シンボリック・アナリストの教育 − 「シンボリック・アナリスト」とは何か?⑮

新しいデザインや創意の持つ価値が、標準化製品の価値よりも大きくなるにしたがって、シンボリック・アナリストに対する需要はさらに高まります。

これによってシンボリック・アナリストが更に高い所得を手にすることは確実です。

世界全体のシンボリック・アナリストの供給は増えつつありますが、この分野でアメリカ人が優位を維持するだろうことは間違いありません。

その理由の一つは、アメリカほど、最も恵まれ、才能の豊かな子供をうまく教育している国はないからです。もう一つは、アメリカほど、現に活躍しているシンボリック・アナリストが多数おり、それだけお互いに学習し合える条件に恵まれている国はないからです。

アメリカが誇る創造的教育

アメリカの学校は、かつて、国民経済の姿をそのまま反映し、標準的組み立てラインにも似た教育を行っていました。

標準カリキュラムが科目別に細かく分かれ、定められた時間内で授業が行われ、その課程は順序正しく学年ごとに配置されていました。

評価は、標準化されたテストによって管理され、単位が取れない学生は不合格となり履修し直すようになっていました。

経済構造が劇的に変化したにもかかわらず、教育システムが劇的に変わることはありませんでした。

アメリカ人の生活において、転換の望まれる時期には、「基本に戻れ」と主張する声がにわかに大きくなります。自称改革者たちが、全国的に統一された標準的教育の徹底に戻ることを訴えました。

そのような中で、一部の子供たちには、シンボル分析的な仕事を生涯の仕事とするだけの条件が完璧に整っていました。ある子供たちはエリート養成の私立学校に入学し、名門大学や定評のある大学院に進学しました。残りは、水準の高い郊外の公立学校で子供時代を過ごし、進学コースを経て、四年生大学(カレッジ)へと進みました。

そのような子供たちの親は教育に関心が高く、子供たちの進学にも熱心です。子供たちを美術館や文化的催しに連れて行ったり、海外旅行を経験させたり、音楽のレッスンを受けさせたりします。

学校の設備は充実し、先生や教授たちは子供たちの勉学に親切です。少人数クラスで、仲間はお互い知的に刺激し合います。

初歩段階で習得する4つの基礎的技能

シンボリック・アナリストの卵たちは、読み、書き、計算する能力を高めるほか、問題とその解決を頭の中で概念化するために、①抽象化、②体系的思考、③実験、④共同作業の4つの基礎的技能を集中的に訓練し、習得します。

抽象化

抽象化は、無秩序にパターンと意味を発見することです。混沌とした現実を単純化することによって、新しい形で理解し、操作することが可能になります。

シンボリック・アナリストが用いる技術は、その専門分野によってそれぞれ異なりますが、生のデータを操作可能な形に、ときには独創的なパターンに抽象化するという過程は共通的な技能です。

米国で最高の初等・中等教育における進学課程や、アメリカ最高の大学におけるセミナー教室や研究所では、カリキュラムに柔軟性があり、教師との間に交流があります。

知識の伝達に重点を置くのではなく、判断と解釈が中心です。学生は、事実の背後に目を開かされます。

体系的思考

体系的思考は、抽象化の一歩先の段階です。新しい機会を発見するためには、人間は全体を見渡す能力と、現実を構成する要素が互いに関連し合っている過程を理解する能力が必要です。

標準的な解決で一件落着と思われる一見して単純に見える問題が、実はより基礎的な問題の前兆であり、解決したと思っても、また違った形でどこかに現れるということもあります。

その原理的な問題を解決することによって、シンボリック・アナリストは大きな価値を付加することができるのです。

体系的思考を重視する教育では、提示された問題の解決を教えられるのではなく、学生はどうしてその問題が生起したのか、他の問題とはどう関連しているのかを検証する方法を教えられます。

様々な要素、変数、さらには結果の体系全体のどこに着目して、それをいかにして意味づけできるかということが重要です。そうすれば、予期できない関連性や見込みのある解決が、大きな視野の中から発見されます。

実験

より高度な抽象化と体系的思考を習得するためには、実験によって学習しなければなりません。

新しい経済の世界では、テクノロジー、嗜好、市場が常に流動的であるため、実験の習慣と手法が正に重要です。

通常の教育では、学生が自分の判断で探検する機会を与えられることはほとんどありません。自分で探検することは、定められた領域を習得する手段として非効率だからです。

しかし、最高レベルの教育クラスでは、定められた手順に沿って教えられるのではなく、学生たちに一揃いの道具を与え、自分で進む道を探させます。その目的は、実験のテクニックを磨くことにあります。学生に、自分が続けている学習に対して責任を持つように指導することが重要です。

共同作業

共同作業は、シンボリック・アナリストが通常チーム単位で仕事をすることから重要になります。お互いに問題と解決の仕事を分担します。

シンボリック・アナリストの活動は、方向性がないように見えるかもしれませんが、それが未知の問題点と解決法を発見する唯一の方法であるということがよくあります。

グループ作業は、一般的に個人的作業と違って監視や管理が容易ではなく、個々の学生がその与えられた課題を終了したかどうか判断することが難しいと考えられています。

しかし、アメリカの最高の授業では、個人個人の達成と競争に代わって、共同学習に重点が移されています。学生たちは、自らの主張を明瞭にしてから、お互いにどうすれば発見でき、回答が見つかるかを語り合います。

仲間の批判をどのように求め、受け入れ、助言を仰ぎ、どのように他人を信用するかを学びます。さらに、交渉することを学びます。

自分の要求を説明し、他人の要求を見分け、他人の立場から物事を考えたうえで、お互いに有益な解決法を見出します。

これは、シンボル分析に必要なチームワークを生涯にわたって身につけるための理想的な準備です。

仕事を通じた学習

シンボリック・アナリストの勉強は、仕事に就いてからも続きます。

アメリカでは、シンボリック・アナリストが分野ごとに特定の地域に集中しており、その地域の中で生活と仕事を共にし、仲間と共通する問題解決、問題発見、戦略的媒介に携わることを通して、互いに学んでいます。

地域の内部には、さらに専門化したゾーンが存在し、それぞれが世界市場に呼びかけています。

アメリカの主要大学の周辺では、教授、大学院生、若手研究者がチームを作り、得意とする技術、市場、あるいは経営実践の世界レベルの専門知識を売り物にしています。

このようなシンボル分析特化ゾーンを、地球上の別の場所に作り出すことは簡単ではありません。彼らが生み出す発明や洞察力は速やかに地球上を駆け巡りますが、その新しい発想が生み出される、蓄積され体得された学習成果としての技能は、簡単に移植できるものではないからです。

シンボル分析には、現場の実地訓練が重要です。卒業後は、仕事を通じて学習が続けられます。複雑な問題で悪戦苦闘することが、さらに複雑な問題に対応できる洞察力や方法論を育て、繰り返し経験することによって学習が蓄積されていきます。

チームの参加者の間で行われる、その場に応じた議論もまた、重要な学習環境です。シンボル分析特化ゾーンでは、洞察力と経験が広く共有されています。

抽象的な着想を考え出し、それを人とコミュニケートする仕事の場合、その着想が誰かに伝達されるや否や、その場で仕事が始まります。したがって、その地域に近ければ近いほど、創造力のもたらす恩恵に預かれるのです。

ネットワーキング

地域の噂話は、優れて効率的かつ専門的な仕事の極秘情報になります。誰がその技能で優れていて、それがいつ、どんな形で最高に活かされるかということに、地域の人々の関心を向けさせます。

戦略的媒介者は、このような情報によって、特定の問題を発見し解決するのに必要な才能や技能を、用意することができます。

日常的な会話を通して、シンボル分析特化ゾーンの中で繰り広げられる「ネットワーキング」の現象がどんなものかが理解できます。「ネットワーキング」とは、何が行われているかを感覚的に知ると同時に、自分自身を人に知らしめる学習の過程です。

シンボリック・アナリストは、地域内でプロジェクトからプロジェクトへと移る度に、経験を積み、技能を高めていきます。

数年間同じ組織にとどまり、そこに属するパートナーや従業員とチームを組んで仕事をすることもありますが、多くの場合は短期間の契約です。フリーランスのシンボリック・アナリストもいます。

相対的には、シンボル分析特化ゾーン自体が、ある種の大きな仲間同士の親密な組織として機能しており、プロジェクトが生まれる度に、そこに属している人々の技能がそれに応じた形で結び合わされるようになっています。

人材が密集しているからこそ、すぐに必要とされる専門的な対人サービスとその施設を揃えたローカル市場が生まれます。

シンボル分析特化ゾーンの形成

シンボル分析特化ゾーンは、自然発生的に生まれます。

最初は、一連の公共設備と、数えるほどの創造的な天才しかいないところから出発します。やがて、この有望な環境が一部のシンボリック・アナリストを惹きつけ、彼らの活躍がさらに多くのシンボリック・アナリストを惹きつけます。

これらのグループが、問題を解決し、発見していく経験を積むにつれて、グローバルな企業組織網に価値を付加し始めます。

重要なのは、成功に至るプロセスが穏やかで、かつ複雑であり、公共と民間の相互作用に依存するところが大きいということを理解することです。

仮に一つのゾーンが世界的なセンターに生まれ変わったとしても、ずっとその地位にとどまれる保証はありません。成功は失敗の始まりかもしれません。あまりにも密集し過ぎて汚染が起こったり、物価が高くなって集まってきた若者に耐えられなくなるかもしれません。

あまりにコミュニケーションの速度が速く、緊密になり過ぎることが障害となることもあります。シンボリック・アナリストの力が分散され、不断のイノベーションよりファッションを先取りすることに目が行ってしまうからです。

あまりに緊密化してしまったコミュニティの中では、取引上の秘密情報が漏れたり、株式のインサイダー情報が流布されたりします。

そうかと思うと、信頼されていた従業員が競争相手に引き抜かれたり、顧客やクライアントを持っていかれたりすることもよくあります。そうした背任が訴訟沙汰になり、それ以上に悪化することもあります。

それでも、アメリカの誇るシンボル分析特化ゾーンは、驚くほどの復元力を持っています。その内部では、概念としてとらえるにはより難解な問題に対して、それを解決し、発見し、媒介する能力を高めようと努力しつづけています。