経営環境の変化 - 「バランス・スコアカード」とは何か?①

バランススコアカードの特徴は、企業のビジョンや戦略を、複数の視点に基づいて、目標や業績評価指標に置き換えるところです。

経営環境が変化し、かつ複雑化、多様化していることから、複数の目標をバランスさせることが重要であるとする考え方があります。

経営環境の変化をもたらしたものの代表は、大量生産です。これらによって消費者のニーズは広く充足されるようになりました。

もう一つは情報化です。情報が世界に瞬時に伝わるようになり、グローバル経済が出現した一方で、多様なニーズもまた出てくるようになりました。

情報化時代における競争

1850年から1975年までの工業化時代の企業は、規模の経済と範囲の経済をいかに有効活用するかによって、その優劣が決まりました。技術が重要であり、特に標準的な製品を効率的に大量生産する新技術を有形資産に組み込むことのできた企業が成功しました。財務管理システムは、財務的資本と物理的資本の効率的配分とモニターを重視しました。

しかし、20世紀末の情報化時代の到来によって、企業は、単に新技術を素早く有形資産に組み込んだり、財務的資産や負債を上手に管理するだけでは、競争優位を獲得することができなくなりました。

情報化時代で企業が競争に勝ち抜き、生き残っていくためには、有形資産だけでなく、無形資産を有効活用する能力が必要です。

まず、顧客との関係を築く能力です。例えば、顧客との信頼関係、顧客が希望し要求している製品やサービスの提供などです。

次に、従業員との関係です。従業員の能力やモチベーションを引き出し、ビジネス・プロセス、品質、顧客対応時間などの継続的改善に方向づけることです。

さらに、情報を活用できる能力です。新たな情報技術、データベース、情報システムを採用し、有効活用することも必要です。

新しい経営環境

情報化時代の企業は、新しい前提の下に経営が成り立っています。

機能の専門化と統合

工業化時代の企業は、製造、購買、物流、マーケティング、技術などの機能的技術を専門特化させることで、競争優位を獲得しました。

情報化時代には、このような方法は、部門間の非効率、セクショナリズム、問題解決に対する対応の遅れなどを生む結果となりました。

部門や機能を横断し、統合化したビジネス・プロセスで経営することが必要です。

サプライチェーンの統合

情報技術によって、購買、生産、物流のプロセスを統合できるため、顧客の注文に応じた「引張方式」による生産が可能になります。

バリュー・チェーンに沿って組織が一丸となり、コスト、品質、納期を飛躍的に改善することを目指します。

ニーズの多様化

顧客は基本的ニーズを一度満たすと、他の人とはひと味違ったものを求めるようになります。

企業は、多様な顧客層に対して、他の人とはひと味違う顧客のニーズに合った製品やサービスを、可能な限り低コストで提供しなければなりません。

グローバル経済化

情報に国境はありません。市場はすでにグローバル化し、いかなる企業も世界中の優良企業と競争しなければなりません。

また、新しい製品やサービスに必要な巨額の投資は、国内市場からの収益では賄い切れなくなっています。

したがって、効率的で競争力を備えたグローバル経営と、それぞれの地域や国の顧客にマッチしたマーケティング・センスのバランスが求められます。

製品ライフサイクルの短縮化

製品のライフサイクルはますます短くなっています。

将来の顧客ニーズを読み、斬新な製品やサービスの提供を企画し、新しい生産技術を効率的な生産とサービスを提供するプロセスに素早く導入するためのイノベーションが不可欠です。

知識労働者の台頭

工業化時代の企業では、知的エリートと呼ばれるマネジャーやエンジニアと、製品を生産したりサービスを提供したりする従業員が区別されていました。

現在は、自動化と生産性の向上により競争が激化し、エンジニアリング、マーケティング、マネジメントといった分析的な業務に携わる知的エリートが増加しています。

生産やサービス提供に従事する者でも、品質の改善やコスト削減、サイクルタイムの短縮化の達成などに関する提案の善し悪しなど、知的能力が求められるようになりました。

したがって、従業員の知識に投資し、有効活用することが成功の鍵になっています。

多様な改善プログラム

企業は、これまでも、TQM(総合的品質管理)、JIT(ジャスト・イン・タイム)、時間ベース競争、リーン生産、顧客指向組織の構築、ABCマネジメント、エンパワーメント(権限を委譲し自主性を喚起)、リエンジニアリングなど、将来の競争に勝ち抜くための様々な改善プログラムに着手してきました。しかし、それらは企業の戦略や経済的成果に直結していなかったため、効果は不十分でした。

伝統的財務会計モデル

伝統的な財務会計モデルでは、年4回の四半期報告と年1回の年次財務報告によってコントロールする環境で、新しいプログラムやマネジメント・プロセスを変革しようとしてきました。このようなモデルによって、資産と企業能力を向上させ、企業を取り巻く利害関係者との絆や戦略との結びつきを強固にしようとすることは困難です。

なぜなら、短期の財務的な成果を強調し過ぎることにより、短期的な資産に過度に投資し、将来の成長の鍵となる無形資産や知的財産への投資にブレーキをかける可能性があるからです。

財務会計モデルは、理想的には、例えば、高品質な製品やサービス、やる気のある熟練した従業員、優れた顧客対応と予測可能な社内ビジネス・プロセスおよびロイヤリティーで満足感に満ちた顧客のように、企業の無形資産や知的財産の評価を組み込んだ財務会計モデルに拡大・発展させるべきです。情報化時代の企業には、このような無形資産や知的財産のほうが、成功に必要不可欠だからです。

しかし、現実には、それらに関して信頼性の高い財務的評価をすることは困難です。

財務的業績評価指標は、短期的な成果を求める傾向を生みやすいものの、現実には時差が生じることも多く、直近の会計期間にマネジャーがとった行動の結果が即反映されるとは限りません。

実際のところ、将来に向けて現在とるべき行動を教えることができないだけでなく、過去にとった行動についてすべてを語るわけでもありません。