人間関係を扱う技法の習得 − 「X理論」と「Y理論」⑱

問題解決技法を習得する過程では、通常グループで当たることが多いため、グループで作用する複雑な要素の組み合わせに直面し、成功か失敗かの決め手となる従業員間の相互作用が分かります。

経営問題の解決には、人間関係を扱う技法が非常に重要であることを知るようになります。

コミュニケーション、監督方法、リーダーシップ、人事相談制度、ブレーン・ストーミング、集団力学、スタッフの使い方など、様々な教育コースが用意されています。

人間関係教育の困難さ

人間関係を扱う技法を習得するための様々な教育コースを受講しても、行動の変化が永続することはほとんどありません。

誰でも幼い頃から人間関係について経験を積み、独自の防御網を強固に築いているため、その影響を抜き難いからです。

社内では、上司および部下を含む社内環境そのものに順応して行動するよりも、自己の内面的な欲求(恐怖または希望)に対して反応するほうが大きいといいます。

権力を行使するか説得するか、主役を演じるか脇役を演じるか、戦うか引き下がるか、才能を誇示するか欠点を隠そうとするかなどは、環境の要求というより、自分の内面的な欲求への順応です。

そのように内面的な欲求に順応する形で行動していながら、自分の行動が他人にどのような影響を与えているのか、その本当の価値についてほとんどフィードバックされていないため、思いどおりにならないと、自分の責任ではなく相手のせいしがちです。

このような状況で人間関係を扱う新しい技法を習得しようとすると、それに従って自分の考え方や行動を変えようとするよりも、自分の考え方や行動を弁護するための技法として受け取ろうとします。

研究室方式による教育方法

人間関係を扱う技法を向上させる教育方法として、マグレガーは2つの方法を紹介しています。

一つは精神療法です。これは個人が深刻な問題に直面しているとき以外は適切でないといいます。

精神療法は、個人または少数のグループに限って用いるべきものであるため、非常に時間のかかる方法です。それでも、経営問題に応用する道が開かれつつあることは間違いありません。

もう一つは「研究室」方式による教育方法です。教育の中心は、10〜15人の生徒とその世話をする先生からなる「Tグループ」です。一般的な訓練期間は2週間です。

Tグループは毎日2時間ずつ会合します。教材は、会合の間のメンバーの行動などです。この行動にはすべての種類の人間関係が含まれており、それを使って各人が次の点について理解を深めます。

  1. 自分自身の行動が他人の行動に与える影響
  2. 他人の行動に対する自分の反応
  3. グループ活動の現象およびその重要性

Tグループにおけるフィードバックは、先生が与えるものも一部ありますが、大部分はメンバーが相互に与え合います。

先生の手助けによって、「協力すること」と「統制または罰すること」の差異、「日和見主義を分析し解釈すること」と「他人に与えた影響について本人に知らせること」の差異などを理解するようになります。

Tグループでは、先生は、生徒のグループが通常期待するようなリーダーシップを発揮しないため、一種の権力の真空状態と大量の行動が発生します。これが、教育目的に非常に有効な基礎となります。

グループが提供するもの以外に、議題はありません。グループが自らに適用すると決めた規範以外に、グループの運営について何らの規範はありません。

このような条件は、当初、参加者に戸惑いを与え、緊張や欲求不満の原因となりますが、それ自体が教育を促進する効果を持つことが認められています。

Tグループの教育計画では、会合以外にも、理論的な講義、技法実践コース、実習、各人が自社で抱えている問題の分析について個々に相談に応じる時間、他人を援助するのに必要な技法を磨くための教育などがあります。

これらの教育は、毎日の生活から心理的に離れた場所で実施されるので、すべての経験の意味が通常より強くなり、効果が高まります。非現実的な状況では、個人が新しい行動を試みて、それが自身に似つかわしいかどうかを調べやすいからです。

Tグループの経験によって、自分が他人および自分自身に対して行ってきたことを悟れば、人間関係を扱う技法は大いに向上することになります。

このような革新的な訓練に関して、現実的な問題の一つは、訓練後に参加者が体験を語っても、相手になかなか理解してもらえないことです。