戦略的資産の確保 − 「戦略イノベーション」とは何か?④

この記事では、コンスタンチノス・マルキデス(Constantinos C. Markides)の著書『戦略の原理(All the right moves)』の内容を紹介します。

戦略の策定において、ターゲット顧客と提供する製品・サービスを決め、効果的な競争戦術を練ったら、次は、その戦術を遂行するために必要な資産、スキル、ケイパビリティ(能力)を明らかにします。

逆に、既存の資産やケイパビリティを参考にしながら、戦術を決めることもあります。実のところ、資産やケイパビリティが先か、戦術が先か、については、どちらが正しいということはありません。

しかし、既存の資産やケイパビリティのみで、新しい戦略を実行するための戦術を練るのは不十分であることは明らかです。

どのような資産やケイパビリティが新たに必要か、どうすればそれを構築できるかを考えるべきです。戦略の効果を高めるために、本当に価値あるものに狙いを定める必要があります。

戦略的資産とは何か

資産やケイパビリティを手に入れる方法は、大きく次の4つに分けられます。

  1. 事業構築を支えた「過去の遺産」をそのまま使う。
  2. 必要な資産を市場から調達したり、契約に基づいて資産の提供を受けたりする。
  3. 子会社や戦略上のパートナーと共有する。
  4. 長期間にわたって学習を重ね、必要な資産を蓄積する。

真に貴重なスキルや経営資源、資産、ケイパビリティとは、希少性があり、競合他社には真似できず、何かで代替することも難しいものです。これらを一括して「戦略的資産」と呼びます。

競争を制し、増収・増益を目指すなら、自社の戦略的資産を見定め、それを活かせる戦術を模索することが大切です。

戦略的資産を構築する手法

競合他社よりもスピーディーに、あるいは低コストで戦略的資産を構築するためには、弛まぬ学習が必要です。

そこから得た知見をコスト削減や事業活動のスピードアップに意識的に活用し、それをテコに更に新しい戦略的資産を蓄積します。

適切な組織構造や業務プロセスを構築して、機能や事業部の垣根を超えた学習を促します。

  • キーパーソンを機能や事業部を横断して異動させる。
  • 組織のあちこちを歩き回りながらベストプラクティスを広める役割をつくる。かつ、ニュースレターや定期会議を通してベスト・プラクティスを紹介する。
  • コンピタンス分野ごとに第一人者を育成しつつ、コンピタンス・コミュニティ(コンピタンスを共有するための場)を組織化する。
  • 学習を重んじる風土を生み出す。

次に、既存のコンピタンスを跳躍台として使い、競合他社よりも短期間にしかも低コストで新しい資産を得ることです。

「戦略の階段」を活用する方法があります。このツールによって、戦略目標を達成するために必要なケイパビリティと自社に足りないケイパビリティを知ることができます。

「戦略の階段」では、現在を発想の起点にして将来の目標を立てるのではなく、最終目標を発想の起点とし、そこから現在に向かって遡る形で年数を数段階に区切り、目標を設定していきます。

このような思考プロセスを辿ると、時間軸を意識した能力の育成を自ずと目指すようになります。そのために必要な投資も、その都度行っていきます。

途中目標を明確にしてケイパビリティ・ギャップ(不足)を埋めるようにすると、最終目標の遠大さに怖気づかずに済みます。早い段階で一定の成果をあげれば、次の高みを目指す意欲が湧き起こります。

連続性も重要であり、各個別目標やアクションの順番にも意味があります。従業員に行動の枠組みを示すことで、個々の取り組みの持つ意義を理解させることができます。

「戦略の階段」の開発者であるヘイとウィリアムソンは、このツールを最大限に活かすための5つの原則を提唱しています。

  1. 分かり易い言葉で戦略目標を説明し、従業員のモチベーションを引き出す。
  2. 必要なスキルやケイパビリティを計画的かつ順序立てて身につける。その順序を細かく決めて、従業員に説明する。
  3. 何に投資し、何に投資しないか、という厄介な意思決定を避けてはならない。
  4. 一つひとつの途中目標をいつ達成するかを決める。
  5. 評価尺度を設けて進捗度を確認する。

なお、必要なスキルやケイパビリティを育成するのも重要ですが、同時に、競争環境の変化に注意を怠ってはいけません。

将来の不確実性を克服するには、多彩なケイパビリティを育成し、将来がどう展開しようとも対応できる可能性を高めておかなければなりません。

あらゆる可能性に備えることはできませが、可能性の高いシナリオを想定しておくことは必要です。ピンポイントの正確性はなくても、傾向を誤らないことが重要です。

見通しを誤るリスクがあるからといって、意思決定を怠ってよいことにはなりません。

従業員一人ひとりに戦略を浸透させる

戦略を成功に導くためには、実際にそれを推進する人々から心情的なコミットメントを引き出すことが欠かせません。

そのためには、まず、戦略の内容、意義、その戦略を採用した理由について説明することが必要です。

戦略を立案する段階で皆を巻き込めば、あるいは戦略がシンプルで明確であれば、このコミュニケーションはスムーズに進みます。

第二に、戦略に対して皆の同意を取り付けることが必要です。この場合も、構想段階で多くの人々に相談したり巻き込んだりしておくと、容易に目的を達成することができます。

時間をかけて熱心に説明すればするほど、効果は高くなります。説得力のある説明、自由な討議、批判や反対を許容する雰囲気などもプラスに作用します。

第三に、行動を起こさせることが必要です。行動は環境に規定されます。戦略に沿った行動を期待するならば、そのための環境づくりが急務です。

戦略を本気で遂行するためには、仕事の優先順位を見直す必要もあります。業務評価方法や報奨システムなどを変更すると効果的です。併せて、各人に明確な役割を与えるのも一案です。

最後に、心情的コミットメントを勝ち取る段階です。従業員一人ひとりを、熱意をもって脇目を振らずに目標実現に努力するように仕向けることです。

  1. 序盤で成果をあげ、気運を高める。
  2. リーダーのコミットメントを言葉と行動の両方で示す。
  3. 従業員が心置きなく献身できるように環境を整備する。
  4. 金銭的報酬や昇進といった見返りを用意する。
  5. 初期の取り組みに対する短期的成果を示す。

従業員の熱意を引き出すには、辛抱強く時間をかけて努力するしかありません。経営トップの関与も不可欠です。