企業における新しい「クモの巣」組織 − 「シンボリック・アナリスト」とは何か?⑧

高付加価値型企業は、強権を持った最高経営者が何重もの管理者層を統括し、その何倍もの時間労働者の集団の頂上に立つような、ピラミッド型組織を必要としません。誰もが標準作業手順に従って働くような生産方式を必要としません。

新たな企業価値を高めるのに大いに貢献した問題解決者、問題発見者および戦略的媒介者の三者は、絶えず新しい機会を探し出すため、お互い緊密な接触を保っている必要があります。

タイミングよく問題を解決するためには、メッセージは早く正確に伝達されなければなりませんから、官僚組織が役立つ場面はありません。

戦略的媒介者の仕事の一つは、問題解決者および問題発見者に余計な干渉をすることなく、彼らが働きやすい環境を作ることです。戦略的媒介者は、アシスタントでありコーチです。

調整は、ほとんどの場合、水平的です。問題とその解決策は、格式ばった会議であらかじめ定義できるものではなく、チーム・メンバーによる頻繁で非公式なコミュニケーションを重ねることによって生み出されます。洞察力、経験、難問とその解決策が共有されるにしたがって、チーム内で相互学習が生じます。

高付加価値型企業の組織は、戦略的媒介者を中心とする網状のクモの巣(組織網)のようです。その網の目には、直接的には意味のない無数の点と点とのつながりがあり、新たなつながりが絶えず紡ぎ出されています。接点をなすのは比較的少人数の集団です。

集団としての経験と理解は、標準的な経営手続きではなく、他の労働者や組織に容易に移譲することはできません。「クモの巣のような企業組織網」における一つひとつの点は、個別技能のユニークな組み合わせを意味します。

危険と報酬を分かち合う組織網

高付加価値型企業では、速さと軽快さが重要なので、オフィス・ビル、プラント、設備、従業員への給与など、間接費の圧力が企業を押しつぶすことはありません。

素早く問題を発見し、手際よく解決することだけが、本当に考えるべきことです。戦略と金融の両面から厳しく検討を重ねながら、技術的な洞察力とマーケティングのノウハウを結びつけます。それ以外の比較的標準化されたものは、必要に応じて入手すればよいと割り切ります。

本社部門の人々は、解決、問題、戦略、資金の正しい組み合わせを見出すのにほとんどの時間を費やしていますが、仕事に付随する危険も報酬も分け合うようになっています。有望な組み合わせが見い出せると、関係者は、組織網での位置にかかわらず、事業利益を分け合います。

危険と報酬を多くの人で分け合い、間接費を抑えた条件の下で、強烈に創造性が刺激され、その企業組織網は大胆に実験することができます。

組織網の外部には、標準的な生産要素の供給者がおり、特定のことをある一定の時間に、特別価格で提供する契約を結びます。このような契約は、往々にして従業員を直接管理するよりも効果的です。

進化しつづける「クモの巣」組織

クモの巣組織の形態には代表的なものがあります。

第一は「独立したプロフィット・センター」方式です。製品開発と販売の権限は、問題解決者と問題発見者である技術者とマーケティング専門家の手に移譲され、彼らの報酬はこの事業単位の利益によって決まります。本社の戦略的媒介者は、金融と広報業務によって彼らを支援しますが、一定額までの費用の使い方については彼らの自由裁量に任せます。

第二は「スピン・オフ・パートナーシップ」(分社化)です。本社の戦略的媒介者は、ベンチャー・キャピタリストとして産婆役を演じます。問題解決者と問題発見者のグループが良いアイデアを生み出すのを支援し、その後は本社が株式の一部を保有したうえで、その事業単位を独立企業として切り離します。

第三は「スピン・イン・パートナーシップ」です。外部の会社に属する問題解決者と問題発見者のグループが良いアイデアを生み出したとき、戦略的媒介者は、そのグループを買い取るか、パートナー契約を結び、自社のよく知られた商標の下でアイデアの生産・流通・販売を行います。

第四は「ライセンス契約」です。戦略的媒介者が、良いアイデアを生み出した独立企業と契約を交わし、その独立企業に対して自社のブランド名を使わせ、一連の商品の製法や技術を市場で販売することを認めます。戦略的媒介者は、許可を与えた販売業者がでたらめな商品や品質の悪い商品を販売し、ブランドの名声を傷つけないよう確認したり、在庫管理や広告といった分野における特別のサービスを提供したりします。しかし、所有権と支配権の大半は独立企業の手に残したままにします。

最後に「純粋な媒介」の仕事があります。戦略的媒介者は、問題解決者と問題発見者の仕事はもちろんのこと、生産についても独立企業に委託します。この組織網は、方向転換を素早く行わなければならない企業にとっては理想的です。

転換によって巨大企業も生き残る

大量生産型階層組織から高付加価値型「クモの巣」組織への移行は、中核企業の衰退を示すように見えるかもしれません。中核企業はもはや多くの人を直接雇用しないし、中核企業にとって間接雇用となる「クモの巣」組織は、統計に表れにくいからです。

新しい経済においては、中核企業はもはや大企業ではないし、単に小企業が集まったのでもありません。組織網自体が中核企業です。その中枢部は、戦略的な洞察力によって組織網を維持します。

組織網の接点においては、他の組織網と連結することによって利益を得るため、通常、十分な自由裁量権が与えられます。企業の内部と外部の区別はなく、戦略中枢からの距離が異なるだけです。

組織網同士の連結の様相は複雑です。組織網はプロフィット・センター、事業部、分社、ライセンシー、フランチャイズ、供給業者、販売業者を結びつけ、その一端は他の戦略中枢に達します。その戦略中枢が、さらに別のグループと接続しています。

有名なブランド名をつけた製品やサービスは、公式に言われる会社の境界を越えて集められた多様な資源が一つになったものです。

威厳のある本社、生産を展開する工場、製品、研究所、それに運搬用トラックや社用ジェット機はすべてリースです。生産労働者、ビル管理人、経理係は一時契約です。

主要な研究者、技術者、それにマーケティング専門家は、互いに利益を共有する存在です。著名な経営者は、直接的に支配力を行使して企業全体に自分の意志を浸透させるのではなく、新しい「クモの巣」組織を通して自身のアイデアを貫徹させます。