多少なりとも明確な目的を持ち、人の注意を引き、名称を挙げられ、確認されるほどに永続的な協働体系は数多く存在します。例えば、教会、政党、団体、政府、軍隊、企業、学校、家庭などです。
これらの体系は非常に多様であり、かなりの差異がありますが、管理者の行動や態度に着目すると、多くの類似点が見られ、共通要素があると言われます。
したがって、協働体系を研究するためには、それらの共通要素についての性格を明らかにする必要があります。この共通要素の一つが「組織」です。
「組織」の共通要素を明確に掴むためには、できる限り狭く、本質的な部分のみを含むものとして「組織」をとらえる必要があります。
協働体系における多様性は、物的環境、社会的環境、個人、その他の差異によって特徴づけられます。バーナードは、これらの多様性の要素を除外し、あらゆる協働体系に共通の中核的要素として、「公式組織」を次のように定義しました。
「公式組織とは、2人以上の人々の意識的に調整された活動や諸力の体系である」
物的環境の除外
物的環境は、協働体系と不可分な部分となっています。物的環境の違いに応じて、協働の他の側面の調整や適応が必要になります。
組織の財産とみなされる部分の多くは物的環境であり、物的環境が活動の主要な手段になっています。その意味で、広い意味での組織の概念には物的環境が含まれると言えます。
ただし、物的環境の重要度は協働体系によって異なっており、活動の主要な手段とまでは言えないものもあることから、ここでは「組織」から物的環境を除いて考えることにします。
物的環境のあらゆる側面は、別の体系(物的および技術的体系)の要素として取り扱います。
社会的環境の除外
社会的環境も協働体系に重要な影響を与える要因です。それは、内部的または外部的に関わる個人を通して、あるいは同列または上位にある別の協働体系との接触を通して、さらには協働そのものを通して、協働体系に影響を与えます。
物的環境の変化によって引き起こされた社会的環境の変化が、社会的要因として協働体系に影響を与えることもあります。
社会的環境についても「組織」の概念からは除外します。協働体系自体に社会的環境が含まれることは確かですが、協働体系に個人が外部から社会的環境の影響を持ち込んだり、他の協働体系から社会的環境の影響が持ち込まれたりすることがあるからです。
その意味で、社会的環境は非常に多様な撹乱要因であり、協働体系に共通する要素としての「組織」の概念を厳格に抽出するうえでは、本来的な要素とはなり得ないと考えられます。
人間の除外
そうなると、「組織」についての一般的な概念は、その活動が多少なりとも調整された「集団」というところまで絞り込まれます。物的環境や社会的環境は、組織外の環境と位置づけます。
「集団」とは、単なる人の集まりというだけでなく、集まった人々の間の相互関係や相互作用が加わります。
集団に参加する人間は多くの点で異なっているのみならず、その参加の程度や性格の点でも非常に差異があることから、相互関係や相互作用の性質も自ずと多様になります。
バーナードが「協働体系」や「組織」という場合、広い意味での「協働」や「参加」を含みます。協働への参加者には、従業員や経営者だけでなく、株主、債権者、供給者、顧客も含まれます。
例えば、企業と顧客が売買取引を行う場合、その売買取引も「協働」であり、企業と顧客は、その協働体系への参加者になります。
あるオーケストラの演奏を聴きに行く場合、演奏会は一つの協働体系であり、オーケストラと観客は、その協働体系への参加者になります。
集団は、その内部の人々の間に相互作用があるという意味で社会的な存在です。
その集団が「協働的」である、すなわち「組織」であるためには、その内部の人々が共通目的の達成を認識して互いに調整された行為を行っている必要があります。集団に属する人の行為であっても、各人がバラバラに相互作用を行っているだけであれば、協働体系の一部とは言えません。
特定の個人は、ある集団に断続的に参加し、同じ人が複数の集団に参加していることが一般的です。また、集団は、参加者の入れ替わりが常に起こっていたとしても、その内部で一定の性質の相互作用が継続的に行われていると考えれば、参加している個人よりも、相互作用の中身が集団の本質であると言うことができます。
要するに、協働体系との関連で「集団」という場合、本質は「相互作用」の体系です。その相互作用が調整された協働行為であるとき、「組織」と呼ぶことができます。
公式組織の定義
以上の議論を踏まえ、「組織」の構成要素から、物的環境や社会的環境と同様に人間も除外したうえで、バーナードは「組織」に次のような定義を与えます。
「組織とは、意識的に調整された人間の活動や諸力の体系である」
この定義によって、物的環境や社会的環境および人間そのものの多様性は、「組織」にとって外的な要因として取り除かれ、あらゆる協働体系に共通する一側面としての「組織」が抽出されることになります。
この定義を利用することによって、特殊な諸状況の理解に効果的な一般原則に到達することができます。様々な協働における指導者や管理者の行動にみられる斉一性を説明し、それを明確に定式化して展開すれば、様々な分野の経験を共通な言葉に翻訳し、活用することができます。
ここにおいて、バーナードは、改めて「公式組織」を次のように定義します。
「公式組織とは、2人以上の人々の意識的に調整された活動や諸力の体系である」
これは、先に「組織」に与えた定義と事実上同じ意味です。バーナードが単に「組織」と言う場合、「公式組織」を指していることがほとんどです。
「公式」の意味
「公式」という言葉の意味は明確に定義されていませんが、後に言及される「非公式組織」と明確に区別するために付けられていると考えられます。
「共通目的」が参加者によって明確に認識され、その達成に向けて「意識的に調整」された活動を行うために、意図的に形成されていることを「公式」という言葉で表現していると考えられます。
「非公式組織」と言うと、組織の一形態のように思えますが、そうではありません。「組織」の中に「公式組織」と「非公式組織」の2種類があるというよりも、「非公式組織」とはむしろ「非組織」的相互作用体系であると言うべきかもしれません。
英語では「informal group」と呼ばれることが多いので、「非公式集団」と訳されることが多いと思います。個人的な関係によって自然発生的に生まれるような集団です。
ただし、一般的に「集団」という場合、人の集まりと理解されやすいため、人を排除した相互作用の体系として用いている「組織」という言葉を使い、「非公式」という言葉で「目的」や「意識的」というニュアンスを否定しているものと思われます。
バーナードも説明しているように、非公式組織は公式組織に付随して存在することが多いのは事実です。例えば「社会」は境界も漠然とした非公式組織とみなされますが、国家や県や市というと行政単位を意味する公式組織に分類され、それに付随して、国民社会、地域社会などと呼ばれる非公式組織が漠然と重なって存在します。
なお、「家庭」や「家族」について、バーナードは「組織」に分類しているように思われますが、非公式組織に分類する識者も多いようです。
「世帯」というと制度的であり「組織」に近いイメージが出てきますが、「家庭」や「家族」というと、物理的に離れた関係を含んだり、肉親でない者が同じ場所で生活することによって作られる場合も含まれる印象が出てきます。結婚といった制度によって関係が補強されることもあります。