企業における戦略の立案と実行のためのマネジメント・システム(戦略的マネジメント・システム)は、およそ次のようなプロセスを踏みます。
- 戦略と方向性を確立し、お互いに理解し合う
- 経営資源を配分する
- 部門、チームおよび個人の目標と方向性を明らかにする
- フィードバック情報を提供する
このプロセスには、戦略的マネジメント・システムの円滑な遂行を妨げる4つの障壁があります。
- 実行不能なビジョンと戦略
- 部門のチームおよび個人の目標とリンクしない戦略
- 長期および短期の資源配分にリンクしない戦略
- 戦略ではなく先述へのフィードバック
これらの障壁を克服する架け橋として、バランス・スコアカードを活用することができます。
第1障壁:実行不能なビジョンと戦略
ビジョンや戦略は、どのように行動に落とし込むかについて基本的な合意がないと、実行段階で分裂状態となり、努力しても部分最適で不完全なものになります。
実態調査によると、経営トップの59%は、ビジョンをどのように実現するか明確に理解していると感じていますが、中間管理職や現場の従業員は、僅か7%しか理解していないといいます。
第2障壁:部門のチームおよび個人の目標とリンクしない戦略
各部門は、常に自部門の部分最適を目指そうとします。その原因は、企業全体のビジョンや戦略が、部門やチーム、個人の目標とリンクしていないからです。
仮に、部門やチームおよび個人の目標が、ビジョンや戦略から導き出されたとしても、ビジョンや戦略とリンクした報酬制度になっていなければ、その目標達成に動機づけられることはありません。長期的な戦略の実行を要求されても、報酬制度が従来どおりの短期的成果にしかリンクしていないことはよくあることです。
第3障壁:長期および短期の資源配分にリンクしない戦略
多くの企業は、長期的な戦略の立案と短期的(年度)予算の編成を別々のプロセスで行っているため、両者がリンクしないことがしばしば起こります。
事業の運営も、当然、短期的予算の実行として行われるため、戦略の進捗が顧みられることはほとんどありません。
第4障壁:戦略ではなく戦術へのフィードバック
業績に関する情報のフィードバックは、多くの場合、月次や四半期ごとの財務的数値として行われ、予算と実績が比較される程度です。フィードバック情報は、日常業務(戦術)の見直しにばかり活用されているということです。
戦略の実行と成功に関する指標を検討することはほとんどありません。戦略の基にある仮説を検証し、場合によっては戦略を見直すということもなされません。戦略についてのフィードバック情報を入手する方法が、そもそも用意されていないことがほとんどです。