『ISO/IEC 専門業務用指針,第1部 専門業務の手順 – 統合版 ISO 補足指針 – ISO 専用手順』(ISO/IEC Directives, Part 1 Procedures for the technical work — Consolidated ISO Supplement — Procedures specific to ISO)(以下「指針」と言う。)の「附属書SL」によると、「マネジメントシステム」の定義は次のとおりです。
方針、目的及びその目的を達成するためのプロセスを確立するための、相互に関連する又は相互に作用する、組織の一連の要素
マネジメントシステムの働きは、組織を構成する要素が組み合わされ、相互関連または相互作用する仕組みであることがわかります。
『ISOハンドブック マネジメントシステム規格の統合利用 [IUMSS]』(ISO HANDBOOK The Integrated Use of Management System Standards [IUMSS])によると、マネジメントシステムが機能するために必須の構成要素は、次のとおりです。
- 目標
- プロセス
- 組織構造および資源
- パフォーマンス・フィードバック
目標
組織は、目標を達成する方法を考えることから始めます。組織が置かれている状況に合った目標設定の方法を探さなければなりません。
内部および外部の課題のうち、組織の存続または成長にとって最重要の課題を選ぶことによって、自ずと設定すべき目標が明らかになってきます。
通常、組織を取り巻く状況は複雑で、取り組むべき課題も多いことから、そこから導き出される目標は競合します。それら競合する目標に優先順位をつけ、計画を策定し、資源を配分するためには、効果的なコミュニケーションが必要です。
目標は、組織全体にわたる上位のものから、部門や個人にわたる下位のものまで検討される必要があります。
目標が達成されているかどうかを評価するために、誰が何をどのように測定するのか、その目標に整合した定量的な指標や測定方法があらかじめ設定される必要があります。
「目標」の原語は「objective」であり、「目的」と訳すこともできます。ここでいう「目標」は、「マネジメントシステム」の定義に出てくる「目的」と同じものを指していると考えてよいと思います。
指針附属書SLでは、「目的(objective)」の定義において、「目的は、戦略的、戦術的又は運用的であり得る。」、「様々な領域[例えば、財務、安全衛生、環境の到達点(goal)]に関連し得る」との注記があるとおり、非常に広い意味で用いられています。
プロセス
組織内のすべての活動はプロセスを通じて行われますから、プロセス内でのタイミング、プロセス間の相互依存関係、相互作用およびインターフェースについて詳細に知る必要があります。
プロセスには、大きく分けて3つの種類があります。
- 製品・サービス実現プロセス
- 組織の目的達成に直接関わるプロセスであり、マネジメントシステムの背骨を形成する手段。製造業の場合、一般に「設計・開発、製造、検査、納入、サービス」の一連のプロセス。
- 支援プロセス
- 製品・サービス実現プロセスには直接関与しないものの、製品・サービス実現プロセスが効果的に実行されるように支援するプロセス。
- 経営プロセス
- マネジメントシステムを全体として統合するとともに、組織を管理するためのプロセス。例えば、戦略策定プロセス、目標計画策定プロセス、監視・測定・分析・評価プロセス、内部監査プロセス、マネジメントレビュープロセス、改善プロセスなど。
プロセスは、インプットをアウトプットに変換する際に、効率的かつ効果的に行われる必要があり、アウトプットは利害関係者の要求事項を満たす必要があります。
プロセスの効率性と有効性を最大化しようとすることが、成功する組織の基本的な考え方です。
プロセスのパフォーマンス(測定可能な結果)、その尺度、所有権、プロセスの実施に必要な経営資源は、マネジメントシステムの範囲の中で明確にされ、表現される必要があります。
プロセスを表現するためのツールも幾つか存在します。
- SIPOC図
- 供給者(Suppliers)、インプット(Inputs)、プロセス(Process)、アウトプット(Outputs)、顧客(Customers)の関係を図示するもの。プロセスの参加者がどのように素材やデータをやり取りするのかを理解したり、プロセスを改善したりすることに活用する。
- タートル図
- プロセス、インプット、アウトプットのほか、プロセスに必要な物的資源および人的資源、プロセスの実施手順・手法、プロセスのパフォーマンスの評価指標を図示するもの。図の形が亀の甲羅のように見えることから、そのように命名された。
- フローチャート
- プロセスの流れをステップに分けて図示するもの。開始、処理、条件分岐、終了を定まった形の図形で表現し、流れを矢印で表現する。
- プロセスマップ
- プロセスの起点から終了までの一連のタスクを時系列ごとに並べて図示するもの。
- バリューチェーン図
- 組織の主活動(製品・サービス実現プロセスに相当)のステップを図示することに加え、支援活動(支援プロセスおよび経営プロセスに相当)を列記するもの。これらすべての活動が効果的に組み合わされることによって、組織に付加価値(バリュー)がもたらされる。
組織構造および資源
総合的なマネジメントシステムの不可欠な部分に、組織全体の計画を策定するプロセスがあります。
外部および内部の課題を慎重に考慮することにより、利害関係者のニーズを満たすための強固な戦略を策定し、組織全体の計画に反映させることが、持続可能なパフォーマンスを提供するためのマネジメントシステムの設計と改善につながります。
マネジメントシステムを設計、実施、維持および改善する能力に直接影響を及ぼすのが、組織構造と資源です。
組織構造および資源は、明確に定義され、プロセスオーナー(組織横断的にプロセス全体の責任を負う人)およびマネジャーに割り当てられる必要があります。プロセスオーナーやマネジャーは、それらを目標に直接整合させなければなりません。
マネジメントシステムの具体的な構造は、組織の内外の状況に依存します。通常、組織が大規模・複雑になるにつれて、組織は正式な構造を必要とするようになります。組織構造は、マネジメントシステム構成要素の実行と管理を調整する手段です。
組織は、その目標を達成し、利害関係者の期待を満たすために、次のような経営資源を活用します。
- 人材(業務の役割、責任、権限等)
- 資材(原材料、等級別製品、副産物等)
- 情報(測定、モニタリング、フィードバック等)
- インフラストラクチャ(機械、設備、運転条件、従業員の福利厚生等)
- 財務
- 組織の知識
- その他の資源(知識・技能、改善プロジェクトの時間・場所等)
これらの資源を統合的に取り扱うことによって、効果的で効率的なマネジメントシステムを構築することができます。より効果的で効率的に目標を達成するためには、次の点を考慮します。
- 組織内の全員の機能、役割、責任を確立する。
- 統合マネジメントシステム(複数のマネジメントシステム規格からの要求事項を組織内のマネジメントシステムに統合するプロセスの結果)の責任と説明責任を決定する。
- 意思決定プロセスを明確にする。
- 組織活動を効果的に調整する。
- 異なるコミュニケーション径路を強化し、明確にする。
- 情報交換を構造化する。
- 組織の活動を効果的に監視し、分析する。
- 様々な資源を調整する。
- 戦略と新たな取り組みを展開する。
- 資源を特定し、取得し、配付する。
パフォーマンスフィードバック
すべてのマネジメントシステムは、組織がそのパフォーマンス(測定可能な結果)に関するフィードバックを得る方法を考慮しなければなりません。
目標は、通常、戦略レベル、戦術レベル、運用レベルで段階的に存在します。それらの目標を達成し続けるために、マネジメントシステムを展開し、実施しますから、組織のすべてのレベルでパフォーマンスを監視し、測定する必要があります。
フィードバックを得る目的は、パフォーマンスを監視するためだけではなく、組織の目標の達成に向けて継続的に改善して推進するためでもあります。
フィードバックによって得られたデータの分析を通じてパフォーマンスを理解することで、適切な処置を決定して改善を実行します。また、改善と知識を増やす活動を学習し、発展させることができます。
パフォーマンスの測定においては、主要指標を設定したり、特定の測定法を導入したりすることがありますが、それらがパフォーマンスを部分最適化しないように気をつける必要があります。あくまで全体を最適化しなければなりません。
効果的なコミュニケーションと問題解決活動を通じて、そのフィードバックを責任をもって行うようにします。
システムアプローチ
組織は、目標を達成するために、相互に関連付けられた多くの公式または非公式の取り決めを通じて運営されます。その取り決めには、プロセスや資源の活用の方法が含まれます。
マネジメントがシステムであるという意味は、その中に含まれるプロセスや資源が相互に関連付けられているということです。
マネジメントシステムについて理解するためには、一方では、個々の構成要素について分析し、それらがどのように機能するかを説明できる必要があります。
他方では、システムアプローチによって、それらの構成要素が統合され、相互作用し、協働する仕組みを説明できる必要があります。個々の構成要素について分析するだけでは分からないような、取り除くべき冗長性、強化すべき相乗効果などが見えてくるようになります。
システムとしてのパフォーマンスを知るためには、その測定/評価の手段とフィードバックの機能が不可欠です。
システムアプローチにおいては、計画、財務、会計、購入、サプライチェーンなど、製品・サービス実現プロセスとそれを支援するプロセスとの相互作用を理解する必要があります。そのためには、支援プロセスのパフォーマンスを監視することも必要です。
パフォーマンスの尺度は、通常一つではありません。様々な尺度を用い、また尺度間の関係も理解しながら、目標、プロセスおよび資源の相互作用を正しく知る必要があります。多くのプロセスとそれらのつながりを分析して関係を明確にすることが、マネジメントシステムを理解する基礎です。
これらをはっきりと知ることができれば、主要構成要素すべてを統合して、より効果的、効率的に目標を達成するマネジメントシステムを明確に設計し、実施し、維持し、改善することができます。
いかにシステムが外部や内部の課題に対応するかが、継続的改善レベルとシステムの統合パフォーマンスレベルの指標となります。