統合と自己統制による経営 − 「X理論」と「Y理論」⑤

Y理論の適用例として、よく「目標による管理」があげられますが、その名が付けばすべてY理論に基づくというわけではありません。

「目標による管理はうまくいかない」「古い」「マンネリ化している」などと言われる場合、大抵は、X理論に基づく命令統制の一手段の域を出ていません。

Y理論を適用した「目標による管理」の目的は、組織と個人の統合を促進することです。従業員が企業の目標に向かって努力することにより、自分自身も最大に自己の目標を達成できるような環境をつくり出すことです。

目標による管理には、①主要職責の決定、②目標の設定、③実行期間の管理、④自己評定の4段階があります。

一サイクルで完璧な成果を得ようとするのではなく、フィードバックによる改善を繰り返す必要があります。

上司はすべての段階で最終決定権を持ちますが、あくまで部下の決定を支援することを重視します。コンサルタントとして、自らの知識や経験を部下に使わせることに専念します。

狙いは、部下と上司が共に満足できるようなリストを作り上げることであり、上司の拒否権の行使は、やむを得ない場合の最終手段です。

以下は、部下が管理職の場合の実施例です。部下が一従業員である場合、本人の職務経験や職責の程度に応じて、どの程度まで本人の自主性を尊重するかは、検討の余地があります。

この方法が定着するまでには時間が必要です。個々の段階における面談にも十分な時間を取らなければなりません。忍耐強く育てていく必要があります。

主要職責の決定

これまでの経験に基づいて、自分の仕事の性質を徹底的に検討します。自ら明らかにすることによって、自らの責任として受け入れ、真剣に取り組むことができます。

目標の設定

一定期間に達成すべき、自分自身の仕事に関わる個人的目標およびそれを達成するために必要な手段を明らかにします。

予定期間の終わりには、目標の達成状況を評価しますので、評価に必要な情報およびその入手方法も明らかにしておきます。

個人の目標は、会社の目標の達成にも貢献できることが求められますから、上司は、その両方を達成できるように方向づけ、支援しなければなりません。

達成すべき目標を本人が納得しない限り、責任を引き受けることはできません。この点は、Y理論から導き出される重要な考え方になります。

実行期間の管理

実行は、本人の責任において行います。

上司は必要な支援を行いますが、原則、本人が支援を求める場合に限ります。支援が目的ですから、単なる報告のための面談は行いません。

この段階の狙いは、本人の成長です。能力の増進、職責と真正面から取り組むこと(自己命令と自己統制)、会社の要求と自身の個人目標を統合する能力を増進することです。

上司は、過大かつ性急な期待をしてはいけません。本人の計画に介入し、指導したいという衝動が起こりますので、それを自制しなければなりません。

失敗したり、間違ったりすることもありますが、それでも、本人が援助を求めてきたときにのみ支援することによって、得ることが多くなります。

自己評定

評定も本人自身に行わせます。上司に成果を報告して、上司が評定するのではありません。

これは、本人が次の期間の計画を立てる際の基礎となります。