「所有」と「支配」の拡散 − 「シンボリック・アナリスト」とは何か?⑨

高付加価値型企業における重要な資産は、有形資産ではなく、特別なニーズに応えられる技能と、過去においてそれを実現するのに成功したことから得た名声です。

経営者は調整と媒介を行います。投資家は事業活動に必要な資金の一部を出しますが、利益の一部を得ることが目的です。

企業が最も頼りとする問題解決者と問題発見者が、かなりの自由裁量権を持ちます。ルーティン業務は、ますます一時的な契約に頼るようになっています。このようにして、権力は次々に分散されています。

権力の源泉は、公式の権威や地位ではなく、組織網に価値を付加する能力によって決まります。問題解決者、問題発見者、戦略的媒介者は、他の人達が価値を付け加えることができる方法を編み出すところでリーダーシップを発揮します。リーダーシップとは、最高の価値を生み出し、育て、発展させることです。

戦略的媒介者による組織網を編み出す決定、すなわち誰と何に関して契約するかの重要な決定は、次第に水面下で行われるようになっています。戦略的媒介者の実態は、購買担当部長とか調達担当管理者といった肩書を持つ人たちです。彼らは、何千もの小さな契約の決定を通じて、全体として企業が売る物の内容を決定しています。

将来の洞察力は買収できない

かつての大量生産型企業では、支配権は最高経営者だけにあり、それ以外の人は最高経営者の計画を実行するだけでしたから、会社間での資産の移転は財産の売却に似ていました。

高付加価値型企業が関わる買収は、問題解決と問題発見が、戦略的媒介の仕方や金融的取り決めとどう組み合わされるかに過ぎません。

会社の主要な資産は、売却できる資産ではなく、技能や才能のある人々です。特許、著作権、商標などは売却できるかもしれませんが、人材の将来の洞察力を売買し、所有することはできません。

洞察力や創造力の源泉である人々が買収取引に満足できないなら、その洞察力と創造性は発揮されません。彼らは、より有利な環境を求めて離れていくでしょう。

現代の企業買収は、買収された側の才能ある問題解決者、問題発見者が、元の戦略的媒介者を入れ替えたと考えるほうが正確です。

増加する知的専門家の取り分

19世紀から20世紀前半にかけての大量生産経済における主要な産業界の闘争は、機械を所有する者と機械を動かす者との間で行われました。両者とも、より大きい収入の分け前を欲しました。

高付加価値型企業においては、ルーティン生産の労働者と金融資本家の要求は、新たな問題を解決し、発見し、媒介する人々の要求に比べて、次第に軽視されるようになりました。

有名ブランドもその価値を失う

会社を所有する意味は変わりました。企業の本当の価値は、従業員の頭脳の中にあるからです。

会計専門家は、有形資産と才能ある人々の価値の間にある曖昧なゾーンを意味する「のれん」という用語を貸借対照表に使いましたが、「のれん」の多くは、価値ある従業員が辞めると消えてしまうものです。

特許と著作権は、ある特定の時点での具体的な発明を守るだけです。消費者が改善してほしいと考えている特定の問題が存在した最初のアイデアを保護するわけではありません。与えられた問題解決に改良を加えるであろう、その後の多くの洞察力も保護しません。

市場が存在し、市場の要求を満たす様々な方法があるといった種類の発明は、しばしば特許や著作権などの発明よりはるかに価値があります。

強力な企業ブランドが、戦略的媒介者によって成立した事業契約者、請負企業、ライセンス契約者、フランチャイズ契約者、パートナー契約者、その他の提携企業などに分散した組織網に変化していても、消費者の多くはそれを知らないので、忠誠心に変わりはありません。

多くの中核企業において、商標とブランド名は最も価値のある資産の一つであり、ブランド名自体が売買されています。しかし、永久にその価値を保ちつづけるブランドはありません。記憶は消えていくものであり、新しいブランドと結びついた新製品がそれに取って代わるからです。

価値が高まる専門家の「技能」

高付加価値型企業において、問題解決を行い、問題発見をし、その両者を他に媒介する技能は、使われれば使われるほど、その価値が高まります。

複雑な仕事をこなすことは、次の機会にもっと複雑な仕事をするためのよりよい準備となります。一つの問題は、別の問題を導き出します。

大量生産における成長は、規模の経済に依存していました。規模の経済を可能にするために、工場と機械に投資をした人々が、最終利益から大きな分け前を要求しました。

高付加価値型企業における成長は、主要な従業員の経験の累積に比例します。したがって、企業の価値は、ますます知識を獲得した問題解決者、問題発見者、戦略的媒介者の技能へと移っていきます。

通常の経済理論は、収穫逓減の仮定を前提としています。ある資源が枯渇すれば、価格は上昇するので、買い手はその資源を温存し、安い代替品を探そうとします。そして、最終的に価格は低下します。

しかし、人は実践を通じて学ぶので、人が何かを行うことの価値は、経験によって増加します。最初に経験を得た人が市場でプレミアムを手にしても、他の人が彼らに追いつくことができれば、その時点で失われます。

ところが、恵まれた素晴らしい教育を受けた人が、その学歴を生かして複雑な仕事に従事しながら現場で経験を積み重ねていくと、時間の経過とともにますます彼らの価値を高めます。他の人達がそれに追いつくのは、ほとんど不可能になっていきます。

しかも、彼らの有利さは世代を超えて継続します。余分な収入のおかげで、自分たちの子供の教育と訓練に投資ができるからです。