マネジメントシステムの定義 − 「マネジメントシステム」とは何か?①

「マネジメントシステム」について、最も一般的で、国際的にもオーソライズされた定義を参照するとすれば、おそらくISOが適切であろうと思います。

ISOには様々なマネジメントシステム規格がありますが、それらの規格で共通に使用される基本的な用語について、『ISO/IEC 専門業務用指針,第1部 専門業務の手順 – 統合版 ISO 補足指針 – ISO 専用手順』(ISO/IEC Directives, Part 1 Procedures for the technical work — Consolidated ISO Supplement — Procedures specific to ISO)(以下「指針」と言います。)の「附属書SL」に定められています(2024年現在)。

その中から「マネジメントシステム」の定義を引用すると、次のとおりです。

方針、目的及びその目的を達成するためのプロセスを確立するための、相互に関連する又は相互に作用する、組織の一連の要素

この定義には重要なキーワードが幾つか含まれているため、それらの意味を理解しておかなければなりません。これらのキーワードも指針附属書SLに定義されています。

組織

マネジメントシステムは「組織」の中で働く仕組みであり、組織を構成する一連の要素の集まりであることが分かります。

「組織」とは「自らの目的を達成するため、責任、権限及び相互関係を伴う独自の機能をもつ、個人又は人々の集まり」と定義されています。

組織は人の集まりであり、法人・個人、公的・私的を問いませんが、「目的」を持った集まりです。

目的

「目的」は「達成する結果」と定義されています。原語は「objective」であり、「目標」と訳すこともできます。

日本語の「目的」と「目標」は、厳密には区別して使用されますが、指針附属書SLには「目的は、戦略的、戦術的又は運用的であり得る。」、「様々な領域[例えば、財務、安全衛生、環境の到達点(goal)]に関連し得る」との注記もありますので、かなり広い意味で用いられています。

様々な種類の組織を想定したとき、組織の「目的」は、一般的に、「利害関係者のニーズや期待を満たすこと」と表現してよいでしょう。

「利害関係者」とは「ある決定事項若しくは活動に影響を与え得るか、その影響を受け得るか、又はその影響を受けると認識している、個人又は組織」と定義されます。具体的には、顧客、政府(規制当局)、従業員、地域社会、仕入先、出資者(株主)、債権者(金融機関)などがあります。

組織が目的を達成するためにはマネジメントシステムが不可欠であり、「組織」の定義の中にある「責任、権限及び相互関係を伴う独自の機能」という記述もまた、マネジメントシステムの一部を構成すると言ってよいでしょう。

つまり、「マネジメントシステム」の定義の中に含まれる「相互に関連する又は相互に作用する、組織の一連の要素」の中に、組織のメンバーに付与された責任や権限が含まれるということです。ただし、「マネジメントシステム」には、人以外に関わる資源や仕組みも含まれます。

方針

「マネジメントシステム」の定義には「方針」や「プロセス」といった用語も含まれています。

「方針」とは「トップマネジメントによって正式に表明された組織の意図及び方向付け」と定義されます。

プロセス

「プロセス」とは「結果を提供するために入力を使用または変換する、相互に関連する、または相互作用する一連の活動」と定義されます。

「結果」とは、文脈に応じて、「アウトプット」、「製品」または「サービス」と言い換えることができます。

つまり、人や機械が行う様々な活動のうち、何らかの材料(インプット)を持ち寄り、それに処理を施して、何らかの意味ある結果(アウトプット)を作り出す一まとまりの活動が「プロセス」です。

「プロセス」は、通常、”製品を作る”、”サービスを提供する”のように、名詞と動詞の組み合わせで表現されます。

目的が先か、組織が先か

組織は目的を達成するための集まりであると述べましたが、目的が決められたうえで組織がつくられるというだけでなく、一度つくられた組織において、目的は変わっていくこともあります。

とは言え、目的は何でもありではなく、一定の制約があります。その制約に当たるものが「方針」です。トップマネジメントの方針に基づいて目的が決められ、その目的を達成するためのプロセスがつくられ、運営されます。

マネジメントシステムの働き

マネジメントシステムの働きは、組織の中で「方針」と「目的」と「プロセス」を確立することです。「確立する」とは、単に決めるだけでなく、決めたものを適切に機能させ続けることも含まれます。

なお、指針付属書SLには、重要な注記があります。

まず、一つのマネジメントシステムは、単一または複数の分野を取り扱うことができます。

ある組織では、品質マネジメントシステム、環境マネジメントシステム、労働安全衛生マネジメントシステムなどを、それぞれのISO規格に基づいて別々に構築しているかもしれません。

別の組織では、統合された一つのマネジメントシステムを構築しており、それが、品質、環境、労働安全衛生などの各ISOマネジメント規格を包括的に満たしているかもしれません。

また、マネジメントシステムの要素には、組織の構造、役割・責任、計画・運用が含まれます。

つまり、マネジメントシステムは組織の中の仕組みであり、その構造、メンバーの役割や責任がマネジメントシステムに影響を与える重要な構成要素です。

さらに、マネジメントシステムは、計画を策定するだけでなく、その実行も担保しなければなりません。