変化のためのマネジメント

ドラッカーは、今「世界」は数百年に一度の転換のさなかにあると言います。知識社会への転換です。専門知識が経済活動の中心的な資源となり、しかも個人がもち運べる資源です。

ただし、個々の専門知識は、課題の遂行に向けて、他の専門知識と統合されて初めて生産的となります。知識社会は組織社会でもあります。組織の機能は、仕事に知識を適用することです。

知識は急速に変化していくところに特徴があります。知識は専門分化する性質をもちますが、知識に対して最大の影響を与える変化は領域外で起こります。常に領域外の変化に目を向け、新たに学び続けることが必要です。

組織は、絶えざる変化を求めて組織されなければなりません。組織の日常的な仕事の中に、変化のためのマネジメントを組み込まなければなりません。

組織が生き残る鍵は変化を目的とすること

「西洋」の歴史では、数百年に一度、際立った転換が行われると言います。社会は数十年をかけて、次の新しい時代のために身繕いをします。世界観や価値観、社会や政治の構造、技芸や機関を変え、50年後には、新しい世界が生まれると言います。

ドラッカーは、今がそのような転換のさなかにあると言います。もはや「西洋」という言葉は当たりません。存在するのは「世界」あり、「世界」が転換しています。これ自体が基本的な変化の一つです。

転換の中身は、知識社会への転換です。専門知識が経済活動の中心的な資源となります。土地、労働、資本といった生産要素は、二義的な要素であり、専門知識があれば入手可能です。しかも、知識は個人がもち運べる資源です。

ただし、知識社会は同時に組織社会でもあります。個々の専門知識は、単独では役に立ちません。課題の遂行に向けて、他の専門知識と統合されて初めて生産的となります。ですから、知識労働者には組織が必要です。

組織の機能は、仕事に知識を適用することです。道具や製品やプロセスに対し、仕事の設計に対し、知識そのものに対しても、知識を適用することです。

知識は技能と違い、急速に変化していくところに特徴があります。4~5年おきに新たに学びなおさなければならないと言います。知識は専門分化する性質をもちますが、知識に対して最大の影響を与える変化は、その知識の領域外のところで起こることが常態化しています。ですから、常に領域外の変化に目を向け、新たに学び続けることを怠ることができません。

知識を陳腐化させるのは、新しい科学や技術に限りません。社会的なイノベーションも重要な役割を果たします。

組織は、絶えざる変化を求めて組織されなければなりません。確立されたもの、習慣化されたもの、馴染みのもの、心地よいものを体系的に廃棄していくよう組織されなければなりません。組織の日常的な仕事の中に、変化のためのマネジメントを組み込まなければなりません。

変化をマネジメントする

組織が生き残る条件は、変化に対応する組織となることです。変化のためのマネジメントを、組織の中に、日常の仕事の中に組み込まなければなりません。

未来を予測することはできません。予測できることは、「未来は予測しがたい方向に変化する」ということだけです。ですから、未来を予測し、その方向に進んでいこうとしても、おそらくは大きな代償を払うことになります。

最善の方法は、未来を切り拓くことです。それは、すでに起こった変化をとらえ、自らの強みを適用できる機会として利用し、自らが優位性を発揮できる市場を創造することです。

変化を求め、機会とすべき変化を識別し、それらの変化を意味あるものとする者のことを、ドラッカーは「チェンジ・リーダー」と呼んでいます。すべてのマネジメントはチェンジ・リーダーでなければなりません。

組織のあらゆる部門、あらゆる階層において、日常の仕事として変化をマネジメントし、変化に対応できるような組織をつくらなければなりません。そのような組織を「変革機関」(「チェンジ・エージェント」)と呼びます。

体系的廃棄

自らが行っていることのすべてを体系的に廃棄できるようにならなければなりません。数年ごとに、あらゆるプロセス、製品、手続き、方針について、「もしこれを行っていなかったとして、今分かっていることすべてを知りつつ、なおかつ、これを始めるか」を問わなければなりません。

もし答えが「否」であるならば、「それでは今、何を行うべきか」を問わなければなりません。そして、行動しなければなりません。「検討し直してみよう」などと言ってはいけません。

成功してきた製品、方針、行動についてこそ、延命を図るのではなく、計画的に廃棄しなければなりません。新しいものの創造に優良な資源を充てるため、陳腐化したものから解放しておかなければなりません。

改善

組織は、行うことすべてについて、絶えざる改善を行わなければなりません。日常の仕事のなかで、改善を体現しなければなりません。

改善の目的は、継続的な活動によって、2~3年後には、まったく新しい製品やサービスにしてしまうことです。改善が、最終的にはイノベーションをもたらすことにもなります。

改善は、あらかじめ目標を定めて行うことが必要です。ドラッカーは、年率3%程度が現実的であると言っています。

測定する成果が具体的に何を意味するかを明確にしておくことも重要です。単に「品質を上げる」という目標は、全く具体的ではありません。顧客が必要とするものに焦点を合わせ、具体化しなければ、改善が効果をあげるどころから、顧客離れを引き起こすことさえあります。

成功の追求

すでに成功しているものについて、新しい適用の方法を開発することです。自らの成功のうえに、新たなものを築いていく能力を磨くことであり、「知識の開発」と言い換えることもできます。

予期せぬ成功が最大の機会です。定例の報告会では、問題と同じくらいの時間を、期待を超えてうまくいっている製品やサービスの検討に割く必要があります。

活用すべき機会には、その重要度に応じて、もっとも優秀な人材を割り振っていかなければなりません。

成功の追求もまた、積み重なって大きなイノベーションとなります。根本的な変化、まったく新しいものを生み出すことにつながります。

イノベーション

変化と言えばイノベーションが真っ先に浮かぶかもしれません。イノベーションは華々しく、成功した場合の注目度は高いと言えますが、最も重要なものではないとドラッカーは言います。

むしろ、体系的廃棄、改善、成功の追求の仕組みの方が、意味のある場合が多いと言います。体系的廃棄なくしてイノベーションを行うことができず、改善や成功の追求の積み重ねが、長期的には根本的な変化につながるからです。

イノベーションにおいて重要なことは、変化を脅威と見るのではなく、機会と見るための姿勢を組織中に浸透させることです。そのためには、イノベーションの体系的なプロセスを組織の仕事として組み込み、実行していかなければなりません。

イノベーションを追求することにはリスクが伴いますが、イノベーションを追求しないことに伴うリスクに比べてはるかに小さいと言います。イノベーションは、天才的なひらめきやアイデアではなく、組織のあらゆる部門、あらゆる階層において実施されるべき日常の仕事だからです。

陥りがちな罠

現実と平仄の合わないイノベーション

第一の罠は、現実と平仄の合わないイノベーションを行おうとすることです。

現実にマッチしたイノベーションは、えてして当たり前で、魅力が足りないように見えるものです。現実と平仄が合わないことが、かえって新奇で魅力的に見えることが少なくありません。

新奇さを真のイノベーションと混同する

新奇さが魅力的に見えるため、イノベーションと混同することがあります。これが第二の罠です。

新奇さは面白いかもしれませんが、顧客が新たな価値を見出し、欲しいと思わなければ、イノベーションにはなりません。

体系的廃棄と組織改革を混同する

第三の罠は、体系的廃棄を即組織改革につなげようとすることです。

なすべきことが変われば、それに伴って必要とされる組織も変わる可能性はあります。しかし、それは、なすべきことが明らかになった後に、必要であれば行うべきことです。

変化のための手順と予算

小規模にテストする

改善や成功の追求、イノベーションは、すべて仮説からスタートします。事前の市場調査は万能ではありません。特に、まったく新しいものについては無力です。

仮に、一定の調査によって何らかのことが明らかになったとしても、最初から完璧なものはありえず、予想外の問題が生じることがほとんどです。最初に考えていたものとは必ず違ったものになります。

顧客は、想像によって自分の反応を正しく表現することなどできません。実物を見、触れたときに、違った反応をすることはよくあることです。

したがって、改善や成功の追求、イノベーションは、小規模にテストし、顧客からのフィードバックによって軌道修正を繰り返していくことが必要です。

そのためには、新しいのものの実現に意欲のある者を探さなければなりません。様々な障害を乗り越え、取り組み続ける意欲のある者です。周りから敬意を払われている者でなければなりませんが、必ずしも組織に属していなくてもよいとドラッカーは言います。

誰に対してテストをするかも重要です。意欲的な顧客を探すことも必要になる場合があります。

異なる予算を準備する

変化のための予算は、既存の事業のための予算とは別の考え方で準備しておかなければなりません。全体予算の80~90%は、既存の事業のための予算であり、最小限必要なものとして設定します。

残りが、変化のための予算、未来のための予算です。利益を生むためには一定の時間が必要ですから、好不況にかかわらず一定に保たなければなりません。

変化のためのパートナーシップ

組織は、内部に対しても、外部に対しても、継続することが前提です。顧客との関係についても、一過性のものではなく、長期的な関係性が重視されています。だからこそ、組織にとって変化は脅威と映りがちです。

確かに、継続には基盤が必要です。しかし、変化に対応しない組織は継続することができません。継続に必要な基盤こそ、変化を目的とすることです。

変化を機会とみなし、変化に強みを適用して、変化をリードする姿勢を組織の基盤とすることが必要です。組織の内部において、すべてのメンバーが、そのような姿勢を日常の仕事に反映させていくことが必要です。

組織の外部に対しても、変化のためのパートナーシップを継続的な関係の基盤にしてしまうことです。系列やサプリチェーンマネジメントにおいてすでに行われていることですが、あらゆるパートナーシップにおいて基盤としなければなりません。

変化のためのパートナーシップは、信頼に基づく迅速な連携が何よりも重要です。変化を速やかに共有するための情報への取り組みを怠ってはいけません。不意打ちや抜け駆けは絶対にしてはいけません。

2000年頃、フォード車においてブリジストンのタイヤがバーストする事故が多発したことがあります。

両社は原因を究明すべく連携を約束していましたが、フォードが不意打ち的にタイヤに一方的な原因があることを宣言し、ブリジストンは莫大な損害賠償を余儀なくされました。

その後、タイヤに原因があったとする証拠はなく、むしろ、タイヤの空気圧を想定よりも低く設定していたフォードの側に問題があったことが明らかになってきたと言われています。

変化への対応を評価する

変化への対応を評価・報奨する仕組みを組み込んでおかなければなりません。

変化が大事であることをいくら宣言しても、結果的に既存事業における問題解決などを高く評価しているのであれば、誰も真剣に取り組むことはありません。言っていることとやっていることが矛盾しているわけですが、そのようなことは稀ではありません。むしろ、よくあることです。

変化への対応は、元々リスクが高いものですから、取組自体を評価されない限り、誰も積極的に取り組むことはありません。一時的な評価・報奨だけでなく、昇進の機会も開かれなければなりません。

昇進は組織の本音を如実に表します。過去の栄光である既存事業の出身者、人事部門といったトップマネジメントお抱えの現場を知らないスタッフ出身者が重用され、変化への対応は常に傍流として可能性が限られている、といったことはよくあることです。

変化への対応を重視するという言葉が口だけであることを、誰もが直ちに理解してしまうことになります。