人事部の脱皮

人事管理を担うべき人事部は、スタッフ部門として組織され、種々雑多な業務を行っているのが実態です。ラインの実務経験をもつものは少なく、心理学や教育訓練、労働法や賃金問題の専門家が主流です。

そのために、「事業の成果に必要な仕事をする人のマネジメント」という肝心の仕事が蔑ろになっています。

というよりも、その肝心の仕事は、本来ライン部門が責任を負うべき仕事であり、スタッフの仕事と位置づけることは適当ではありません。

つまり、「事業の成果に必要な仕事をする人のマネジメント」という意味での人事は、ラインとしての仕事でなければなりません。本来、人事部は、ラインとして仕事をしなければならないのです。

人事部は、従業員のコストではなく、従業員の成果に焦点を当てなければなりません。

技術の変化

このような変化をもたらす第一の要因は、技術の変化です。

工場やオフィスのオートメーション化は、従来の人事部による画一的な教育訓練では対応できません。仕事の設計、編成、流れ、さらには組織内の諸々の関係を変えなければなりません。

工場のオートメーション化は、現場管理者を本当の意味で経営管理者に変えることを要求します。従来の現場管理者の仕事は、現場労働者に移されるか、生産工程のなかに組み込まれてしまいます。

いわゆる現場の管理監督の仕事はなくなり、計画、教示、エンジニアリング、生産工程管理などの技術サービスを調整する仕事が出てきます。

オフィスのオートメーション化においても、仕事の設計、流れ、関係、人員配置において、根本的な改革が必要です。

仕事の設計、流れ、関係などは、すべて人に関わる問題であり、人事そのものです。人事部は、このようなラインに直結した人事に取り組まなければならないのです。

労働力の構成の変化

変化をもたらす第二の要因は、労働力の構成の変化です。特に、肉体労働から知識労働への重心の移行です。つまり、知識労働者の生産性が中心的な課題になります。

知識労働者の生産性は、量の問題というよりは質の問題です。「どれだけ行うか」よりも「何をどのように行うか」が重要です。その意思決定に最大の役割を果たすのは、その仕事の分野に専門的に精通した知識労働者本人です。

つまり、知識労働者の生産性は、適材適所の人員配置にかかっています。姿勢、情報、仕事の流れや関係、仕事やチームの組み立てが、知識労働の生産性を左右する決定的な要因になります。

この点も、ラインに直結した人事です。

労働力の重心の知識労働者への移行は、昇進コースや、報酬や報奨の見直しも要求します。

伝統的な昇進コースは経営管理の段階でしたが、知識労働者にとって、経営管理ポストへの昇進は、間違った報奨です。

通常、優れた知識労働者は、専門的、技術的な仕事を続けていくことを好みます。専門的な仕事に秀でており、そこに喜びを見出しています。それゆえに、経営管理に優れた者が多いわけでもありません。

さらに、労働力の重心の知識労働者への移行は、伝統的な組織構造の見直しも要求します。

経営管理者は知識労働者のボスにはなり得ません。その専門分野の仕事に関しては、知識労働者の方がプロだからです。経営管理者は、その企画係や調整係として支援的な役割を担います。

この点からも、知識労働者の仕事、責任、関係、報奨を徹底的に検討し、設計し直さなければなりません。

ラインのための人事部

人事部は、単に決まった場所に人材を供給することよりも、ポストそのものと、ポスト間の関係の設計に取り組まざるを得なくなります。

以上のように、人事部は、今後、ラインの仕事に入り込んで行かざるを得なくなります。

個人の実証ずみの業務遂行能力と、ポストの要求する要件との適合性の評価手法の実行は、スタッフ的な仕事です。しかし、それに基づいて人事配置を最終的に決定する者は、ラインの管理者であり、人事の評価に対して拒否権を有します。

しかしながら、本来は、評価を行った者が意思決定者であり、責任を負わなければならないのが筋です。ですから、スタッフの仕事でありながら、ラインの機能をもち、権限と責任をもたなければならないのです。

したがって、人事部の機能には、仕事の組み立てと流れ、人員の配置など、ラインの仕事に精通していることが求められます。