「5回のなぜ」で順応性の高い組織をつくる − 「リーン・スタートアップ」とは何か?⑫

「順応性の高い組織」とは、状況の変化に合わせてプロセスとパフォーマンスを自動的に調整する組織のことです。

スタートアップといえども、スピードばかりを重視してよいわけではありません。理想的な仕事のペースを見つけるスピード調節器が必要です。

リーン生産方式で重視されるスピード調節器は、「時間のために品質を犠牲にしない」という考え方です。その一つは「アンドン」であり、もう一つは「5回のなぜ」です。

教育訓練プログラムも必要です。スタートアップは社員に教育訓練を施す時間がないと言うことが多いですが、それは間違いです。教育訓練を怠れば、学びの期間中の失敗が増え、他のチームメンバーが手を貸さなければならなくなって、全員がスローダウンしてしまいます。

新しく入ったエンジニアにはメンターが付き、生産的な仕事をするために必要なシステムや概念、手法と行ったカリキュラムの習得を支援しなければなりません。

「5回のなぜ」は、スタートアップがフィードバック・ループを素早く回しながら、着実に教育訓練を実施するために活用することができます。

「5回のなぜ」を活用する

フィードバック・ループとなるプロセスにおいては、問題に対処しつつ学びを深めていくことによって、少しずつ投資を行いながらプロセスを徐々に進化させていきます。

その過程で、教育訓練に関する課題を見つける方法があります。それは、リーン生産方式に習って「5回のなぜ」を繰り返す方法です。

「5回のなぜ」は、「なぜ」を5回繰り返すことによって真因に辿り着き、そこに働きかけることによって、最大の問題を直接的に防止するのが目的です。

スタートアップが直面する問題は、たとえ技術的障害と思われるものであっても、「5回のなぜ」を繰り返すと、教育訓練や教本に真因が見つかることが多いので、結果的に、教育訓練課題の発見につながるのです。

「5回のなぜ」で、5つのレベルの原因が発見されるので、それぞれについて比例投資を続ける効果的です。症状が重いほど投資を大きくするのです。

ですから、仕事を中断して教育訓練プログラムを作ろうとする必要はありません。プロセスを進化させようと体系的に仕事を進めるうちに、プログラムができていきます。

オリエンテーションのプロセスも実験と改訂を繰り返し、時間とともに効果は高く、手間はかからないようになっていきます。

「5回の誰」を防ぐ

予想外の問題が起こると、人はイライラしがちになるので、「5回のなぜ」をやろうとして、「5回の誰」になってしまうことが少なくありません。犯人探しに終始してしまうのです。

これを避ける方法は、トラブルの影響を受けた人全員を集めて真因の追求をすることです。参加していない人がいると、その人が悪者にされがちだからです。

誰かを非難する声が上がったら、その場にいる一番偉い人が「ミスが起きたら、そういうミスが簡単に起きる状況を作った全員の責任だ」と釘をさすべきです。できる限りシステムレベルで物事を考えなければなりません。

シンプルバージョンで基盤を作る

「5回のなぜ」は、関係者が互いを信頼し、任せる環境でなければ機能しません。

信頼を築く方法として、まず、初回のミスに対しては、たとえどのようなミスであっても寛大に接します。ミスに寛容な姿勢に慣れるためです。このとき、ミスの原因は人ではなくシステムであることを忘れないようにします。

ただし、同じミスは絶対に繰り返さないという姿勢も重要です。比例投資でミスを防止する方法を学んでもらうためです。

このやり方を繰り返すことによって、「5回のなぜ」を導入できる基盤ができるといいます。

実のところ、「5回のなぜ」を行うこと自体が、チーム内に共通の理解と視点を醸成し、メンバー間の距離を小さくする情報を明らかにする効果があります。

上層部の強いコミットメント

「5回のなぜ」を導入する場合、最初のうちは、組織のネガティブな部分を突き付けられることになります。新しい製品や機能に投入できたはずの時間やお金を、ミスの防止に使わなければなりません。

長い目で見ればそのほうが時間の節約になるのですが、最初のうちは、真因の探求が時間の無駄に感じてしまうのです。

ですから、「5回のなぜ」を実践するときは、必ず十分な権限を持つ管理者が同席し、プロセスが正しく実行されるように促し、支持し、意見が衝突した時の審判役をしなければなりません。

会社の上層部が支持し、導入を推進しない限り、「5回のなぜ」が定着することはありません。

小さい問題から始める

「5回のなぜ」を導入する場合、まずは狭い範囲で使ってみて、使い方を学ぶとよいようです。例えば、顧客に直接関係がない社内の問題に使ってみます。

症状が限定されているほど、「5回のなぜ」をいつ検討すべきなのかを理解してもらいやすいようです。特定の症状が現れたら「5回のなぜ」を適用すると、あらかじめ決めておくわけです。

この方法は「5回のなぜ」に慣れることが目的ですので、根本的な改善にこだわらず、比較的小さな変更点を選ぶようにします。

不慣れな人のために、検討会の冒頭には、毎回目的と原理を簡単に説明し、できれば過去の成功例を示すのが効果的です。

責任者を置く

「5回のなぜ」による学びを促進するためには、この方法を適用する分野ごとに責任者を置くようにします。

この責任者が検討会で議長になり、どの防止策を実施するのかを選び、検討会後に何をフォローアップすべきかを決めます。

責任者は、このような職務が果たせるだけの権限を持っていなければなりませんが、同時に、他の職務で忙しくて検討会に出席できなくなるほど職位が高くてもいけません。

検討会がどの程度機能しているか、防止策が投資に見合う効果を上げているかも、責任者が評価します。

お荷物問題には適用しない

その組織に長年にわたって存在してきたようなお荷物問題を一気に解決するために、いきなり「5つのなぜ」を適用しようとしてもうまくいきません。

適用すべき問題は、新しく起きた問題にすべきです。お荷物問題は、その組織の風土病のようなものなので、新しく起きた問題の真因に関わり、いずれ検討対象となり、少しずつでも解決していけるようになります。