価格設定はマーケティングの重要な要素です。
製品やサービスありきといった企業側の視点で設定するのではなく、顧客が買うものに着目して設定する必要があります。製品やサービス単体で設定することがよいとも限りません。
ですから、顧客の声を聞き、ニーズ、使い方、様々な事情などを考慮しなければなりません。
価格設定には困難を伴いますが、少なくとも、やってはいけない価格設定があることをドラッカーは教えてくれます。
利益幅の重視
特に新しい製品を市場に投入した企業が、先行者利益を重視するがゆえに陥りやすい価格設定です。
多くの場合、次々と新しい機能を追加していくことによって、最大の利益幅を生むように価格を設定しようとします。結果的に、競争相手に無競争で市場を与えることになりがちです。
ゼロックスは、コピー機を開発し、次々と機能を追加しては最大の利益幅となるように価格を設定しました。
結果的に、単純な機能で十分な顧客の空白市場が生まれ、キャノンに奪われました。
アメリカの自動車市場は大型車が主流でしたが、フォルクスワーゲンが参入することで、小型車市場が存在することを証明しました。アメリカのメーカーは利益幅が小さいことを理由に、その市場を放っておきました。
そこに日本のメーカーが参入し、市場を席巻しました。アメリカのメーカーは、大型車にこだわり、値引きとリベートを駆使し、結果的に利益幅を著しく小さくしてしまいました。
利益幅を大きく取っても、顧客のニーズに合致せず、販売量が減少しては、総体としての利益額は小さくなります。
一方、利益幅が小さかったとしても、販売量が大きくなれば、総体としての利益額は大きくなります。
意味のある利益幅とは、最大の利益幅ではなく、販売量を加味して最大の利益をもたらす最適な利益幅です。短期的な利益ではなく、長期的な利益をもたらす最適な利益幅です。
限度一杯の価格設定
市場が受け入れる限度一杯に価格を設定することです。利益幅の重視と似ています。
利益幅の重視は、主に、新しい機能の追加を根拠に利益幅を乗せていきますが、限度一杯の価格は、現在の製品に対して市場が受け入れてくれる最高の価格を設定します。
アメリカの企業がファックスを発明し、製品化した際、限度一杯の価格設定をして販売しました。
これに対し、日本のメーカーは、市場獲得を重視して、2~3年先に採算が取れるような低価格で参入し、市場を奪いました。いわゆる市場浸透価格戦略です。
デュポンは、ナイロンを開発し、市場に導入した際に、5年後に採算がとれるような低価格を最初から設定しました。その結果、競争相手の出現を5~6年も遅らせることに成功しました。
さらに、用途開発によって新市場を自ら生み出し、結果的に大きな利益を得ました。
コスト中心の価格設定
必要なコストを回収したうえで利益を出す必要があるため、必要なコストを積み上げ、それに利益を上乗せして価格を設定するものです。
顧客の視点を無視した価格設定であると言えます。
顧客は、メーカーのコスト事情を考慮したうえでメーカーに利益を保証することに関心はありません。そのような責任があるとも考えません。
必要なことは、顧客が快く支払ってくれるであろう価格と競争相手が設定するであろう価格を考慮して、自らの販売価格を決めることです。
そこから必要な利益を差し引いてコストを設定し、コストの範囲内で提供できるように製品を設計します。
決して簡単なことではありませんが、コスト中心の価格設定によってスタートを誤り、損失を出し続け、市場を失うよりはましです。