「マネジメントシステム」とは何か?

「マネジメントシステム」については、様々な説明が可能だと思いますが、ごく簡単に定義すれば、「組織の管理体制」あるいは「目的を達成するために組織を動かす仕組み」と言ってよいでしょう。

もっと権威ある言葉で定義するとすれば、ISOを参照するのがよいでしょう。それが、現状において最も一般的で、国際的にもオーソライズされた定義になると思います。

ISOには様々なマネジメントシステム規格がありますが、それらの規格で共通に使用される基本的な用語について、『ISO/IEC 専門業務用指針,第1部 専門業務の手順 – 統合版 ISO 補足指針 – ISO 専用手順』(ISO/IEC Directives, Part 1 Procedures for the technical work — Consolidated ISO Supplement — Procedures specific to ISO)(以下「指針」と言います。)の「附属書SL」に定められています(2024年現在)。

この中で「マネジメントシステム」は次のように定義されています。

方針、目的及びその目的を達成するためのプロセスを確立するための、相互に関連する又は相互に作用する、組織の一連の要素

この記事では、主に『ISOハンドブック マネジメントシステム規格の統合利用 [IUMSS]』(ISO HANDBOOK The Integrated Use of Management System Standards [IUMSS])に基づき、マネジメントシステムについて説明してみたいと思います。

マネジメントシステムの定義

ISO/IECによる定義は、簡潔なようでありながら、それほど分かりやすいとは言えません。この定義を理解するために、基本的な骨格を理解しておきたいと思います。

「マネジメント(management)」とは「経営」、「管理」、「経営陣」などを意味します。「システム(system)」とは「組織」、「機構」、「体制」などを意味しますが、より詳しくは「いくつかの要素(人間、機械、道具、部品、情報など)が、ある目的を達成するために、ある法則に従って組み合わされたもの」と言うことができます。

大きなシステムは、その中に部分システム(サブシステム)を持ちます。複数のサブシステムが連携しながら、一つの大きな全体システムを動かします。

一般的な意味で「組織」自体が「システム」ですので、「マネジメントシステム」は「組織」のサブシステムであると言うことができます。しかも、組織が目的を達成できるように実際に動かしていくための中核的なサブシステムであると言ってよいでしょう。

ISO/IECの定義では、「マネジメントシステム」が「組織」のサブシステムであり、その構成要素は「組織」の構成要素の一部であることが分かります。

また、マネジメントシステムの役割は「方針、目的およびプロセスを確立すること」です。ISO/IECは、方針、目的およびプロセスの3つが組織を動かしていくために最も重要な要素であると認識しているわけです。

 

マネジメントシステムに重大な影響を与える要因

組織は明確な目的を持って社会の中に存在します。その目的は、組織内外の利害関係者のニーズや期待を満たすことです。その目的を達成するためにこそマネジメントシステムは構築され、機能しなければなりません。

したがって、マネジメントシステムが適切なものとなるためには、組織が置かれている社会的な状況を理解する必要があります。

そのためには、組織の外部と内部の環境を調査し、分析することによって、組織がどのような問題や課題に直面しているのかを明らかにする必要があります。

外部環境には、社会、政治、経済などの情勢があります。ターゲットとする市場があり、競争相手もいます。こうした様々な要素が、組織に重大な影響を与えます。

内部環境には、経営者、従業員、施設、設備、知識、技能、資金などがあります。これら内部環境の要素の組み合わせによって、マネジメントシステムを効果的・効率的に機能させます。

組織は、これら外部と内部の課題を考慮して目的を定め、プロセスを計画しなければなりません。次に、その計画を実施し、実施状況をモニタリングしながらプロセスが効果的かつ効率的に機能しているかどうかを評価し、適切な調整を行います。これら全てがマネジメントシステムの役割です。

マネジメントシステムの働きによって、組織内の様々なプロセスが適切に連携しつつ機能し、優れた製品やサービスが生み出され、提供されていきます。

マネジメントシステムは、継続的な計画、実行、改善の活動を維持する仕組みであることから、組織の重要な知識または技能として確実に保持されるよう文書化されるべきです。

組織の状況は時間の経過と共に変化しますから、マネジメントシステムもその変化に対して敏速に適応し、適切に反応していくことができなければなりません。

組織の状況、リスクおよび機会

組織の目的や持続可能な成功に影響を及ぼすと考えられる内部と外部の課題には、次のようなものがあります。

  • 利害関係者のニーズおよび期待
  • 政治的安定、経済的・競争的環境、文化的・社会的規範、技術進歩、環境保護・保全、法令遵守といった、取り組む必要がある外部の課題
  • リーダーシップ、マネジメント、コミュニケーション、力量(意図した結果を達成するために、知識及び技能を適用する能力)などの内部の課題
  • 事業環境および組織が差別化し、競争する方法の理解

組織には様々な利害関係者が存在しますから、利害関係者のニーズや期待も非常に多様です。競合したり対立したりするようなものもあります。

したがって、全体のバランスをとりながら、どのニーズや期待を優先して満たそうとするのかを決める必要があります。その決定は、誰を利害関係者とするのか、どの利害関係者を重視するのかを選ぶことでもあり、組織の目的や目標を策定するための重要なステップになります。

内部と外部の課題が明らかになると、組織が取るべきリスク(不確かさの影響)や挑戦すべき機会を選ぶ必要があります。選ばれたリスクや機会は、マネジメントシステムの決定、実施、維持および改善のための重要なインプットになります。

内部および外部の課題を特定し、分析するために活用できる多くの技法があります。

フォースフィールド分析
実行しようとする活動やアイデアなどに対して働く「推進力(追い風)」と「抵抗力(向かい風)」を可視化し、それぞれに対する対策を考える。
環境スキャニング
組織の外部および内部の環境を調査・分析し、組織の戦略に影響を与える可能性のある機会と脅威を特定すること。メディア・ソース、市場調査、政府調査の活用、アンケート、インタビュー、フォーカスグループなど、さまざまなソースから情報を収集することで、組織の活動に影響を与える要因を包括的に把握する。
ベンチマーキング
一般的に、標準化された基準や指標に従って、品質や価値などを改善していく方法。組織においては、ベスト・プラクティスとの比較・分析を行うことにより、そのギャップを埋め、現状を改善する有効な手段・方法論。
SWOT分析
自社の外部環境と内部環境をStrength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の4つの要素で要因分析することで、既存事業の改善点や伸ばすべきポイント、新規事業の将来的なリスクなどを見つけること。
PESTLE分析
組織にとって機会を生み出したり、逆に脅威を与えたりするマクロ環境を、6つの視点(Political:政治的要因、Economic:経済的要因、Sociological:社会的要因、Technological:技術的要因、Legal:法的要因、Environmental:環境的要因)から分析する。

重要なのは、方法やツールではありません。組織の状況、外部・内部の課題、識別されたリスクおよび機会を考慮したマネジメントシステムを構築・運用することです。

マネジメントシステムの構成要素

マネジメントシステムが機能するために必須の構成要素は、次のとおりです。

  • 目標
  • プロセス
  • 組織構造および資源
  • パフォーマンス・フィードバック

重要なことは、これらの構成要素が適切に機能するだけでなく、システムとして統合され、相互作用し、協働する必要があることです。

システム全体としてのパフォーマンス(測定可能な結果)を知るためには、その測定/評価の手段とフィードバックの機能が不可欠です。

パフォーマンスの尺度は、通常一つではありません。様々な尺度を用い、また尺度間の関係も理解しながら、目標、プロセスおよび資源の相互作用を正しく知る必要があります。

これらをはっきりと知ることができれば、主要構成要素すべてを統合して、より効果的、効率的に目標を達成するマネジメントシステムを明確に設計し、実施し、維持し、改善することができます。