責任として構成しなければ、完全に遂行し得なくなるのも同様です。

部面責任の受任者は、構成単位諸企業に共通する活動の諸側面に影響を及ぼす計画や方針を定式化します。社長がこれらの計画や方針を承認することによって、諸企業全体に通じる手引(全社的方針、計画のための計画)として発令されます。

部面責任の受任者は、計画や方針がどのように遂行されているかを、至るところで観察し、これを社長に報告します。必要と判断する場合には、改善策について勧告を付します。

部面責任の受任者は、各構成単位企業内における自分の連絡調整者との有益な関係を保持するため、討議・反省・助言・激励に当たります。その過程では、常に社長の見解を反映させるように注意を払い、指図するのではなく、解釈を加えるにとどめます。

部面責任の使命を考えるに当たって忘れてはならないことは、構成単位企業が自治的性格を持っているということです。自治によってこそ、複合組織が効果的な経営活動をもたらすからです。

社長の下にある専門的な助言者たちが操作の細部にまでいちいち立ち入るならば、構成単位諸企業の創意と活力を阻害し、ひいてはこの組織様式のもつ利点を破壊することになりかねません。

助言者たちが活動するにふさわしい領域は、広範な方針や要綱という分野にほかなりません。

組織の更なる拡大

複合企業の社長は、構成単位企業以外に、部面的諸責任と補助的諸責任の委譲を行い、それらをすべて監督することになります。

ここで企業規模が更に拡大し、構成単位企業の数が多くなってくると、社長の監督の力量を超えてくることが起こります。

この場合は、構成単位諸企業を何らかの基準でグループにまとめるような中間的な受任者を介在させることが効果的であることがあります。複合組織の更なる複合です。

この中間的な受任者は実行全体を担当する首脳者であって、構成単位諸企業の経営活動を監督するものとすることができます。

こうすることによって、社長は部面を担当する自分の受任者たちの助力を借りて、主として方針に関する広範な諸問題を取り扱い、そして経営活動の効果を確かめることに専念する余裕を持つことができます。

とはいえ、以上の段階数には自ずと制限があることを銘記しなければなりません。よりよい解決を図るためには、自治の意味を率直に受け入れ、かつこうして生じる責任を十分に果たし得る首脳者たちを大胆に起用すべきです。