「チャンピオン企業」の消滅 − 「シンボリック・アナリスト」とは何か?⑪

アメリカ製品と同じくアメリカ企業も、アメリカと離れ離れになりつつあります。それでも「アメリカ企業」と呼ぶのは、その株の大多数をアメリカ市民が所有し、企業トップの戦略的媒介者がアメリカ人であり、世界企業としての本社がアメリカに存在するためです。

重要なのは、高付加価値を生み出す問題解決者、問題発見者、戦略的媒介者がどの地域に属しているのかということです。それがアメリカ人の経済的な成功に関わっているからです。

現に、他の国々のチャンピオン企業が世界中で売っている製品の価値のかなりの部分が、アメリカからもたらされるようになっています。

企業の支配的な株主や最高経営者の国籍は、その企業が世界のどこに投資し、誰と契約するかということとは、ますます結びつかなくなっています。

この変化の何よりの証拠として、アメリカ企業によって現に雇用されている外国人労働者の増加があります。

国境がないことを理解し、地理的な制約を感じていないアメリカ企業が多数出現しつつあります。アメリカの主要な公益企業でさえ、グローバルな競争に加わりつつあります。競争力のある労働市場が見つかれば、それがどこでも進出していくのです。

技能を求めるグローバルな提携

アメリカ企業がグローバルな活動に力を入れるにしたがって、アメリカ以外の地域で高付加価値生産に関わる問題解決者と問題発見者が必要となります。

グローバル・ウェブがあげる収益の主な源は、このような人たちの努力であり、彼らの技能と洞察力は容易に真似ることができないからです。

それでも、アメリカ人所有企業の最高経営者は、外国企業の競争が不公正であると主張する人々の声に歩調を合わせます。

そう主張する人々の愛国心を強めるとともに、アメリカ産業の指導者が依然として国家の舵を採っているという安心感を、アメリカの大衆に与えるためです。

同情的な税控除や補助金を連邦政府から引き出すことにつながる可能性もあります。

米国から輸出する外国企業

多くの外国人所有企業がアメリカに進出し、外国にむけて輸出をしています。これらの輸出品は、アメリカ国内の仕事のみで成り立っているわけではありませんが、どこまでがアメリカ以外の地域での仕事で成り立っているかを明らかにすることは困難です。

外国人所有企業は、アメリカで高付加価値の研究および設計を行っているだけでなく、アメリカの大学と研究所にも研究資金を供与しています。

一方、外国人所有企業もまた、大量生産の標準化製品の生産では、これまで以上に発展途上国に依存するようになっています。

すべて同じグローバル・ウェブ

あらゆる国の代表的チャンピオン企業は、単一の国家と特別なつながりを持たないグローバル・ウェブになっています。

アメリカ企業がますます海外で生産したり調達する一方で、外国人所有企業がますますアメリカで生産したり調達したりするので、いずれのグローバル・ウェブも、名目上の国籍にかかわらず、お互いに似通った存在になっています。

大規模で標準化された生産は、主として低賃金国に移行しています。高付加価値生産の問題解決、問題発見、戦略的媒介は、有益な洞察力が見出される地域なら世界のどこででも行われるようになっています。

高付加価値型のグローバル企業は、その洞察力をお互いに結合し、大量の標準化された製品がどこででも生産できるように、世界中の技能を持たない人々と技能を持つ人々とを、国際的なパートナー契約によって結びつけるまでに発展しています。

グローバルなパートナー契約を目指す企業は、高付加価値を生む洞察力を、公開された市場で直接取引することもあります。

特定の問題解決、問題発見、戦略的媒介に特化し、パートナー契約を目指す洞察力を持つ企業は、急拡大を続けるグローバル・ウェブの重要な交差点になりつつあります。

グローバル・ウェブが主役の時代

国民の貯蓄は、物事を最少コストで最高にうまく処理できる人々のいる場所に向かって、世界中をどこへでも容易に流れていくようになっています。

国家の競争力は、その国の市民が貯蓄し、投資する資金の量に依存するのではなく、世界経済に貢献する可能性を持つ技能と洞察力を有する人々に依存するようになります。

かつてアメリカが手を焼いた貿易不均衡の問題は、一般的には、アメリカが外国に売るより多くの物を、外国がアメリカに略奪的に売り込もうとしていると言われました。

しかし、事実はそうではなく、アメリカ人所有企業が海外でそれだけ多く生産するようになった結果です。アメリカ人所有企業が特定の物とサービスを供給する契約を外国企業と結び、それをアメリカで販売したためです。

実際、アメリカ人所有企業が海外で大量に生産する一方、外国人所有企業が米国で大量に生産しているので、アメリカ企業の製品を買うより外国企業の製品を買ったほうが、アメリカの貿易収支を改善できるという結論になり得ます。

アメリカ企業は大量生産から高付加価値生産に重心を移すことで、世界輸出に占めるシェアを維持してきました。彼らは活動拠点を海外に移し、外国で価値をつけ、それから輸出するという形で輸出シェアを保ったのです。

アメリカ経済の強さが、アメリカ企業の収益性と生産性と同義であるとする理屈はもはや時代錯誤です。