事業の目標

事業を定義したら、次は目標として具体化します。ここからが戦略の始まりです。

戦略とは、事業の定義を現実の成果に結びつけるものです。

事業の目標によって、事業の構造、活動、人事の内容が定まります。個々の部門と仕事の内容も規定されます。

事業の目標は、事業の定義から導き出されるものですが、具体的なものでなければなりません。具体的な仕事と成果にそのままつながるものであり、動機づけと行動の基準、成果の評価基準となるものでなければなりません。

資源と行動を集中させる分野を明らかにするものでありながら、事業の成否にかかわるすべての領域で漏れなく定めなければなりません。

なお、現在推奨される目標設定の内容や方法の一つとして、カプランとノートンによるバランス・スコアカードがあります。

目標のあるべき姿

基本戦略としての目標

事業の目標ですから、事業の定義「われわれの事業は何か。何になるか。何であるべきか。」という問いから導き出されるものになります。ミッションを実現するための決意でもありますが、事業の成果を評価するための基準でもあります。

事業の目標は、事業の基本戦略そのものです。その意味で、「戦略目標と言うことができます。

行動のための目標

目標は、仕事と成果にそのままつながる具体的なものでなければなりません。できる限り数値化し、仕事の基準や動機づけとして機能できるものである必要があります。

集中のための目標

目標にはメリハリがあり、資源と行動を集中できるものでなければなりません。何が重要であるかが区別できなければなりません。

複数の目標

目標は、一つでなく複数設けなければなりません。マネジメントとは、多様なニーズをバランスさせることだからです。いくつもの尺度を使って、複数の側面から事業を見なければ、実体が分かりません。重要な活動に漏れが生じます。

「これだけやればよい」といった一つの完全な尺度を見つけようとしてはいけません。事業の成果を見誤り、目的は果たされません。

目標の領域

目標は、事業の成否に関わるすべての領域で定める必要があります。ドラッカーは、「事業によって目標の内容は異なるが、目標を設定すべき領域は事業に共通である」と言います。

ドラッカーは、個別目標を定める前になすべき基本的な意思決定があると言います。この点について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

ドラッカーが指摘する目標の領域は、次の8つです。

  1. マーケティング
  2. イノベーション
  3. 人的資源
  4. 資金
  5. 物的資源
  6. 生産性
  7. 社会的責任
  8. 必要条件としての利益

利益の目標は、他の目標を達成するために必要なコストを賄うものとして設定します。それぞれの目標について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

これだけの目標を定めることによって、次のことが可能になります。

  • 事業の全貌の把握(なすべきこと)
  • 個々の活動のチェック(なすべきことをなしたか否か)
  • とるべき行動の明示(いかになすべきか)
  • 意思決定の評価
  • 現場での活動の評価と成果の向上

組織は戦略に従います。目標があって初めて、事業の構造、活動、人事の内容が定まります。目標が定まっていない領域には、構造もなければ活動もありません。蔑ろにされることは必然です。

目標の使い方

目標は、仕事に具体化されなければ意味がありません。複数の目標を実行しますから、バランスも必要です。この点について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

一方、目標は期待ですから、未来を拘束するものではありません。方向づけを与えるものです。その意味で、鉄道の時刻表というより、航海のための羅針盤です。

命令によって押し付けられるものではなく、マネジメント自らが設定するものでなければなりません(自己目標管理)。

未来予測ではなく、未来をつくるために資源とエネルギーを動員するためのものです。

将来予測の手法

目標は未来の成果に関わります。未来の成果をあげるために、現在とるべき行動についての意思決定ができなければなりません。現在の手段と将来の成果、近い将来の成果と遠い将来の成果とのバランスを決めるものでもあります。

ですから、目標を設定するためには、将来を予期することが重要になります。

景気循環の迂回

事業の活動は経済社会の中で行われますので、経済情勢を無視した事業計画はあり得ません。

しかし、景気は予測できません。予測できるなら景気循環は起こらないからです。さらに、景気循環の周期は、事業上の決定を考えるには短か過ぎる場合がほとんどです。

必要なのは、景気循環に依存しないで済む方法です。景気循環から思考と計画を切り離す手法です。

ドラッカーは『現代の経営』において、景気循環を迂回して意思決定するための3つの手法を示しています。

  1. 最悪の想定
    • 経済は常に変動するものであると仮定しますが、景気循環は予測できませんから、現在景気循環のどの段階にあるかは考えないで済むようにします。つまり、過去の経験から想定される最も急激で最悪の状況を想定します。
    • 必要最小限の利益を知るうえで役立ちます。
  1. 底流分析
    • すでに起こってはいるけれども、経済への影響がまだ現れていない事象に着目します。代表的なものは、世帯数、人口構造の変化です。
    • 可処分所得の配分の変化も重要です。人口構造の変化によって主流となる世代の貯蓄・消費性向、可処分所得の配分のシフトが特に重要です。
    • 経済の底流となる事象、将来経済に影響が現れるであろう事象の発見に焦点を合わせます。将来起こる経済的影響の原因を探ることです。
    • 将来の影響を判断することは難しいですから、次の趨勢(トレンド)分析と一緒に使います。
  1. 趨勢分析
    • 予測に伴うリスクを小さくするための手法です。底流分析で特定した事象が、どの程度確実に、いつ起こるかを考えます。
    • 経済現象の趨勢は、景気循環の影響で上下することはありますが、長期的には一貫した傾向を持ちます。その趨勢を読み取り、将来に延長することで、影響を予測します。

予測を情勢に適応させて成果を出す方法

自社や自社が属する産業にとっての機会を明らかにし、自社の強みを適用することは言うまでもありません。

ただし、既存の強みをそのまま適用できるとは限りません。増強が必要な場合もあれば、新たな強みの獲得が必要な場合もあります。

目標として、機会に応えられるだけの知識と人材を用意すること、未来のための資源を生み出し、維持することが必要になります。

ただし、将来に関わる決定は、所詮推測にすぎません。推測は間違うことのほうが多いですから、あらゆる決定について、変更、適応、応急措置の道を準備しておく必要があります。

最も重要なことは、将来の経営管理者となるべきマネジメントを体系的に育成しておくことです。人的資源に関わる重要な目標です。

将来の経営管理者は、将来必要な意思決定を行うことができなければなりません。しかし、それ以上に重要なことは、現在において行った決定をフォローできることです。

なぜなら、意思決定は常に将来の成果に向けて現在において行うものだからです。将来必要な意思決定を行えたとしても、それは常に推測に基づいており、その決定を誰かがフォローできなければ、将来の成果は期待できないからです。

現在の決定を将来の情勢に適応させることができること、推測の背景を理解して現実の成果に結びつけるための行動ができることが、将来の経営管理者にとって重要なことです。