企業業績の評価指標

企業の業績は、長期のものです。短期的な利益は、企業の業績の尺度として十分に信頼することができません。

一方で、長期間経過しない限り業績が判断できないというのでは、経営の舵取りはできません。

ドラッカーは、業績を測るためのダッシュボードとして、5つの計器(指標)が必要であると言います。5つの計器によって、自社がどのように事業を行っており、正しい方向に向かっているかどうかを知ることができると言います。

いずれの指標も正確な計測は困難です。厳密に測ろうとすることは、むしろ時間と労力の無駄にさえなります。ドラッカーによると、大事なことは絶対値ではなく傾向です。さらに、傾向の勾配です。

ドラッカーは、少なくとも3か月ごとに、5つの指標を評価し、公表しなければならないと言います。

市場地位

市場地位(市場シェア)が上がっているか、下がっているかを把握します。自社にとって大事な市場で、市場地位が改善していることが重要です。

市場地位は、大括りの製品分類から始まって、種類別、顧客種別などの個別市場での地位も評価します。

さらに広く製品分類を超えて、用途別で評価することも重要です。例えば、建築用の鋼材は、広い意味でコンクリートが競合材になります。

イノベーション

イノベーションの成績が、市場地位に見合ているかどうかを評価します。

  • イノベーションのリードタイムは短くなっているか、長期化しているか
  • 成功と失敗の比率は改善しているか、悪化しているか
  • イノベーションに取り組んでいる分野では、市場が成長しているか、あるいは、成長が見込めるか

などについて、競合と比較したうえで、評価します。

生産性

「生産性」とは、人、物、金などの生産要素について、投入に対する産出(付加価値)の比率です。

「付加価値」とは、産出額(売上高)から原材料、部品、サービスなどの購入額を引いたものです。つまり、自社内での仕事によって加えた価値です。

生産性こそがすべての経済価値の源泉です。生産性の向上は革新によって実現されます。まず、現在の事業において、各種資源の生産性を改善することによって実現されます。さらに、古くなった事業から、生産的な新しい事業に移行することによってもたらされます。

生産要素ごとの分析

生産性は、できる限り詳しく分けて評価しなければなりません。生産要素ごと、できればさらに詳しく分けます。例えば、人であれば、作業者、ライン事務職、スタッフ、経営管理者などに分けて評価します。

生産性の向上も、要素ごとに行うのが理想です。ただし、要素ごとに改善することが、他の要素の生産性を犠牲にすることになってはいけません。目指すべきは全体最適であり、全体生産性の改善に寄与する方向で、個別要素の生産性を改善することでなければなりません。

生産性の目標

あらゆる組織は、生産性に関して2つの目標を立てなければならないと、ドラッカーはいいます。

  • 8~10年の間に、資金の生産性を2倍にすること、すなわち、年率にして7.5%向上させること
  • 8~10年の間に、人員増を伴うことなく生産量を2倍にすること、すなわち、労働生産性を年率にして4~5%向上させること

個別に重要な物的資源についても、評価システムを伴った期限付きの生産性向上目標が必要です。

生産性を向上させるべき重要な生産要素

さらに、ドラッカーが、体系的かつ意識的に継続して生産性の向上を図るべき生産要素としてあげるのは、次の4つです。

  • 資金
  • 物的資源
  • 時間
  • 知識

資金の生産性に関しては、資金が主に何に投下されているかが重要です。根本的に生産性を高める方法は、生産性の低いものから高いものに資金を移動させることです。

売掛金や受取手形を通して顧客への融資に回されている場合は、その見返りとして何を得ようとしているかを考えなければなりません。収益性を高めるための信用供与であることが前提です。

原則、ルールを明確にして、回収速度を高めなければなりません。

貸し倒れの低さは制約要因であって、信用供与の尺度ではありません。ドラッカーが示す尺度は、返済(負債)が少ないところほど、より多くの信用を供与するというものです。

物的資源については、まず、その資源が何であるかを明らかにしなければなりません。同じ物であっても、用途や利用対象が違うのであれば、いかに生産性を向上させるかは違います。

病院にとっての「ベッド」は重要な物的資源ですが、重傷患者用、妊産婦用、健康診断用、手術後の回復用など、さまざまな用途があり、すべてを同じように扱うことはできません。

在庫や機械、建物については、回転率や利用率を高めなければなりません。在庫の場合は、販売を多くできるよう、在庫を置く場所や製品の組み合わせを戦略的に管理することが重要です。

時間については、まず物的資源に関わります。非稼働の時間、有効に使われない時間をなくすことです。

人的資源の時間生産性も重要です。本来の仕事ではない雑務に時間を取られないことです。

セールスマンは、書類作成や会議ではなく、営業に最大限の時間を割かなければなりません。看護師も、書類作成ではなく患者の看護に時間を割かなければなりません。

書類作成が必要であれば、専属の事務員を置くことです。これによって、セールスマンや看護師の生産性が著しく向上しています。

ところが、多くの経営者は、専属の事務員を置くことを人件費の無駄と考えます。実際は、専門職に本来の仕事をさせないことほど、人件費の無駄はありません。

知識の生産性に関しては、知識労働者の生産性の問題です。

キャッシュフロー

会社は、利益がなくてもキャッシュがあれば存続できます。しかし、利益があってもキャッシュがなければ存続できません。利益そのものは帳簿上の数字に過ぎず、キャッシュを保証するものではありません。

成長によって売上が急激に上昇している会社では、通常、帳簿上の利益も上昇していますが、運転資金の増大によってキャッシュは急激に減少している場合がほとんどです。

成長企業がキャッシュ不足で黒字倒産したり、成長部門を手放さざるを得なくなったりする例は少なくありません。

将来性を見越して、実際に資金需要が生じるかなり前から対策を講じておかなければなりません。

収益性

「収益性」とは、帳簿上の利益額や利益率ではなく、事業体としての利益を生み出す能力のことです。

利益額や利益率は、コスト削減や人員削減、不要不急の資産の売却、不採算部門から撤退によって、一時的に改善することがあります。そのような損益は除外しなければなりません。一般管理費の配賦分なども考慮しません。

収益性を測る方法として、ドラッカーが推奨するのは、3か年のローリング方式によって経常利益の推移を見る方法です。ローリング方式とは、3か年で言えば、2020年3月の数字を加えれば、1997年の3月を落とすという方法で、常に3か年分の合計値を算出します。

小規模企業などでは、無駄なコストを削り切っているような状態でも経常利益が小さく、変動が大きい場合があります。さらに、市場の変化が激しく、3か年のローリング方式では期間が長すぎることもあり得ます。

そのような場合は、売上高による1か年のローリング方式も考えられます。一倉定氏が推奨していた方法です。

無駄なコストがほとんどない前提ですが、売上高を使うことで比較的大きな数字を使うことができ、かつ、1か年の合計値を使いますので、不規則な短期的変動を吸収しつつ、傾向の変化を見極めることができます。

収益性は、利益幅(利益率)が小さくとも、回転率が大きければ、高くなります。ですから、利益幅を大きくする方向と、回転率を大きくする方向のどちらが自社の製品やサービスに相応しいかを考えなければなりません。

ただし、一方の改善が他方を犠牲にすることはよくありますので、まずは両方を同時に改善することができないかを考えるべきです。