「能率」の2つの側面と評価の基準 − 「人間関係論」とは何か?⑥

「能率」には、組織共通の経済的目的の達成の側面と人間的満足の達成の側面があります。経営組織が人間組織である以上、後者の側面が満たされなければ、前者の側面が達成されることはありません。

しかし、両者は異なる側面であるため、どちらか一方を達成すればもう一方も自ずと達成されるということはありません。

ところが、両者を明確に区別しないと、特に能率の評価を人事に利用する場合に混乱が生じます。経済的能率の測定に偏って人事評価に利用すると、人間的満足の考慮がおろそかになり、人間協力が損なわれるおそれがあります。その結果、経済目的達成をも損なうことになります。

能率の2つの側面を区別し、それぞれの側面に応じた評価を行う必要があります。

2つの能率

経営組織の活動において、「能率」という言葉は2つの側面で使われています。一つは組織共通の経済的目的の達成であり、もう一つは人間的満足の達成です。両者が明確に区別されていないために、一つの現象から性質の全く異なった他の現象へ飛躍したり、矛盾に陥ることにもなります。

このような問題は、組織の成員の成績を測定しようとする場合に最もよく現れてきます。特に大きな問題になりやすいのは、測定そのものよりも、測定結果の用いられ方によってです。賞賛、昇給、昇進、異動、解雇など賞罰の判断基準として用いられることが多いため、当事者である部下への影響は大きいですが、他の部下に対しても無視できない影響を与えます。

経営管理者は、経済目的の達成と同時に、具体的人間行動を統制しなければなりません。両者の統制を同じ方法によって行うことはできません。経済目的の達成を決定する諸要素が、人々の協力的状況を決定する諸要素と同種ではなく、同じ現象に関連していないからです。

実のところ、人間組織である以上、具体的人間行動の統制こそ、究極的には前者の目的を達成するための唯一の手段です。経済目的の達成も人間が行うからです。

2つの評価基準

評価基準においても、能率の2つの側面に応じて区別する必要があります。

一つは、経済目的の達成に関わる基準です。経済目的の達成自体を測定するための基準であり、経済目的への貢献度に応じて従業員の測定可能な成績を評点するための基準です。

もう一つは、具体的状況において、人間関係、行動の社会的規範、希望、恐怖などの社会的および個人的事情を考慮に入れた基準です。組織の中で特定の地位と特定の個人的状況とを持つ特定の人々の協力を確保し、維持することに役立つ基準でなければなりません。

これら2つの基準を区別しなければ、多くの混乱と誤解が生まれ、人々の感情を傷つけることもあります。能率を測るための基準が、能率を損なう結果になってしまいます。

人間関係に長けた経営管理者には、ある基準が職務の達成を妨害するように見えることがあります。彼らの直感的判断に相容れず、評価の記録を捏造せざるを得なくさせます。さもないと従業員からクレームが来て、対応できないことが分かっているからです。

一つの基準は、人間の社会的環境の中の一つの要因に過ぎません。その基準に対する反応は人によって違います。ある人にとっては仲間よりも良い仕事をする動機づけになっても、別の人にとっては良い仕事に対する妨害物として作用します。組織において人を区別するための特徴は無数にあり、それぞれが組織における社会的価値を表現しています。かといって、あらゆる面を考慮することは不可能です。

経済目的の達成に関しては、主に測定可能な基準に基づいて、職務や義務、仕事の量や質について評価されます。それは経営管理者的立場から理論的に見た彼らの位置を示しており、フォーマルな評価の中心です。

それ以外に、仲間からは、協同目的達成への貢献の度合いによって評価されています。主にインフォーマルな社会的組織において容認された行為規範による評価であり、仲間の立場から見た彼らの位置を示しています。現代では、この評価をフォーマルなものとして制度化している企業もあります。

両者の評価体系は、判定が一致するとは限りません。両者を判定する基準の諸要素が同じ性質ではないからです。後者の評価においては、協同現象を無視することができません。

経営組織は、両者の基準において高い評価を得る人を欲しますが、そのような人が自然に手に入ることはありません。

チームとその成員の緊密な協力が満足のいくものとして前提されている場合には、経済的基準が一つの刺激として本来の作用を果たし、経済的能率の面において助けとなることは理解できます。また、監督者が経済目的の達成上そのグループの協力を得るべく、思慮と良き判断力を持ってその基準を使用することが組織のコンセンサスとなっている場合も同様です。

統制は、協同現象を正しく理解することによってのみ可能であり、かつそのためにはどうしても、経済的で論理的なものとは異なった諸技能が必要とされます。能率の2つの側面に関わる評価体系を確立し、有効に機能させなければなりません。