組織構造と経営戦略 - 「バランス・スコアカード」とは何か?⑥

バランス・スコアカードは、経営戦略を立案するための組織構造を反映します。戦略は、一般に、組織単位のために、特に戦略的ビジネス・ユニットのために設定されるからです。

企業が複数の戦略的ビジネス・ユニットをもち、かつ、それらを統合して一企業としているとすれば、戦略的ビジネス・ユニットが単独で存在するよりも、企業全体の価値をより高めるだけのシナジー効果がなければなりません。

シナジー効果を創出するのは本社の役割であり、その方針や方向性を明らかにするのが全社的経営戦略です。これに基づいて、本社は、各戦略的ビジネス・ユニットの戦略をモニターし、評価し、支援する役割を担います。

全社的経営戦略をバランス・スコアカードに落とし込むことによって、短期的な財務的成果だけでなく、成長や将来の財務的業績の基礎を確立するための取り組みについて、他の3つの視点(顧客、社内ビジネス・プロセス、学習と成長)からもバランスよく議論することができます。

ただし、個々の戦略的ビジネス・ユニットの戦略が大きく異なる場合は、全社的に統合できるバランス・スコアカードは財務的指標が中心にならざるを得ないかもしれません。

それでも、一つの企業に統合している以上、シナジーの核になる共通要素があるのが普通です。例えば、顧客、技術が共通であることは多いと言えます。あるいは、購買、財務、情報技術など、重要なサービス機能を本社に集約し、戦略的ビジネス・ユニットに適用することもあります。

いずれにしても、全社的バランス・スコアカードは、それぞれの状況に応じた全社的経営戦略を反映しなければなりません。独立した戦略的ビジネス・ユニットを一つの企業に統合していることの合理性、すなわち協業の理論を明確に示すものでなければなりません。

企業のテーマと役割

統一した一つの企業としてのアイデンティティを示すもの、例えば、価値、理念、テーマなどは、すべての戦略的ビジネス・ユニットに共通のものでなければなりませんから、全社的バランス・スコアカードにおいて明確にされ、全社的に共有されるべきです。

また、全社的バランス・スコアカードは、各戦略的ビジネス・ユニットが独自の戦略やバランス・スコアカードを明確にするための雛形の役割を果たすことができます。

全社的バランス・スコアカードでは、定性的な目標を設定し、各戦略的ビジネス・ユニットでは独自の業績評価指標を設定することもできます。あるいは、全社的バランス・スコアカードにおいて、各戦略的ビジネス・ユニットが最低限達成すべき目標と業績評価指標を明示し、各戦略的ビジネス・ユニットのバランス・スコアカードにおいて、それを達成するための独自の方法を明らかにすることもできます。

合弁事業と整合性

シナジー効果の達成のためにバランス・スコアカードを活用することは、企業内よりも、合弁事業や独立組織間の戦略的連携において一層効果的です。

合弁事業等は、目標の明確化とそのシェアが難しいため、バランス・スコアカードに目標や業績評価指標を落とし込むことで、コミュニケーションを容易にします。合弁事業等にとっての成功とは何か、それを具体的にどのように評価するかを明らかにします。

機能別部門:企業の経営資源をシェアする

バランス・スコアカードは、戦略的ビジネス・ユニットよりも、本社スタッフ部門に応用することのほうが、遙かに啓発的であるという意見もあります。

本社スタッフ部門は、本来、戦略的ビジネス・ユニットやライン部門に支援的サービスを提供すべきところ、本来もつべきでない事実上の権限をもち、肥大化し、非効率で不要なサービスを強制することがあります。

このような状態を改善するため、スタッフ部門は、戦略的ビジネス・ユニット等のサービスを提供すべき部門を顧客とみなし、バランススコア・カードを作成することができます。そのなかで、いかにして低コストあるいは付加価値の高いサービスを提供するかを明らかにします。

この場合、戦略的ビジネス・ユニット等には、スタッフ部門からサービスを受ける代わりに、外部から同等のサービスを受けることができる自由を与えることが効果的です。スタッフ部門にとって競争環境をつくることになるからです。

バランス・スコアカードの構築プロセス、なかでも、顧客と社内ビジネス・プロセスに関する目標と業績評価指標を構築するプロセスは、スタッフ部門を顧客重視に変身させる重要な役割を果たすといいます。

非営利企業や政府公共機関

バランス・スコアカードは営利企業向けに考案されたものですが、政府公共機関などの非営利組織において利用することも可能です。

本来、財務的視点は、営利企業におけるターゲットであり、最終評価基準です。財務的視点における成果につながるものとして、他の3つの視点における目標や業績評価指標が設定されます。

しかし、非営利組織では、財務的視点は制約条件の役割を果たします。つまり、必要経費を予算内に納めるということです。

もちろん、必要予算として寄付金額の目標を設定することはできます。しかし、財務的成果が、非営利組織における成功を意味することはありません。成功は、あくまで関係者のニーズを効率的かつ効果的に充足することそのものです。