管理職能は、組織の専門化された職能ですが、全体としての組織過程の部分あるいは側面であり、全体を離れて個別に存在するものではありません。
手段は相当程度まで論理的に決定された具体的な行為ですが、手段の決定過程の本質は、全体としての組織とそれに関連する全体状況を感得することです。
組織の存在理由は、その究極の目的によって与えられます。目的が達成されることによって、その存在理由が結果によって正当づけられるとき、用いた行為は有効的であり、能率的であると言えます。
組織の有効性
有効性は、最終目的を達成するために全体状況のもとで選択された手段が適切であることを意味します。これは技術の問題です。
一般目的を細部課業に細分することは、同じ協働体系の他の諸技術とは切り離して、単独に取り扱われ得る技術の中から、個々の課業に適するものを選択することです。選択した技術がそれぞれの課業で有効であることが、全体の目的達成にとって有効であるために必要です。
ただし、一般目的を細部課業に細分するということは、それぞれの細部課業は依存し合っているということですから、たとえ技術分野としてそれぞれ単独に取り扱われ得るとしても、各々の技術過程としては、同じ協働体系内の他のすべての技術に依存することを意味します。
管理過程を仮に組織の有効性の側面ならびに組織活動の技術面に限定しても、それは全体の総括の過程であることに変わりありません。
管理過程は、局部的な考慮と全体的な考慮との間、ならびに一般的な要求と特殊的な要求との間に効果的なバランスを見出す過程です。
組織の能率
組織の能率とは、組織行動を引き出すに十分なほど個人の動機を満足させて、組織活動の均衡を維持することです。
協働体系はいくつかの補助体系から構成されていますが、そのうち中核をなす補助体系は組織です。組織とは協働的な活動の体系であり、その機能は、効用の創造、変形および交換です。
その他の補助体系としては、物的体系、人的体系、社会的体系があります。これらは、組織という「活動」体系の働きかけによって、効用の創造、変形および交換を生み出します。
協働体系における経済
効用の創造、変形および交換の見地から、協働体系には、物的経済、社会的経済、個人的経済、組織の経済という4つの異なる経済が存在します。
物的経済とは、組織の行動によって支配されている物財と物理的諸力に対し、組織が付与する効用の総計です。物財は組織の行動によって支配され、有用に活用されることによって効用を生みます。
物的経済は絶えず変化します。物財が毀損したり、他の個人や組織と物財を交換したり、物財を略奪されたり、物財を変換(ある材料から道具をつくるなど)したりするからです。
社会的経済とは、自らの協働体系以外のものとの協働の可能性の総計です。例えば、ある組織と他の組織との関係、あるいはその組織とは協働的な関係を持たない個人との関係からなります。
社会的経済も常に変化します。協働体系の外にある人々が、自らの経済を理由に態度を変化させたり、効用の交換によって生じる変化の影響を受けたりするからです。
個人的経済は、協働体系に誘因されることに伴う個人への経済的影響です。個人の仕事をする力と、個人が物質的・社会的満足に認める効用との関係によって成り立ちます。
個人的経済も変化します。生理的な必要、他との交換、自分自身の効用の創造、心的状態の変化などが原因です。心的状態の変化とは、物的・社会的効用について、個人が抱く価値観や評価の変化です。
組織の経済は、組織の中にプールされた、組織が与えることのできる効用です。それは、組織が支配する物財や社会関係ならびに組織が調整する個人的活動が効用を生み出すように、組織が与える力です。様々な要素に対して、組織の意思決定によって評価が加えられ、効用として価値が付与されます。
物的経済、社会的経済および個人的経済は、組織の評価によって効用が決まります。組織が物的所有、社会関係および個人的貢献で何をなし得るかを基礎にした評価です。
物財や社会関係や個人的活動は、組織が認めるからこそ効用があり、経済が成り立ちます。例えば、人の行為の効用は、その人が完成させた仕事の効用ですが、組織がそれを評価し、その人に支払うものによって具体的に表現されます。
組織の経済の均衡に必要なことは、いろいろな種類の効用を十分に支配し、交換し、それによって組織を構成する個人活動を支配し、交換し得るようにすることです。
そのために、組織は、これらの活動によって効用の供給を確保し、その効用をさらに貢献者に分配してはじめて、貢献者から適当な効用の貢献を継続して受け取ることができます。
これらの貢献者が各自の交換において余剰(純誘因)を要求する限り、組織は自らの経済において交換、変形および創造によって効用の余剰を確保するときにのみ存続することができます。
協働体系に対する個人の貢献
組織が生み出す産物は、一人ひとりがそれぞれに何かを生み出したとみなすことはできず、努力の結合あるいは調整から生み出されるものです。
ただし、協働の他のすべての本質的な要素に変化がないという仮定に立ち、協働体系に積極的に好ましい影響力を貢献するという理由で、ある人が他の人よりも重要であると言える場合はあります。
ある人の社会的貢献が、参加者から肉体的エネルギーを引き出し、そのエネルギーが必要な場所において物財に変換されると言うことはできます。
ある人が体系から脱退すればどういう効果が生まれるか、その人の代わりに別の人を採用すればどういう効果があるかということは、述べることも測定することもできます。
個々の要因の効果の変動は、戦略的要因についてのみ測定できます。戦略的要因は、統制可能な代替要因と認められるものです。ただし、効果は、すべて全体としての協働体系の効果であり、目的の観点から決定されます。
経済の尺度
組織における四重の経済、すなわち物的経済、社会的経済、個人的経済および組織の経済は、ただ一つの尺度、すなわち組織の存続によって評価されます。組織が成長していれば能率的であり、縮小していれば能率的とは言えません。
商業組織は収入が支出を超過しなければ存続し得ないと言われますが、必ずしも正しくありません。経済的には不成功な多くの組織が存続し続けることがあるからです。
組織が存続し得るのは、組織が全体として生産あるいは確保する経済的およびその他の満足が、常にその組織が全体として消費する経済的およびその他の給付を償い得る場合です。
すべての組織に四重の経済があるのは、算出と投入を細部にわたって釣り合わせることが不可能である本質的な事実があるからでもあります。
このことは、協働体系の性質として、協働体系そのもの、もしくはその生産し、消費するものが、それを構成する部分あるいは貢献の総計よりも多いこともあり、少ないこともあるといことと同義です。
協働は効用を創造し、転換しますが、物質そのものを創造しているわけではありません。人間の意思や目的を物的環境に作用し、表現しているに過ぎません。
しかし、協働が成功するには、何ものかを創造しなければならず、これが協働の細部過程においてあまり分散してしまって、人の動機を満足し得ないようではいけません。
部分の能率と全体の能率
部分が集計されても全体にはなり得ませんし、協働の成果は結果によってしか判明しませんから、組織の能率は、部分の能率と全体の創造的な経済の両方に依存することになります。
部分の能率が高いということは、あらゆる部分的な貢献を、できるだけ少ない支払い(反対給付)で調達できるということです。
これは一見不公正に見えますが、決してそうではありません。貢献も支払いも、その本質は物ではなく効用であるという点に着目する必要があります。
効用は、貢献と支払いの過程で変化を受けます。これが協働する理由でもあります。貢献は組織にとっての価値に基づく効用を持ち、支払いは貢献者にとっての価値に基づく効用を持ちます。効用は貨幣的価値だけでなく、非貨幣的適価値を含みます。
部分の能率を高めるための統制は、部分の貢献と支払いとの交換における統制です。自分には価値が少ないが、受け取る人には価値が多いものをできるだけ与え、自分には価値が多いが、提供する人にとっては価値が少ないものを受け取ることです。
ここにおいて厄介な問題は、価値の評価が事後になって変化する場合です。交換の時点で評価していた価値が、事後の評価で下がる場合に、特に問題になります。時に「騙された」という感情を引き起こすこともあります。
このため、交換のあるべき姿を「より少なく支払い、より多く受け取る」ことだと考えてしまいます。これこそ、顧客との関係、労使関係、信用関係を悪化させる原因であり、協働が成功しない理由です。
評価が事後に変化するのは、決して騙されていたからではなく、過去の評価を現在の評価と混同するところから生じます。現在の評価が下がっていることが問題であり、それに対処しなければなりません。
いずれにしても、相手の要求するものを与えない者は、自分の希望するものを得ることはできません。
以上、組織の能率の一側面である部分の能率は、交換の問題であり、分配の問題です。
組織の能率のもう一つの側面は、全体の創造的な経済です。これは、組織の内部における「調整」の問題です。組織内の「調整」こそが創造的要因です。
効用を生産するために、組織の諸要素の適切な組み合わせを確保することによって、協働体系を存続させることができます。
部分の能率を追求するだけでは、協働しないで個々に得られる満足の総計を超えるような満足を、協働によって生み出すことはできません。協働によって余剰を生み出すことが、生存の条件です。
創造による全体の能率に必要なものは、部分を全体に永続的に従属させることです。最も広い観点に立って、他の管理職能、技術、説得、誘因、伝達、分配的能率などすべての諸要因から戦略的要因を識別することです。
異質のあらゆる効用を測ることのできる共通の尺度はありませんから、協働の戦略的要因を識別することは直感やバランスの問題です。
このための管理の過程は、知的なものというよりも審美的、道徳的なものです。その過程の遂行には、適合性の感覚、適切性の感覚および責任といった能力が必要です。