「ジャスト・イン・タイム」とは何か? − 「トヨタ生産方式」とは何か?②

「ジャスト・イン・タイム」とは、トヨタ生産方式おける柱の一つであり、ある工程に必要な部品が、必要なときにその都度、必要な量だけ、その工程の脇に到着するということです。

その状態が全社的に実現されれば、経営を圧迫する在庫をゼロに近づけることができます。

従来の生産計画の問題点

生産現場の計画は、予測の狂い、事務管理上のミス、不良や手直し、設備故障、出勤状況の変化など、変更を生じさせる要因が無数にあります。

これらの要因により前工程で問題が発生すれば、後工程では必ず欠品などが生じ、ライン・ストップか計画変更を余儀なくされます。

このような現状を無視して、各工程に生産計画を示すと、後工程とは無関係に部品が生産され、一方では欠品が生じながら、他方では不要不急な部品の在庫が積み上がるという事態が生じます。

さらに悪いことは、生産現場の各ラインにおいて、正常と異常の状態の区別がつかなくなることです。

従来の「前工程が後工程へ物を供給する」という考え方では、ジャスト・イン・タイムの実現は困難でした。

そこで、「後工程が前工程に、必要な物を、必要なときに、必要な量だけ引き取りに行く」という逆の発想で考えました。「前工程は引き取られた分だけを作ればよい」ことになります。

多くの工程をつなぐ手段としては、何をどれだけ欲しいのかを表示する「かんばん」を各工程間で回すことによって、必要量(生産量)をコントロールすることを考えました。

そこで、最終工程である総組立ラインを出発点とし、そこだけに生産計画を示し、組立ラインで必要なものは、組立ラインの方から「必要な物を、必要なときに、必要な量だけ」後工程に引き取りに行きます。前工程は、引き取られた分だけを作るようにします。

アメリカのスーパーマーケットからのヒント

トヨタ生産方式を運営する道具である「かんばん方式」は、アメリカのスーパーマーケットがヒントになっています。

スーパーマーケットは、顧客にとって、必要とする品物を、必要なときに、必要な量だけ入手できる店です。顧客がいつ何を買いに来てもよいように、品物を揃えておかなければなりません。

これを生産ラインに当てはめると、顧客が後工程、スーパーマーケットの店頭が前工程です。後工程である顧客が、必要な商品を、必要なときに、必要な量だけ、前工程であるスーパーマーケットの店頭に引き取りに行きます。前工程は、後工程が引き取った分だけを補充します。

かんばん方式

スーパーマーケットに習った後工程引取方式を、工場で実際に運用するために、大野氏が導入したのが「かんばん」です。

一般的な「かんばん」は、長方形のビニールの袋に入った一枚の紙切れです。これが、「引き取り情報」または「運搬指示情報」、および「生産指示情報」として、工場と協力企業を巡ります。

スーパーに当てはめると、顧客が購入した品物をレジで打ち込み、その内容を記載したカード(「引き取りかんばん」に相当)を仕入れ部に送り、これを基に速やかに商品を補充します。

もし、スーパーマーケットが隣接地に自身の生産部門を持っているとすると、店との間の「引き取りかんばん」の他に、連動した「生産指示かんばん」によって、引き取られた数量だけ生産します。

「かんばん」はジャスト・イン・タイムを達成するための手段です。いわば生産ラインの自律神経であり、それに基づいて生産現場の作業者たちは自ら作業に着手し、残業時間を判断します。

実際の引き取りや運搬、生産を指示するのは、生産計画ではなく「かんばん」です。

「かんばん」は必ず現物と共にあります。「かんばん」がないときは、運んだり、作ったりしてはいけません。

現物がなく「かんばん」のみがあるとき、指示が出ていることを意味します。それが「引き取りかんばん」または「運搬指示かんばん」であれば、後工程は前工程に引き取りに行きます。それが「生産指示かんばん」であれば、前工程は、それが外れた順に作ります。

「かんばん」の枚数が在庫数を意味しますので、「かんばん」の枚数をできる限り減らしていこうとしなければなりません。

在庫数を減らメリットは、作り過ぎのムダを排除するだけでなく、不良品を作るムダを排除し、100%の良品を作ることにもつながります。

なぜなら、余分の在庫がなければ、前工程で不良が発生すると、後工程がストップします。しかも、それが誰の目にも明らかになりますから、「不良品を出した工程が痛みを感じるシステム」になります。

不良品はすぐに前工程に返し、再発防止に役立てます。不良品の背後には不良作業がありますから、作業方法や作業時間にムダ、ムラ、ムリが生じないように、作業の合理化・標準化が必要です。

必要なときに必要な情報を

コンピュータの高性能化によって、短時間で大量の情報を処理し、大量の情報を供給できるようになりました。しかし、大量の情報がスピーディに提供されることが経済的であるとは限りません。

過剰な情報は、生産現場にとって不要な情報が含まれる可能性を意味します。スピーディな情報提供は、早すぎる情報が届く可能性を意味します。

不要な情報が早すぎるタイミングで提供されると、現場は多くの情報を処理しなければならず、しかも情報が次々と押し寄せることによって急かされるようになるため、現場を混乱させる要因になります。

多過ぎる情報は進み過ぎや作り過ぎを誘発し、順序間違いや欠品の原因になることもあり、計画変更が簡単にできなくなります。

必要な物が、必要なときに、必要な量だけ、生産ラインの脇に到着することが重要であることから、情報についても、必要なときに必要なだけ、生産現場に送られることが重要です。

必要なときに必要なだけ送られてくる情報は、自動的な微調整機能を持ちます。常に漸増、漸減を繰り返す市場への適用をやりやすくします。

微調整の機能とは、その計画の進行具合がゴーなのか、一時ストップなのかを指示するだけでなく、なぜストップなのか、どう微調整すればゴーになるのかを発見できるようにしてくれるものでなければなりません。

トヨタの生産計画

トヨタ生産方式がジャスト・イン・タイムであるからといって、生産計画が全くないわけではありません。計画なくして事業運営はあり得ません。

トヨタであっても、ただ単にその場その場の顧客ニーズに追随しているわけではなく、定期的に新製品を開発したり、既存の製品ラインをリニューアルしたりします。積極的なマーケティングも行っています。

ですから、それに応じた開発・販売・生産計画が、中長期的なものから短期的なものまでなければなりません。

『トヨタ生産方式』によると、年間計画があります。それに基づく月度生産計画は、前々月に内示され、前月に確定します。それに従って日程計画が策定され、前月後半には各ラインに通知されます。

ただし、日程計画だけではどのような順序で作るかは分かりません。平準化生産のためには、その順序が重要ですから、別途「順序計画」が策定され、最終組立ラインにのみ通知されます。それより前の工程には、「かんばん」が順次生産を指示していきます。