スキャンロン・プランは、全員参加による生産性向上の取り組みを行い、その成果を賞与として全員で分配しようとするものです。
成果配分をどのような考え方によって行うかが、従業員の参加意欲を左右する重要なインセンティブになります。
成果配分に関しては、守るべき基本原則があります。
集団に狙いを置く
第一の原則は、個人より集団に狙いを置くことです。このことが、すべての人を同じチームの一員にし、競争よりも協力を促進しています。常に、集団の活動成果が注目の的になります。
この点が、生産性向上の質を高めるうえで重視されています。
個人に焦点を当てたインセンティブ制度は、協力よりも競争を促進するため、生産性の向上はほとんどの場合、個々人の仕事のスピード・アップに焦点が行きがちです。
しかしながら、会社では多くの仕事が専門分化され、互いに連携することによって全体の成果をあげているため、共通の目標に向かって全員が相互理解に基づくアイデアを出し合うことができれば、仕事そのもの改善による質の高い生産性の向上が期待できます。
スキャンロン・プランのもとでは、数多くの要素を持った幅広い領域が、労使合同での議論の対象として開かれており、労働者は自分の限定された仕事の中で能力を発揮するだけでなく、自分の仕事の有効性を制限している幅広い要因の改善にも積極的に関与することが求められます。
生産の問題に集中する
第二の原則は、会社にとって特に重要な生産性に関わる諸要素に従業員の注意を集中させるという教育的な価値をもたせることです。
賞与の支払額あるいは留保分の推移によって、従業員は容易に企業の業績を理解することができます。
製品ミックスの不利な変化、売れ行きの不振、競争価格の問題などが生じた場合、従業員は、直ちにそれらが会社の業績に及ぼす影響を理解し、その理由をはっきりさせ、問題の克服に努力します。
問題の原因を理解することができれば、難局の切り抜けは容易になります。
従来、労働者は、あらゆる困難が経営者の安易な決定から来ていると考えがちでしたが、それが間違っていたことが分かるだけでも、問題の解決より容易になるものです。
スキャンロン・プランでは、測定尺度に「労務比率(=給与総額/販売価値)」(「販売価値」は主として売上高に相当)を用いていることが少なくありません。
このことに関し、一方では、労働者に経営の全般を理解させるという点で重要であるという意見があり、他方では、労働者のコスト削減意欲を喚起しにくいなどの問題点が指摘されます。
実例では、激しい競争状態のもとで、労働者は、率先して値段を下げて仕事を増すよう会社に提案をしてくるほど、コストと価格の関係に敏感になっています。
会社が外部要因に根ざすいろいろな問題を抱えていることを知った時、労働者は驚くべき力を発揮して、これらの問題に対処し、困難な状況から来る被害を最小限に食い止めています。
生産性の測定を労務費(給与)に限定している例が多いのは、労働者が十分統制できる領域に彼らの努力を結びつけるのに役立てるためです。
確かに、スキャンロン・プランのもとでも、賞与に影響する要因で、直接労働者の統制力の及ばないものも多数あります。材料の不良や売上高の低下などです。しかし、これらの要因は常に工場で処置されており、現場の労働者であれば誰でもすぐ分かるようになっています。
労働者の直接の努力のみを成果配分に反映させるという観点からすれば、労務費に関わりないコストはすべてスキャンロン・プランの対象外とする考え方もあり得ます。
しかし、会社の利益を高めるうえでは、労務費以外の様々なコスト削減努力が必要であり、また、売上を高めるための製品開発・改善や販売促進の努力も必要です。
このような全体の取り組みの関係を理解し、全体の利益のためにどのような貢献ができるかを、一人ひとりが広い視野で考えることに意義があると考えるべきです。
成果配分について重要なことは、その測定尺度や基準値が、従業員自身の手で設定されていることです。自分たちが設定したものがプランの達成目標となるわけです。
このような目標では、何が公正かといった議論の出てくる余地はほとんどなく、どうすれば目標を達成できるかに注意が集中します。
ただし、その前提として、経営者は労働者の不安の念を誠意をもって取り除くように努めることが必要です。労働者は経営者が勝手な行為をすることを恐れているからです。
信頼関係なくして、どのような測定尺度を導入しようとも、スキャンロン・プランがうまく行くことはありません。
全体プログラムの不可欠な一部分である
最後の原則は、この測定尺度が生産性向上を目指す全体プログラムの不可欠な一部分になっているということです。
生産性向上を刺激する唯一の道具ではなく、生産性を測る物差しとして、またプラン参加当事者の衡平を維持する基礎として用いられるべきものです。