社内ビジネス・プロセスの視点 - 「バランス・スコアカード」とは何か?④

社内ビジネス・プロセスは、戦略の実行そのものです。顧客への価値提案プログラムを実際にどのように実行するのかを定めます。自社が秀でなければならない重要なプロセスを明確することが重要です。

既存の価値提案プログラムの改善、あるいは新たな価値提案プログラムが求められているのであれば、社内ビジネス・プロセスにおいても新たなものが求められます。

したがって、社内ビジネス・プロセスの視点では、次の一連のプロセスを明確にします。

  1. イノベーション・プロセス
  2. オペレーション・プロセス
  3. アフターサービス

従来の社内ビジネス・プロセスに焦点を当てた改善活動は、部門単位で行われることがほとんどでした。しかし、顧客に製品やサービスを提供するビジネス・プロセスは、本来、部門横断的に統合化されたプロセスです。したがって、目標や業績評価指標も部門横断的なものでなければなりません。部門の視点ではなく、企業の戦略からあるべきプロセスが導かれるものでなければなりません。

社内ビジネス・プロセスの視点おける目標や業績評価指標は、一般的に、サイクルタイム、生産性、品質、コストなどが選ればれます。

イノベーション・プロセス

イノベーション・プロセスは、ビジネス・ユニットが顧客の潜在的ニーズを調査し、これらのニーズに合致する製品やサービスをつくり上げるプロセスです。いわゆる研究開発に対応します。

企業によっては、イノベーション・プロセスを支援プロセスととらえ、社内の主要なプロセスとして位置づけていないところもあります。イノベーションはアイデアが勝負であって、マネジメントはできないという発想がその典型です。プロセスを適切に管理することによって価値を生み出すという発想がないことを意味します。

しかし、ドラッカーが指摘してきたように、企業によって実現されるべきイノベーションは、天才のアイデアに頼るのではなく、体系的にマネジメントすることができます。戦略に相応しい適切なビジネス・プロセスを構築し、実行を管理しなければなりません。

特に、製薬、農業化学、ソフトウェア、ハイテク産業などでは、イノベーション・プロセスこそが主要なプロセスです。研究開発の段階において、コストや品質や価値の大半がつくり込まれます。オペレーション・プロセスよりもイノベーション・プロセスの方が大きな投資を要する場合も少なくありません。

イノベーション・プロセスは、2つの部分で構成されます。

まず、市場を明確化するプロセスです。市場規模や顧客の好み、製品やサービスの価格設定のポイントなどを明らかにするために、市場調査を行います。特に、顧客の行動の観察や、顧客との直接的な対話が重要です。この場合の業績評価指標には、新製品や新サービスの成功件数、現在および将来の顧客の選好に関する市場調査の準備件数などがあります。

次のプロセスは、製品やサービスの開発です。先に行った市場を明確化するプロセスの結果に基づき、顧客に価値を提供するために、まったく新しい製品やサービスを開発するための研究を行ったり、次世代の製品やサービスに現在の技術を利用できるように応用研究を行ったりします。さらに、新製品や新サービスを市場に投入する目的をもった重点的な開発努力をします。

製品開発業務は、業務内容が本来不確定ですが、だからといって、その都度場当たり的に業務を行っているわけではありません。その業界あるいは企業に応じて、一貫性のあるパターンを見出すことは可能です。そのパターンは、プロセスとしていくつかの段階に分けることができるはずですから、各段階ごとに相応しい業績評価指標を設定することができます。

例えば、一定のアイデア等のスクリーニングを行う段階では、歩留率が設定できるかもしれません。各段階について、サイクルタイムやコストを設定することもできます。

あるメーカーでは、新製品開発における最初の設計に欠陥があると、再設計や再検査を何度も繰り返し、製品開発プロセスを大幅に遅延させるため、業績評価指標として再設計回数を設定しています。

製品開発サイクルの有効な測定を行うため、「損益分岐点時間」という指標を導入している企業もあります。製品開発業務を開始し、製品を市場に投入し、当初の開発投資額kを回収するまでの時間です。

サイクルタイム、コスト、歩留率、損益分岐点時間などの業績評価指標は、革新的な製品よりも無難な製品の開発へのインセンティブを高めてしまうため、新製品の革新性や利益性を測る業績評価指標を併せて設定することによってバランスをとる必要があります。

例えば、半導体メーカがイノベーション・プロセスにおいて利用している業績評価指標として、次のようなものがあります。

  • 新製品売上高の割合
  • 主力製品売上高の割合
  • 自社の投入新製品件数 vs 競合他社の投入新製品件数、投入新製品件数 vs 計画新製品件数
  • 生産プロセスの能力
  • 次世代製品の開発に要する時間
  • 研究・開発の投資利益率(利益は、5年分)

オペレーション・プロセス

オペレーション・プロセスとは、すでに開発された製品や既存の製品の受注から販売完了までのプロセスです。このプロセスは反復継続することが通常ですから、科学的管理法によって改善を重ねることができます。

オペレーション・プロセスは、通常、部門横断的ですから、部門ごとに部分最適にならないようにしなければなりません。利用できる業績評価指標としては、品質、コスト、サイクルタイムに関するものが代表的です。

また、オペレーション・プロセスに何らかの際だった特徴がある場合は、それに関する業績評価指標を設定すべきです。例えば、オペレーション・プロセスの弾力性、正確性、エネルギー消費度などです。

プロセス時間の業績評価指標

サイクルタイムについては、顧客の立場からすると、対応時間ができる限り短いというよりも、納期の遵守、すなわち決められた納期を遵守すること(納期より早くでも遅くでもなく)において信頼性が高いことが求められます。

ですから、内部的にはできる限り短い時間で生産し、配送できるプロセスをもちながら、顧客にニーズに応じてジャスト・イン・タイムで生産・納品ができることを目指します。

ジャスト・イン・タイム方式の業績評価指標としてよく利用されるものに、次のように定義される「MCE(生産サイクルの有効性)」があります。

MCE=製品の加工時間÷スループット・タイム

「スループット・タイム」は次のとおりです。

スループット・タイム=加工時間+検査時間+移動時間+待機・保管時間

MCEは1に近づくほど理想的ですが、多くのオペレーションにおいて、MCEは5%以下に過ぎないといいます。

なお、ジャスト・イン・タイムの考え方は、製造業だけでなく、サービス業にも適用することができます。

プロセス品質の業績評価指標

プロセスの品質に関する業績評価指標には、失敗率、歩留率、無駄、スクラップ量、再加工量、返品率、統計的管理図のコントロール範囲を外れたプロセスの割合などがあります。

特にサービス業では、コストや迅速な顧客対応、および顧客満足度に不利な影響を与えるような社内ビジネス・プロセスの欠陥を明確にすると、品質に問題がある部分を評価する業績評価指標を開発することができます。

例えば、「わが社のサービス・プロセスにおいて、何が起こると顧客が不満に感じるか」と問うことは効果的です。

プロセス・コストの業績評価指標

伝統的なコスト計算では、個々の仕事やオペレーションのコスト、あるいは部門ごとのコストを計算することはあっても、一連のプロセスごとのコストを計算していませんでした。

一つのプロセスは、部門を超えた複数の仕事の流れであるため、プロセス単位でのコストの測定は困難でした。特に、間接費は、何らかの指標に応じて按分的に配賦するしかありませんでした。

後に「ABC(活動基準原価計算)」の登場によって、プロセスを構成する個々のアクティビティ(活動)のコストを基に、プロセス単位のコストを正確に測定できるようになりました。プロセスのコストは、それ自体が業績評価指標になります。

これによって、プロセス単位で、時間、品質、コストの3つをバランスさせることができます。

アフターサービスのプロセス

アフターサービスのプロセスにも、オペレーション・プロセスと同様に、品質、コスト、サイクルタイムなどの業績評価指標を設定できます。歩留に相当する指標として、顧客の要求に対応した電話の回数などが業績評価指標になります。

アフターサービスの完了から請求書の送付までの期間、請求書の送付から代金の徴収までの期間も、業績評価指標になり得ます。

生産工程の副産物として、環境に影響を及ぼすような物質、廃棄物、スクラップなどが出る場合は、これらの量や濃度、安全処理の性能などを業績評価指標として設定する必要があるでしょう。