生産の原理

あらゆる仕事は、求められる成果(アウトプット)に向けてプロセスに統合されなければなりません。成果を生み出すためのプロセスですから、「生産プロセス」と呼びます。

生産プロセスを組み立てるに当たっては、適用できる「生産の原理」が存在します。ドラッカーによると、現在4つの原理が明らかになっており、それぞれが独自の制約条件、必要条件、特徴を持っています。マネジメントに要求される能力、スキル、仕事の仕方も異なります。

今現実に使っている生産プロセスにとらわれず、自社の製品(サービスを含む。)と生産の特質に従って、最適な生産プロセスを作る必要があります。また、その生産プロセスに適用される原理の要求を満足させる必要があります。

なお、生産の原理を変更するときは、仕事の仕方を改善するのではなく、仕事の仕方自体を新しいものに変えなければなりません。

4つの原理

現在明らかになっている生産の原理は、次の4つです。

個別生産

生み出される製品はすべて異なります。通常は受注生産であり、製品の在庫は持ちません。

作業の編成は、職種別ではなく仕事の段階別に行われます。仕事の段階に応じて、様々な職種の集団を組織しなければなりません。

リジッド(固定的)大量生産

ツール、材料、部品、最終製品が規格化されています。サービスを除き、通常は見込み生産であり、製品在庫を持ちます。

フレキシブル(適応的)大量生産

プロセス(ツール、材料、部品)は規格化されていますが、最終製品は多様です。製品の多様性は、組み立てによって実現されます。

製品の多様性の基礎にあるパターンを発見するための製品分析が重要です。部品を規格化することによって、顧客からの注文ではなく、在庫水準によって決められる生産日程に基づいて生産できます。

部品の在庫水準は、組み立てと配送に必要とされる時間に基づいて決定できます。受注後に、多様性を実現する組み立て工程を動かすことができれば、製品在庫は必要ありません。

コンピュータによる管理を導入して、リジッド大量生産をフレキシブル大量生産に転換すると、大幅なコストダウンが実現できます。

プロセス生産

生産プロセスと最終製品が一体です。1つの固定的な統合システムであり、段階や部品はありません。素材の組成やプロセスの条件を変更することによって、最終製品を多様にすることができる場合もあります。

中途半端に適用すると、生産の硬直化と高コスト化を招きます。

成果をあげるための原則

いずれの原理も、製造業のためのものとして発展しましたが、事務の仕事にも適用することができます。

生産の限界をなくし、成果をあげるには、次の2つの原則を守る必要があります。

  • 生産の原理を一貫して適用すれば、生産の限界はそれだけ大幅かつ容易になくすことができる。
  • 4つの生産の原理には進化の差がある。個別生産が最も古く、プロセス生産が最も進化している。

生産の原理を併用することはできますが、混合することはできません。併用するとは、プロセスをいくつかの段階に分け、それぞれを別の生産の原理で編成することを意味します。

マネジメントに要求されるもの

生産の原理によって、マネジメントに求められる能力、スキル、仕事の仕方が異なります。適用する生産の原理が進化するほど、設備投資が巨額となるため、将来のための意思決定の重要性が増していきます。

個別生産

マネジメントの第一の仕事は、注文を取ることです。

仕事の段階別に組織された機能別組織が最も適合します。マネジメントの機能はトップに集中させることができ、トップが機能別部門を調整します。

異なる製品に応じた仕事の段階と組織の編成・調整ができるような、技能に優れた人材が必要です。

大量生産

マネジメントの第一の仕事は、大量の製品を継続的に販売できる流通チャネルを作ることです。次の仕事は、顧客がそれぞれのニーズを製品の多様性に適合させてくれるよう、顧客を教育することです。

分析的な思考、日程管理、計画の経験を持つマネジメントが必要です。特に、フレキシブル大量生産では、事業を全体として見る能力を持ち、意思決定に優れたマネジメントが必要です。

リジッド大量生産では機能別組織が適用できます。ただし、製品と生産プロセスの一体性が強いので、部分的な変更が全体に影響を及ぼす可能性が高くなります。ですから、現場レベルでの意識決定や調整が求められ、機能別部門間の緊密な連携が必要です。

フレキシブル大量生産では機能別組織が適用できません。生産プロセスと製品との一体性が一層強く、多様なニーズへの対応を目指しているからです。変化への対応は一層頻繁で迅速でなければなりませんから、チーム型組織が必要です。

プロセス生産

マネジメントの第一の仕事は、市場を創造し、維持し、拡大することです。事業を全体として見る能力を持ち、意思決定に優れたマネジメントが必要です。

生産プロセスと最終製品が完全に一体化していますので、あらゆる段階と機能で、チーム型組織による密接な協力が不可欠です。