マネジメントの基本的な役割は、
- 共通の目標、価値観
- 適切な組織構造
- 成果をあげ、変化に対応するための訓練と研鑽
によって、人びとが共同して何ごとかを成し遂げることができるようにすることです。
ドラッカーによると、マネジメントの役割の意味が変化しているといいます。
その主な原因は、マネジメントの成功が、労働力の重心を未熟練工業労働者から知識労働者に変えてしまったことにあります。
マネジメントの起源と発展
マネジメントは、高度の知識と技術をもつ多く人たちが生産的な活動に従事することを可能にしてきました。異なる技術と知識をもつ人たちの共同作業によって、共通の目的を達成させることを可能にしてきました。
高度の知識は常に専門化していますから、単独では何ものも生み出すことはできません。組織がなければ成果をあげることができません。
知識は、当初、社会的な装飾品や贅沢品の地位にありましたが、マネジメントがそれを真の生産資源に変えました。
大企業が形を整え始めた1870年頃、恒常的な大規模組織は軍だけでした。最上層の少数者が命令し、最下層の多数が従うという組織構造でした。この組織構造は、100年近くにわたって組織の規範であり続けたといいます。
しかし、実態は、多種多様な専門家が大企業に流入し始め、組織の構造を大きく変えるようになっていきました。
製造業では、大学教育を受けた技術者が入り始め、研究、開発、生産、財務、経理、人事などの機能別部門が次々とつくられ、第一次世界大戦(1914年~1918年)の頃には、製造業の機能別部門が出揃ったといいます。
同じ頃、肉体労働にマネジメントを適用することによって教育訓練が可能になり、戦時の必要性がそれを大きく発展させました。教育訓練の力で低賃金国が生産効率を上げることに成功し、強力な競争力を獲得したのです。
さらに、マネジメントは、1920年~30年代、大企業に小企業のメリットを導入できる分権化を導入可能にしました。
会計を分析とコントロールの手段に変えました。
軍需生産のために開発されたガント・チャートから計画の手法が生まれました。
経験や直感を定量化し、客観的な情報や判断材料として利用するために、分析論理学と統計学の手法が生まれました。
マネジメントの概念を流通と販売に適用するためのマーケティングが生まれました。
組み立てラインが生産性を著しく向上させたものの、硬直的で人的資源の使い方に問題があると考えられ、エンジニアリング上も欠陥があったことから、オートメーション化、チーム制、品質管理サークル、情報化組織などが生まれました。
すべてのマネジメントの革新は、知識を仕事に適用することによって実現しました。
第二次世界大戦が終わると、マネジメントはビジネス以外の機関にも有効であることが理解されるようになりました。多様な知識と技術をもつ人たちを共同して働かせる事業のすべてに適用できます。
確かに、非営利組織の経営管理には、ボランティアや寄付の管理など特有の仕事がありますが、戦略と目標を明らかにし、人を育て、成果を評価し、サービスをマーケティングすることは同じです。
このようにして、マネジメントは、それ自体が一つの新しい社会的機能となりました。
マネジメントと企業家精神
マネジメントは、企業家精神とイノベーションを包含するようになりました。
イノベーションがなければ、既存の組織は凋落します。マネジメントがなければ、新しく立ち上がった事業はいずれ失敗します。
イノベーションは、ハイテクや技術に限りません。社会的なイノベーションのほうが遙かに重要であり、より大きな影響力をもちます。
イノベーションと企業家精神は、新しい事業だけでなく、既存の組織にも適用され、企業以外のあらゆる機関にも適用されるものです。
マネジメントの正統性
マネジメントの機能は、組織の内部において焦点を当てられることが多いですが、ドラッカーは、一貫して社会的機能としての重要性を主張しています。
つまり、マネジメントは、誰にいかなる責任を負っているのか、マネジメントの力の根拠、正統性の根拠は何かを問題にします。これは経済や経営の問題ではなく、政治的、社会的な問題です。
年金基金が上場企業の支配的株主になった結果、企業は常に敵対的企業買収の脅威にさらされるようになりました。敵対的企業買収の根底には、株主に対して可能な限り多くの金銭的利益を直ちにもたらすことが企業の唯一の機能であるという考えがあります。
企業のマネジメントを含め、あらゆるマネジメントが、その与えられた任務において、成果をあげる責任を負っています。
その成果とは何か、それはいかに評価すべきか、いかに実現すべきか、そもそもマネジメントは誰に責任を負うべきか、これらはマネジメントの正統性を明らかにするものです。
マネジメントの正統性を明らかにすることによって、敵対的企業買収に対抗しなければなりません。
マネジメントとは何か
マネジメントとは何かを考えるうえで、もっとも重要な視点は、「ものの考え方」としてのマネジメントです。
協働の成果
マネジメントの機能は、人びとが協働して成果をあげることを可能にし、人びとの強みを発揮させ、弱みを意味のないものにすることです。
マネジメントは人間に関わるものであり、それこそが組織の目的です。
文化との関わり
マネジメントは事業における人間の協力であり、その国や土地の文化と深く関わります。
したがって、国独自の伝統、歴史、文化のうち、何をマネジメントに組み込むのかを決めなければなりません。
共通の目的
従業員に、仕事に関する共通の価値観と目標をもたせることが、事業体成立の条件です。明確で包括的な目的から、共通の価値観をもつことができなければなりません。目標もまた明確であり、周知徹底され、常時確認されなければなりません。
組織の目的、価値観、目標を検討し、決定し、従業員に示すことが、マネジメントの第一の責務です。
学習と教育
マネジメントは、組織と従業員が、必要と機会に応じて成長し、適応していくことができるようにしなければなりません。
すべての組織には、学習と教育のための機関として、あらゆる層に訓練と啓発のメカニズムが組み込まれていなければなりません。
意思疎通の責任
組織は、異なる仕事をこなす異なる技能と知識をもつ人たちで構成されますから、意思の疎通と個人の責任が確立されていなければなりません。
組織のすべての人が、自らの目標について他の人たちに理解させなければなりません。同時に、自分が他の人たちに期待するもの、他の人たちが自分に期待するものも知らせなければなりません。
成果の評価基準
組織とそのマネジメントにとって、成果の基準は、産出量や利益だけでなく、市場地位、イノベーション、生産性、品質、人材育成、財務状況などです。
非営利機関も、目的に応じた成果の評価基準を多様な尺度でもつ必要があります。組織とマネジメントのなかに成果を組み込み、つねに成果が測定・評価され、改善されるようにしなければなりません。
組織の成果はつねに外部にのみ存在します。組織の内部にはコストしかありません。
教養としてのマネジメント
マネジメントは一般教養(リベラルアート)です。
マネジメントは、人間の価値観、自己認識、リーダーシップ、成長など人間の精神や本質に関わりをもちます。また、社会とも関わり、社会に影響を与えます。
その意味で、マネジメントは人文科学であり、教養(リベラル)です。
同時に、マネジメントの成否は結果によって判定されるため、実践と実用の技術(アート)でもあります。
経営管理者は、心理学、哲学、経済学、歴史などの人文科学と社会科学に関するあらゆる知識と洞察を身につけなければなりません。さらに、物理的科学も身につけなければなりません。また、倫理学を身につけなければなりません。
しかも、彼らは、それらの知識を、効率と成果に結びつけ、財やサービスに役立てなければなりません。