常識の逆転 − 「トヨタ生産方式」とは何か?①

トヨタ生産方式における「後工程が前工程に引き取りに行く」という考え方は、ものごとをひっくり返して見ることであり、脱常識あるい逆常識の見方です。

ニーズから発想し、生産に遡り、そのまま実践しようと考えました。本来、顧客は、必要なものを、必要な分だけ、必要なときに買う、という自然の流れに従おうとするものです。

ところが、企業の側からすると、これは考え方の根本的な逆転であり、企業のトップが意識革新をして、在来の生産・運搬・納入の流れを逆転させる意思決定を下さなければなりません。

勇気のいる決断であり、激しい抵抗を覚悟しなければなりません。

抵抗への対処

トヨタ生産方式を構想した大野耐一氏は、当時、経営のトップではありませんでしたから、自身の責任範囲において少しずつ実践していきました。

その間、周囲からの激しい抵抗を受けたものの、大野氏の上司は、その抵抗から大野氏を護り続けました。このトップの強い意思は絶対的に不可欠でした。

「必要なものが、必要なときに、必要な量だけ、ライン・サイドにぴたりと到着する」ようにすることは、前工程にとっては、作る物が前もって示されないことを意味しますから、心理的な抵抗感が決して小さくありません。

引き取られた分だけ作ろうとすると、段取り替えの問題も出てきますので、段取り替えの時間を短くし、ロットをできるだけ小さくするニーズが生まれます。

取り組みの最初に起こりやすい問題は、後工程が同じ種類の物をまとめて引き取ろうとすることです。これをされると、前工程は直ちに欠品が起こします。何がいつ引き取られるかが分からないので、あらゆる物を多めに作っておこうとします。

すべての工程がこのようになってしまうと、工場の至るところで在庫の山になります。これでは、作り過ぎを助長することになります。ですから、後工程引き取りの実現は、前工程にとっても後工程にとっても作り方の改革です。

後工程引き取り方式は下請いじめであるという意見がよく出てきますが、大野氏は、社内で問題を出し尽くすため、20年近くをかけて社内だけで試行錯誤を繰り返しました。その間、一切、外注部品には適用しなかったのです。

下請いじめという意見には一定の正当性があります。現実に、自社の作り方を変えずに、外注部品の引き取りだけに「かんばん」を使うと、たちまち凶器に変わります。

手法だけにとらわれて、その本質にある考え方を理解していないと、そうなります。手法は、考え方を体現して生まれてくるものですから、考え方の理解が真っ先に重要です。

市場の”いま”を的確にとらえて活かす

顧客にとって、必要なものを、必要な分だけ、必要なときに買うのは、自然の流れです。企業がこの流れに従って商品を供給するために、いかに「売れ筋」を掴むかに腐心します。

「売れ筋」を知ることは、販売機会の損失を防ぐために有効です。売れない物を撤去して、売れる物をより多く売ろうとするのは、売上を上げるための定石です。

最近では、POS(販売時点情報管理)システムが当たり前のように普及しているため、小売店でも、限られた販売スペースを有効活用して売上を増やすため、「死に筋」を速やかにカットして、「売れ筋」の販売スペースを増やすことは効果があります。

ところが、「売れ筋」の情報に依存し過ぎると、売れない商品の山を作ることになる可能性があります。POSは大量の情報を素早く正確に収集し、提供するため、その情報に頼り、翻弄されがちです。

「売れ筋」は変化していきます。POSは店頭に並んでいない商品の情報を提供することができないため、明日の「売れ筋」を正しく知ることはできません。

POSは強力な情報ツールであるからこそ、有効に使いこなす必要があります。POSの情報においてまず重視すべきは、売れなくなった「死に筋」の実態です。売れない商品群を店頭から撤去してしまうことです。

「死に筋」の商品を次々と落として空白の棚を作り出すことこそが重要です。その空白は、単にPOSから得られた「売れ筋」を置く場所ではなく、新たな「売れ筋」を発見するための実験場です。

実験場でテストするのは新商品です。ただし、新商品を闇雲に並べるのではなく、一定の仮説に基づいて選ばれ、あるいは開発された新商品を並べ、その仮説を検証するのです。

仮説の設定に役立つのがPOSの「売れ筋」情報です。時々刻々に変化する情報というよりも、「売れ筋」の傾向から一定の仮説を立て、明日の「売れ筋」を予想し、発見し、あるいは開発するのです。