「スキャンロン・プラン」とは、労使の信頼関係に基づくパートナーシップによって、全員参加による生産性向上の取り組みを行い、その成果を賞与として全員で分配しようとするものです。
スキャンロン・プランに興味を示す経営者の一般的な疑問は次のとおりです。
- どうすれば、各労働者を説得して建設的な態度をとらせることができるか
- どうすれば、労働組合を衷心から経営側と協力するように説得することができるか
スキャンロン・プランを導入した会社の経験によれば、これらの問いは、それほど問題にはならないようです。
問題は経営側の姿勢です。条件抜きで労働組合を認め、組合の目的と組合活動の方法を理解している場合は、組合は経営側に協力し、この協力過程を通して関係は強化されます。
両者は生産性の問題について協力しますが、賃金や労働時間、労働条件については、なお交渉を続けます。協力関係に交渉を持ち込まないことが重要なポイントの一つです。
労働者は、彼らのアイデアが歓迎され、採択されるようになると、それにつれて生産問題に対し、より一層責任ある態度を取るようになります。
スキャンロン・プランの導入に際しての厄介な問題は、次の2点です。
- 管理者の威光の喪失とその結果生じるプランへの反対
- 明確な責任をもって重大な決定を下す能力を組織が欠いていること
管理者の反発
従来、管理者の権限に基づいて行われていた事柄ついて、労働者と協議の上で行うことになれば、これまでの管理者のやり方について、良くも悪くも暴露する結果になりがちです。
このことが管理者の個人的な安全圏を侵すことになるため、彼らの多くは、当初、労働者の提案を抑えようとします。
これに対して、経営者が強力かつ迅速に措置をとらなければ、スキャンロン・プランを続けることが難しくなります。
経営者が断固としてプランを実施する覚悟を持たなければなりません。プランの妨害が公然と行われているようであれば、最後の手段として、その管理者を解雇するだけの覚悟も必要です。
労働者と管理者との間に軋轢が生じたときは、それを機会に管理者の仕事に対する態度を改めさせるように努めなければなりません。
ある部門が多くの優れた提案を提出しているなら、その部門の管理者を報賞すべきです。提案が多いことをもって管理に問題があるという評価を絶対にしてはいけません。
スキャンロン・プランが順調に運営されるようになると、管理者もプランを信頼するようになります。部下のことをよりよく知るようになるからです。
管理者は、労働者が日常の生産問題を解決するための優れた方法を提供することができることを発見するようになります。
部下のほうも、管理者を共通の目標を持ったチームの一員として受け容れるようになります。管理者が仕事の調整者として大きな貢献をしていることを一層よく理解するようになります。
管理者の仕事は、部下を駆り立てて仕事をやらせることではなく、部下が円滑に仕事ができるように仕事を計画し、必要な手段を手配し、部下に仕事を割り当てることです。
決定能力の欠如
多くの組織には、できるだけ決定を先延ばしにしようとする習性が働きます。
経営者は、決定を下して誤る危険を冒すよりも、今後の発展を待ったほうがよいという態度を取ることが少なくありません。つまり「決定しないことを決定する」のです。
スキャンロン・プランが導入されると、盛んに提案が出され、決まりきったこととされていたことが問題として取り上げられます。
問題はすべて明らかにされ、誰でもその解決に参加できるようになります。
もし、それらの問題に関して提案が出されているにもかかわらず、何らの措置も取られないとすれば、労働者の不満は増大し、関心が急速に減じることになります。
このような決定能力の欠如は、特に複数工場制を取っている会社で起こりやすいようです。個々の工場には、決定権限を与えられていないことがあるからです。
スキャンロン・プランにおいては、労働者の参加を重視しているからといって、経営者が常に労働者の考え方に沿っていかなければならないというわけではありません。
最終決定権は経営側に留保されているので、経営側には、以前よりも優れた決定のための判断力が問われるようになります。
労働者は経営者になり代わりたいのではなく、自分たちの意見を聞いてもらえる機会を求めています。その機会が与えられたら、彼らは、はっきりした決定が下されることを望みます。
組織は真の決定者を持たなければなりません。ただし、その決定者は、組織の成員の意見が届くほどに近づきやすい存在でなければならないということなのです。