計画部は、テイラーの科学的管理法が行われる前からすでに行われていた様々な事務的な機能を集約した部門です。各部門は、従来、工場内で散らばって存在していましたが、テイラーは、計画部に集約し、物理的にも工場の中心に配置すべきであるとしました。
さらに、支配人、工場長、およびそれらのスタッフ部門、製図室などの技術部門も、計画部に併設させるべきであるとしました。業務上のやりとりを頻繁に行わなければならないからです。これによって、工場の管理機能が集約されることになります。
計画部から出される様々な職務指示は、口頭ではなく文書によって行うことを原則とします。指示ごとに専用の伝票を用い、結果を工員に記入させ、計画部に報告させました。
計画部の主な機能は、現場作業を除いた工場内の事務全般にわたりますが、テイラーは、次のように細かく分けて説明しています。ほとんどの仕事は、従来から工場内で行われていた仕事であり、行うべきであった仕事です。
従来はバラバラになされていた仕事を、計画部に集約し、訓練された一群の人びとが体系的に行うことによって生産性を高めようとするものです。
受注全般の分析
会社が受注した仕事を完全に分析し、製造に必要な次の内容を明らかにします。
・必要な設計と製図
・購入すべき機械または部品、それらに関して購入部門が必要とする資料のすべて
・作るべき型、部品、製品の表、これらに要する指図(全般図面、詳細図面、部品の数、各部品に属する記憶式記号)
・各部品について順次に行うべき作業の完全な分析
・各部品が工場内を通過する正確な手順
工場全体における手作業の時間研究
仕事を機械や仕事台に取り付ける作業、万力の仕事、運搬等を含め、工場内で行うすべての手作業について時間研究を行います。
この過程では、標準化された最善の方法と工具を明らかにし、実際に利用しなければなりません。したがって、時間研究では、作業や工具の標準化を担当する部門や現場の職長などの協力が不可欠です。
機械作業の時間研究
機械ごとに、最善の加工方法および時間を明らかにします。具体的には、何回の削りをなすべきか、どこから削り始めるか、切り込みの深さ、最善の送りおよびスピード、各作業に要する正確な時間などです。
テイラーの当時は、機械ごとに計算尺をつくり、簡単に計算ができるようにしていました。現在は、計算尺のほとんどがコンピュータに取って代わられています。
在庫、仕事の残高日数の管理
すべての原材料、部品、仕掛品、完成品、機械修繕用部品などの在庫の出入り(引き当てを含む)については、すべて担当係を通過するようにし、日々残高を明らかにします。
残高が所定の数量を下回ったときは、購買部門に補充を要請します。
新たに受注した仕事の分析結果から今後必要とされる作業時間を知り、日々完成される出来高を把握して、仕事の残、工場内の工員と機械の余力を常に明らかにしておきます。
これらの情報は、作業日報として支配人や販売部門に知らせておき、繁閑が調整できるようにします。
新規受注およびその納期に関する問い合わせの分析
受注の分析においては、手作業や機械の時間研究の係と相談して、所要時間を大まかに把握し、工場内の仕事残と余力を加味して、可能な納期を販売部門に知らせる必要があります。
製品原価および経費の分析ならびにそれらの月別比較
帳簿は毎月所定の日に締め、決算し、月別に原価や経費を費目ごとに比較できなければなりません。
製品別の原価や利益を確認できることも必要です。
給与計算
各工員の時間賃金および出来高の記録、支払い、出退勤の管理などを行い、間違いや誤魔化しがないよう突き合わせを行います。
部品や費目を明らかにする記憶式記号制度の運用
製品、部品、作業、費目などについては、識別番号が振られ、管理されることが多いですが、人が日常的に使用するには、番号では不便です。
テイラーは、容易に記憶できるような記号を用いることを提案しました。指導票などのやりとりでは、そのような記号を使うことによって、事務的な手間を省きつつ、誤りを少なくする効果が期待できます。
資料の管理
図面のカタログ、記録、報告などのすべてについて、正しく索引をつけ、保管します。
諸標準の決定および管理
工場および事務室で反復継続して行われる作業については、どんな些細なものでも標準化します。利用する工具や用具も標準を定め、維持するようにします。
従業員の仕事を課業として与え、標準時間内に実行させ、良い結果を出させ、公正に評価するためには、標準が定められていることが絶対的に不可欠な条件です。
制度および工場設備の維持
作業や工具の標準をはじめ、工場内のあらゆる制度、設備などを維持することは、計画部の重要な機能です。
適切な維持とは、必要な諸報告を適時的確に受領し、その内容に基づいて的確に対処することを意味します。
したがって、計画部においては、いつ何の報告がどこからどこに来るべきかをあらかじめ把握しておかなければなりません。これを確実に行うための手段として、テイラーは、「チクラ」を用いることを推奨しました。
「チクラ」とは、一年間の一日ごとにハサミ紙を並べたものです。これは、アナログのToDoリストに相当するもので、所定の日にある報告を受けることが決まっているのであれば、その日のハサミ紙にその旨のメモを入れておきます。
日々チクラを確認することで、その日になすべきことを忘れずに実行することができます。
テイラーは、係ごとにチクラを使用するよりも、工場全体で一つのチクラを用いることを推奨しています。チクラの担当者を決めておき、入れるべきメモがあれば、その担当者に渡しておきます。担当者は、日々、その日の分のメモを該当者に渡します。
メッセンジャー制および郵便配達
工場内の各現場と計画部との書面のやりとりや郵便物の集配のため、30分に一回程度、工場内を巡回します。
勤労管理
欠員の補充または新しい職務のための採用活動を行います。外部から採用するだけでなく、内部での異動も含まれます。候補者の経験と適性と品性とをよく調べ、工場における種々の職務に適合する人の名簿をつくり、常にこれを改訂します。
工場における現工員の個人記録をつくることによって、その出勤ぶり、無届欠勤、規則違反、仕事の仕損じ、機械または工具の破損、各種の仕事における熟練の程度、平均収入、その他知っておくべき長所など明らかにします。
工場内訓練
工員を訓練し、その間に得られた各人の性格や性質についての知識を把握しておくと、勤労管理の担当が工員を配置する際に役立ちます。
テイラーは、あまり大きくない工場であれば、勤労管理と工場内訓練の担当は兼務する方がよいとしました。もちろん、その他の部門との連携、相談は常に必要です。
災害相互保険組合の運営
テイラーは、会社と工員が出資して、災害相互保険組合を設けることを推奨しました。
目的の一つは、仕事で怪我をした人に補償することです。さらに、規律保持のために工員に課した罰金、会社の財産に損害を与えた場合の罰金、仕事をし損じた場合に課した罰金をプールしておき、福利厚生などの形で工員全体に還元することです。
特急注文への対応
仕損じた部品や傷のできた部品の補修、得意先の特別注文の依頼に対応します。
制度または工場の改善
制度および工場運営の改善を行います。