検証による学び − 「リーン・スタートアップ」とは何か?②

スタートアップは、とてつもなく不確実な状態において組織を構築し、動かしていくことが必要です。そのための方法論が、リーン生産方式にあります。

リーン生産方式の中核には、われわれの努力のうち価値を生み出しているのはどの部分で、無駄なのはどの部分なのかという問いがあります。「価値」とは顧客にとってのメリットを提供するものです。それ以外のものはすべて無駄だと考えます。

環境が不確実であるということは、顧客が誰なのか、顧客が何に価値を見い出すのかを、あらかじめ明確に知ることができないということでもあります。

そこで、リーン・スタートアップでは「検証による学び」を重視します。それが、不確実性という環境において顧客を知るために不可欠の方法です。

「検証による学び」とは

「検証による学び」とは、仮説に基づいて実用最小限の製品を速やかにリリースし、顧客の行動を観察し、顧客の声を聞きながら、顧客が本当に望んでいることを見つけ出し、その望みに製品を合わせていくという地道な作業を素早く繰り返すことです。

実験によって新しいことに気づき、それを基に新しい実験を考えるという方法で、一歩一歩、目標に向かって歩いていきます。

われわれの立場で完璧な製品を時間をかけて開発しても、誰も欲しがらないなら、すべては無駄になります。ですから、仮説を検証するために必要な最小限の製品を早くリリースし、とにかく学びを開始しなければなりません。

顧客の望みを学ぶためにどうしても必要なもの以外の努力は無駄だと割り切ることが必要です。それが「リーン」の意味です。

スタートアップの仕事は、自分たちが満足できる完璧な製品を作ることではなく、自分たちのビジョンと顧客が受け入れてくれるものとを一つにまとめることです。顧客についての理解が深まるにつれて、製品もよくなっていきます。

最も重要なことは、顧客が真に望んでいることを学ぶことです。望んでいると顧客が言うことでもなければ、顧客が望んでいるはずだとわれわれが思うことでもありません。

これは事前の調査で知ることはできません。実際に製品を手にした顧客の行動と意見によって、顧客の真意を学ばなければなりません。製品を手にしなければ、顧客は意見を言うことができません。

顧客の声を聞いた結果、それまでの仕事の成果を捨てなければならないかもしれません。それでも、最初の製品を作らなければ、顧客のことを学ぶことはできません。戦略の間違いにも気づきませんから、最終的な成功もありません。

戦略のどの要素がビジョンの実現に役立っているのか、どの要素が単なる無茶なのかを正しく学び、持続可能な事業につながる道を歩いているかどうかを明らかにしなければなりません。

実験

スタートアップとは、大きな実験です。その製品を作れるかどうかではなく、その製品を作るべきかどうかを検証するための実験です。

要するに、その製品を中心に持続可能な事業が構築できるかどうかです。その問いに答えるため、事業計画を体系的に構成要素へと分解し、部分ごとに実験で検証していきます。それによって、戦略のどの部分が優れていて、どの部分が狂っているのかが分かります。

実験は科学的手法に則って行います。何が起きるのかを予想する仮説を組み立て、予測と実測とを比較します。

ビジョンを中心に持続可能な事業を構築する方法を明らかにすることが実験の目標ですので、ビジョンの前提となっている仮説を検証していくことが実験の内容になります。

実験によって、顧客が実際にどう動くのかを観察することができるため、顧客の望みについて制度の高いデータが得られます。現実の顧客とやりとりする位置に自らを置くので、顧客のニーズを学ぶことができます。

顧客は仮説に基づいて予想通りに動くわけではありません。予想外の行動こそが重要であり、想定さえしていなかった情報を入手することができます。仮説検証の実験であるからこそ、仮説を否定する根拠を鋭く発見することが可能になります。

なお、実験は定量的な結果を得ることが重要ですが、定性的な学びを組み合わせることも必要です。

ビジョンの分解

実験に入る前の最初のステップは、全体のビジョンを構成要素に分解することです。最も重要な要素は2つの仮説、すなわち「価値仮説」と「成長仮説」です。

「価値仮説」とは、顧客が製品を使うようになったとき、本当に価値を提供できるかどうかを判断するものです。調査によって意見を聞くだけでは分かりません。実際に製品を使ってもらい、例えばリピートするかどうかで顧客の本心を知ることができます。

「成長仮説」とは、新しい顧客が製品をどうとらえるかを判断するものです。製品が広がって欲しいと思うかどうか、他の人にも勧めたいと思うかどうかです。例えば、実際に商品を使った顧客が口コミを広げてくれるかどうかを調べることができます。

最初に実験する顧客は、アーリーアダプター(製品を最も強く欲している顧客)を見つける必要があります。そういう顧客のほうが失敗に寛容で、フィードバックも返してくれることが多いからです。

最初の実験でよい数字が得られなかった場合、戦略に大きな問題がある可能性があります。どうすればプログラムを改善できるのか、定性的なフィードバックを求める必要があります。最初の実験に参加した人から話を聞きます。

実験は製品である

実験は単なる理論の探求ではなく、最初の製品そのものでもあります。実験のどれかが成功すれば、それはつまり広報活動を始められることを意味します。アーリーアダプターに協力してもらい、実験を繰り返しながら顧客を増やし、製品を構築していきます。

大規模販売ができる段階に製品が達する頃には、それなりの顧客がついています。現実の問題をいくつも解決し、その後作り込むべきものの詳しい仕様も分かっているはずです。

こうして得られた仕様は、いま動いている製品に対するフィードバックが基になっています。

とてつもなく不確実な状態で新しい製品を創り出さなければならない状況においては、本来、次のような問いに順次答えていかなければなりません。

  1. われわれが解決しようとしている問題に消費者は気づいているか
  2. 解決策があれば消費者はそれを買うか
  3. われわれからそれを買ってくれるか
  4. その問題の解決策をわれわれは用意できるか

通常の製品開発では、いきなり4番目の問いに答えようとします。1から3の問いは暗黙の仮定が未確認のまま前提とされているため、開発して販売した結果、失敗することになりがちです。

したがって、前提となっている仮説を明確にし、段階的に実験によって検証しなければなりません。

例えば、1番目の問いに関しては、そもそも消費者にそのニーズがあるかどうかを確認するために、きわめてシンプルなプロトタイプを用意すれば十分です。

機能が不十分であったり、使い勝手が悪かったりして苦情が多数寄せられるかもしれません。しかし、多数の苦情は、それ自体が1番目の問いに対する答えであり、ニーズがあることの証明です。

想定される機能を完備することが製品の成功を約束するものではありません。顧客の問題をどうしたら解決できるのかを学ぶことが成功につながります。そのために、実験を繰り返しながら、問いの一つひとつに確実に答えを得ていく必要があります。