管理職能 − バーナードの組織論⑬

協働体系に必要な諸力の調整には、組織の伝達体系が必要です。伝達体系はいくつかの相互連絡点を持ち、管理者がその位置を占めます。

伝達体系の目的は組織のあらゆる側面の調整ですが、管理職能に関わる業務は組織の業務というよりも、組織を継続的に活動させ、協働努力の体系を維持する専門業務です。

管理職能は、人々の集団を管理することではありません。協働努力の体系を管理するという表現も正しくありません。協働努力の体系は、全体として自らを管理します。

人体に例えると、管理職能は、頭脳を含めた神経系統に相当します。協働体系は、人体のその他の部分です。

神経系統は、身体が環境に適応するのに必要な行動を指令して、身体を維持する機能を果たしますが、身体を管理しているのは、それぞれの部位です。身体機能の大部分は神経系統とは独立してそれ自身の機能を持っており、むしろ神経系統が身体に依存しています。

管理職能は、第一に伝達体系を提供し、第二に不可欠な努力の確保を促進し、第三に目的を定式化し、規定することです。これらの要素は相互依存的です。

管理職能は相当の専門化が可能であり、相当程度まで分離することができます。

ここでは、複合組織に見出される管理職能を取り扱います。

伝達体系の提供

管理組織の第一の職能は、伝達体系の提供です。二単位以上の複合体が問題となれば、伝達の諸センターとそれに対応する管理者たちが必要になります。組織を作る者の最初の仕事は伝達であり、それがまた管理組織の直接の起源となります。

伝達は人を介してのみ遂行されるので、管理組織に充当される人々を選択することが、伝達の手段を確立する具体的な方法です。

職位の設置と活動の配置

直ちに伝達の体系としての職位が作られ、そこに人の活動を配置します。職位は位置づけであり、単位組織および集合組織の地理的、時間的、社会的ならびに職能的専門化です。

人事(人の配置)は、適当な資質を持った貢献者を採用することです。その資質が組織における有効な管理活動につながるように、誘因(インセンティブ)、刺激、説得ならびに客観的権威を展開します。

組織における職位の規定を「組織構造」と呼びます。組織構造は、組織の行う仕事の調整を表します。組織目的が、補助目的、専門化、課業などに細分化されます。

その他、人々から求められる活動の種類と量、この目的のために協働体系の中に含めるべき人の種類と量、必要な誘因、これらの要素が結合される場所と時間の問題も関連します。

管理者の資質および能力

管理者に要求される唯一の最も重要な貢献、最も普遍的な資質は「忠誠」、すなわち組織人格による支配であり「責任」です。必要な職位で必要な時に、通常の個人的理由による怠慢なしに、管理者の個人的貢献がなければ、伝達のラインは機能することができません。

「忠誠(責任)」という貢献は、有形の誘因にはほとんど動かされません。物質的誘因は管理者にも与えられなければなりませんが、その誘因から忠誠(責任)それ自体が生じることはありません。

一般に、その他の人々よりも管理者の場合に遥かに重要な誘因は、威信への愛着です。その他の誘因として必要なのは、仕事の興味、組織の誇りです。

忠誠心、責任感および組織人格になりきる能力の次は、より特殊的な個人能力が問題になります。一つは、機敏さ、広い関心、融通性、適応能力、平静、勇気などを含む一般的能力です。もう一つは、特殊的な資質や習得技術に基づく専門能力です。

第一の一般的能力は、全般的な経験を経て成長した天性に依存するので、評価が比較的困難です。直接に教え込むこともほとんどできません。

第二の専門能力は、分業化された組織自体が、自動的に育成でき、訓練と教育によって発展させることができます。

権威のライン上の職位が高くなればなるほど、より一般的な能力が必要になります。この能力の希少性が、権威のラインをできるだけ短縮する必要性と相まって、管理職能の組織を制約します。

このとによって、公式管理職位の数を最小限に縮小することになります。それを可能にする方法は、多くの場合、時間、精力および技術的能力の面で管理者を補完する専門スタッフの創設です。

管理者の統制

組織構造の展開に伴って、人の選択、昇進、降等、解雇などが、伝達体系維持の核心となります。

組織の統制は、全体としての組織の働きに関係しますが、協働の成否は管理組織の機能に強く依存するので、統制は実際上ほとんど管理者に加えられます。

もし、組織の働きがうまく行かないとき、能率的でないとき、その構成員の活動を維持し得ないときは、管理が悪いという結論になります。

非公式管理組織の維持

伝達との関連で、公式組織にとって必要不可欠なのは、非公式組織です。管理者の伝達職能の中には、必要欠くべからざる伝達手段としての非公式管理組織を維持することも含まれます。

非公式管理組織を維持する一般的な方法は、人々の間に調和という一般的状態が維持されるように運営し、そのように管理者を選択し、昇進させることです。

調和がなければ、有効的で能率的な協働を確保することはほとんど不可能です。

ただし、望ましい調和の程度は、いつでも同じであるとか、できるだけ多ければよいというものでもありません。調和や協和が過剰であればむしろ有害で、一本調子に陥り、あまりにも固定的な態度を取らせ、個人的責任の破壊となることもあります。

非公式管理組織の職能は、公式経路を経由すると不都合が生じるような伝達を担うことです。

必ず意思決定を必要とする問題を生じるとか、威厳や客観的権威を失墜するとか、管理職位に過重の負担をかけるような、目に見えない事実、意見、示唆、疑惑の伝達です。

また、非公式管理組織には、利害および見解の隔たりから生じる政治的派閥を最小限に食い止めたり、集団の自律性を促進したり、組織における重要な個人的影響力の発展を可能にする役割もあります。

非公式管理組織によって、日常反復的な事項や緊急の場合を除いて、多数の公式命令を出さないようにすることは大切です。

必要な活動の確保

管理組織の第二の職能は、組織の実体である個人的活動の確保を促進することです。この職能は、人を組織との協働関係に誘引すること、この関係に誘引した後、活動を引き出すことの2つの主要部分に分けられます。

人を組織との協働関係に誘引するとは、組織の外にいる人々への働きかけです。この働きかけは、さらに、活動を確保しようとする特定努力の及ぶ範囲内に人々を引きつけること、近づいた人々に実際に誘引の努力をすることの2つの部分に分けられます。

組織には活動量の限度があるので、人々を引きつけようとする努力の場(範囲)を、ある基準に基づいて制限します。その重点の置きどころは、組織ごとに異なります。

一般的なアピールによって組織と接触するようになった特定の人々を、現実に組織と一体化させようとする努力は、説得の方法、誘因と刺激の設定、直接交渉などです。

続いて、実際に組織との協働関係に参加するようになった人々から、質的にも量的にも優れた努力を引き出すことが必要です。忠誠心、信頼性、責任感、熱意、優秀な努力、成果の確保です。

目的と目標の定式化

管理組織の第三の職能は、組織の目的や目標を定式化し、定義することです。目的は、すべての貢献者によって受け入れられなければなりません。

目的の始まりは一般的な言葉による表現ですが、目的に基づく実際の行動が総合されることによって一層精密に定義されていきます。

目的と外的環境条件に基づく意思決定の結果が行動の総合であり、さらにその結果に基づいて目的が精緻化され、さらなる行動の意思決定がなされるというように、次第に具体的行動に接近します。

目的は特定の細部目的に分割され、細部目的ならびに細部行動は一連の継続的協働となるように時間的に配列されます。さらに、各単位組織に内在する地理的、社会的ならびに職能的な専門化となるように同時的に配列されます。

無数の同時的および継続的な行動の定式化、再規定、細分が必要であり、それらを意思決定する必要があります。この意思決定は、全管理組織で分担されます。一人の管理者は、単に管理組織における自分の職員に関係する部分だけを遂行します。

したがって、管理職能の決定的側面は客観的権威の委譲であり、責任の割当です。この割当によって、伝達体系の職位構造がつくられることをも意味します。

各職位における意思決定が、実際の伝達内容を構成します。意思決定が行為に移され、障害、困難、不可能、成果が報告され、目的が再規定され、行為が修正されます。伝達はこのように行き来します。

目的によって規定される組織は、職務明細化の組織であり、職務明細書は仕事が実施されている時間ならびに場所の最終段階において作成されます。

各貢献者の明細化された権威、責任および能力は、その全体が調整されなければなりません。そのために、基本組織の単位数が多くなるほど、ますます一般的となり長期的となるような目的形成のピラミッド化が必要です。

抽象的、一般的、将来的、長期的意思決定の責任は上層部に委譲されますが、目的の限定の責任や行為の責任は、常に基底部に残されます。

目的の定式化と規定は広く分散した職能であり、そのうち一般的な部分だけが管理者の職能です。

下層の人々には重要決定である一般的目的を教え込んで常に結束を保ち、究極の細部決定をその線に沿わせる必要があります。上層部にとっては、末端貢献者の具体的状況ならびに特殊決定を常に理解している必要があります。