人の意思決定能力は、訓練や経験によってかなり発展させることができるものの、一般的に狭いものです。
管理者は自分が引き受けた職位に関して決められた一定の範囲内で意思決定をする義務があります。その義務を果たすために自分の能力の限度を守り、それ以上に受け入れないように決定の機会を選別しなければなりません。
バーナードが指摘する管理的意思決定の真髄は、現在適切でない問題を決定しないこと、実行できない決定をしないこと、他の人がなすべき決定をしないことです。
意思決定が関わる客観的領域を構成する要素は、「目的」とその達成に対する「外的環境条件」に分けられます。意思決定の多くは、この両者の間の関係を調節すること、すなわち目的を変更するか、外的環境条件を変えるか、のいずれかによってなされます。
意思決定の機会
意思決定においては、その機会が生じる諸領域の間にバランスを保つことが必要です。どの領域の機会をどのような基準で選別し、あるいは優先順位をつけるか、そのこと自体が重要な意思決定です。
意思決定に対する機会は、主に3つの異なる領域から生じます。
第一は、命令または上位権威者からの一般的要求によって与えられるものです。その意思決定は、命令の解釈、適用および割当に関するものです。
第二は、部下から意思決定を求められた場合です。それが起こるのは、部下の無能力、不明確な命令、状況の新奇さ、責任範囲の衝突、命令の矛盾、主観的権威の不足などのためです。
管理者は、これらの意思決定が重要な場合あるいは正当に委譲し得ない場合の他は、意思決定を拒否する必要があります。
第三は、管理者の主体性に基づく場合です。管理者の状況理解と、組織の伝達体系における自らの役割に基づき、あることがなされ、あるいは訂正されるべきかを決定しなければなりません。
管理者の主体性に基づく場合、意思決定の必要性、責任範囲との関連性など、権威が常に問題とされる可能性があるため、管理者自身の理由づけを必要とします。
管理者の主体性に基づくということは、極端な場合を除いては、決定しなくても攻撃に晒されることがないため、意思決定を避けようとする動機が働きます。しかし、管理者の最も重要な義務は、他の人々が効果的に取り上げることのできないような問題を取り上げ、それを決定することです。
組織における意思決定の大半を占めるのは、参加者の非管理的意思決定です。しかし、それらの意思決定を正しく推進するために、管理者の意思決定が重要です。管理者の意思決定は、問題点ないし選択対照を明確に表現する過程です。
行為の調整には、効果的な組織行為が行われる現場での反復的な組織的意思決定が必要です。現場において、目的の最終的で最も具体的な対象が見出され、手段の最終的選択が行われます。
意思決定は、組織の職位によって条件や型の性格が変化します。
上層部では、追求すべき目的に関する意思決定が第一次的です。手段に関する意思決定は二次的であり、決定されるにしても一般的なものです。特に従業員全体に関するもの、すなわち組織自体の発展と保全に関するものです。
中間層の意思決定では、広い目的をより特殊な目的に分割すること、行為の技術的・工学的問題が顕著となります。
下層部での意思決定は、技術的に正しい行動に関係するのが特徴的です。しかし、貢献するかどうかの意思を決める個人的意思決定が、他に比べて最も大きい相対的重要性を持つのは、究極的権威の宿るこれら下層部においてです。
意思決定の証拠
管理職能の相対的業績の評価は、一般的に困難であるとされます。一つには意思決定の本質的作用を直接に観察する機会がほとんどないからです。
管理的意思決定は、それが単に一要素でしかない全般的結果から推察され、また漠然とした徴候的な現れから推察されなければなりません。
最も直接的に知られる意思決定は、権威ある伝達、すなわち命令となって現れます。ただ、ある結果ないし状態を達成しようとする意思決定は、その背後にある支配的で基本的な意思決定が明らかにされないことがあります。
意思決定がなされたとしても、しばらく伝達されないことがあります。予期した結果がなければ必要な行動ができない場合、教育ないし説得で地ならしをしなければ権威を持ち得ない場合などがあるからです。したがって、それらの意思決定の伝達に先立って、時宜を得た別の意思決定が必要です。
最も見えにくい意思決定は、決定しないという意思決定です。現状維持が適切であるという場合もあれば、他の人が決定すべきであるために自分は決定しないという場合もあります。
バーナードが指摘する管理的意思決定の真髄は、現在適切でない問題を決定しないこと、実行できない決定をしないこと、他の人がなすべき決定をしないことです。
以上から、意思決定には2つの主要な種類があることが分かります。一つは積極的意思決定、すなわち、ある行為を指図し、ある行為を中止し、ある行為をさせない意思決定です。もう一つは消極的意思決定、すなわち、決定しないことの決定です。
ある選択が「よい」ものとなるのは、別の選択を「拒否」するからでもあります。ある行為の成功は、可能な行為の選択と拒否が卓越していることを示すものです。
環境の性質
意思決定の環境、すなわち意思決定が関わる客観的領域を構成する要素には、目的、物的世界、社会的世界、外的事物と諸力、そのときの状況などがあります。
「目的」が客観的領域の構成する要素とみなされるのは、意思決定者が主体的に決定できないことが大半だからです。多くの管理者にとっての目的は、上位の意思決定や過去の意思決定の結果です。
これらの要素は「目的」とその他に分けることができ、その他は「目的」の達成に対する外的環境条件になります。意思決定は、この両者の間の関係を調節することです。すなわち目的を変更するか、外的環境条件を変えるか、のいずれかによってなされます。
一方において、「目的」が外的環境条件に意味を与えることに注意する必要があります。環境を意思決定上意味のある条件として理解するということは、その目的の達成の見地からとらえていることになるからです。
他方において、「目的」はある環境においてのみ意味があり、環境が異なれば、その目的は意味を失うことがあることにも注意する必要があります。
つまり、ある目的が環境に意味を与えると、その意味づけられた環境によって目的がさらに具体化されるという相互依存関係があります。そのようにして一般的目的が具体的目的に分解されていきます。
分解の過程は実行の過程でもあります。実行結果が、次の具体的目的の決定に影響を与えます。
外的環境条件は、大きく2つに分けることができます。一つは、目的とはほとんど無関係で、単なる背景にすぎない事実です。もう一つは、目的の達成を促進し、あるいは阻害する事実を含む部分です。
意思決定に当たっては、後者の要因に関わる代替案が設定されます。それらの代替案は、好ましい要因を利用する、好ましくない要因を取り除くか弱める、目的を変更する、のいずれかに関わります。
目的を変更すると、その新しい目的に照らして、環境要因の新たな意味づけがなされます。