ドラッカーの書籍には、「成果」という言葉が頻繁に登場します。最初はとても分かりにくいと感じる言葉の一つではないでしょうか。
原語では「result」に当たります。「performance」を「成果」と訳している場合もあります。
「成果」には「目的」という基準が必要です。つまり、「目的の達成度合い」あるいは「目的への貢献度合い」が「成果」です。
自分のためにある目的をもち、そのための行動をとる場合、成果も自分の中で完結します。
一方、組織の場合、外部に存在する社会に対して何らかの価値を提供するために存在していますから、組織の目的と成果は、組織の外部にしか存在しません。
ですから、組織の場合、成果を見誤ったり、誤解したり、無視したりすることが起こりがちです。組織内で行われる仕事と期待すべき成果の間には容易に断絶が起こります。
そうならないよう、
- 組織の目的に従って成果を明確に定義すること
- 成果を、組織内の目標や計画に正しく翻訳すること
- 仕事の結果を定期的にモニタリングし、期待される成果と比較し、評価・改善すること
が重要になります。
「成果」の一般的な意味
「成果」という言葉は、一般的に「あることをして成し遂げた(良い)結果」というくらいの意味になるようです。個別具体的な内容を含んでいるわけではありません。
ただし、何でも結果が出れば「成果」と呼べるかというと、そうではないようです。あくまで「良い」結果であることが必要です。
そこで、何をもって「良い」というのかが問題になります。「良い」の判断基準が必要です。
「目的」が「成果」の判断基準
結果が良いものであったかどうかは、何のためにそれを行ったのか、すなわち「理由」によって決まります。「理由」こそが判断基準です。
「理由」とは、「目的」と言い換えることができます。
あることをして成し遂げた結果が、当初の目的を一定程度達成できたとすれば、その行為によって「成果」が出たと言うことができます。
結局のところ、「成果」とは「目的の達成度合い」あるいは「目的への貢献度合い」を意味すると言ってよいと思います。
目的がなければ「成果」もない
目的が違えば、当然、求められる成果も違います。目的が明確でなければ、成果を問うことはできません。
目的が決まって初めて「成果」を評価することができ、「成果」をあげるための目標や行動計画を明らかにできることになります。
(参考:「『目的』 と『目標』 の違い」)
ドラッカーに見る「組織の成果」
自分のためにある目的をもち、そのための行動をとる場合、すべては自分の中で完結します。成果が出たかどうかも、自分で判断することができるはずです。
ところが、組織の成果を問う場合、それほど簡単ではありません。
組織は社会の中の機関であり、社会に対して特定の価値を生み出す機能として存在しています。組織の外部に存在する社会の一員である顧客が、生み出された製品やサービスの価値を認め、受け入れて初めて機能を果たしたと言えます。
つまり、組織とは、自分自身のために存在しているのではなく、組織の外部にある社会のために存在しているということです。ですから、組織の目的や成果は、組織の内部にはなく、組織の外部に存在しています。
ボトムラインが組織の成果
ドラッカーは、組織の成果について特徴的な意味づけをしています。端的には、組織のボトムラインを意味すると言っています。
ボトムラインとは、企業で言うと、損益計算書の最終行、すなわち最終利益を指します。
企業の成果
ドラッカーは、企業の目的を「顧客の創造」とし、その本質は「経済的成果」であると言っています。つまり、企業は、顧客の創造を目的に活動し、その成果を示す端的な指標が最終利益です。
非営利組織の成果
非営利組織の場合、利益という概念がないことがほとんどですので、目的と成果について、どちらも一般的な表現で「 その特有の分野において人と社会を変えること」、「人の生活を改善すること」などの言い方をしています。これが非営利組織のボトムラインです。
目的と成果の違いをあえて言うと、目的は長期的で抽象的に表現されます。成果は具体的、でき得るなら定量的に表現され、目的の中間地点あるいは目的の構成要素と言い換えてもよいと思います。
具体例をあげると、ある非営利組織では、目的を「乳幼児の肉体的・精神的健康を維持、増進する」と定め、成果の一つを「妊娠中の女性の喫煙量を減らす」と定めました(出典:『非営利組織の成果重視マネジメント』)。
目的は定性的で永続的な表現になっていますが、成果は目的の達成に貢献するための一里塚という印象です。成果は、調査などのモニタリングによって、定量的な評価も可能であろうと推測できます。もちろん、成果は複数設定されています。
成果は組織の外部で達成される
ドラッカーが用いる「成果」の考え方で重要なことは、成果は常に組織の外部において達成されるということです。
企業では、目的が「顧客の創造」であり、成果は「最終利益」です。意味としては、顧客が求める価値を製品やサービスという形で提供し、「顧客が欲求を満たして満足した」ということが成果であり、満足の対価として顧客が支払う報酬が最終利益として結実するということです。
企業が利益をあげていなければ、顧客は満足していない、すなわち成果があがっていないという評価になります。
上に例をあげた非営利組織の場合も含め、成果は、組織の外部にいる顧客の中で生じるものです。顧客の主体的な意思によって起こすものが成果であり、「組織の直接コントロール外にあるもの」と言えます。組織ができることは、顧客への働きかけによって影響を与えることです。
「目標の達成」と「成果」の違い
「組織の目標を達成することが成果である」と理解されることがありますが、正しいとは言えません。
成果は、組織の働きかけによって、組織の外部にいる顧客の中に生じるものであり、「組織の直接コントロール外にあるもの」です。
目標は、組織内部での仕事の達成を測るものであり、組織が行う顧客への働きかけの指標です。成果をあげるために設定されるものではありますが、組織の仕事、すなわち「組織の直接コントロール内にあるもの」として翻訳されたものでなければなりません。組織がコントロールできなければ、体系的な仕事として計画化し、組織内に割り振ることができません。
ですから、「目標を達成したら成果があがる」という期待はありますが、実際は、必ずしもそうなりません。翻訳の過程で、仮定に基づく判断が含まれるのが普通だからです。
成果につながらなければ、その目標は適切でなかったことになりますから、定期的に、目標の達成状況をモニタリングし、期待される成果と比較して評価することが必要になります。
例えば、「今月の営業目標は新規契約10件」というのは、それ自体で望ましい目標とは言えません。契約するかどうかは顧客の意思だからです。
目標は、組織の内部で行うべき仕事を明らかにすべきですが、「新規契約10件」では、営業マンの具体的な行動が何も明らかにならず、何もコントロールできません。
このような場合、もし、訪問件数と契約数に相関関係があることが過去の実績で分かっているなら、「営業マン一人当たりの新規見込み客への訪問件数100件」という目標に翻訳することはありえます。営業マンの行動が明らかであり、コントロールも可能です。
ただし、目標は一つだけでよいわけでなく、成果につながるプロセスを明確にし、それに従って複数の目標を設定すべきです。それらの目標を達成した結果、実際の契約につながったかどうかを評価しなければなりません。契約につながらなかったのであれば、プロセスまたは目標を見直す必要があります。
目標達成と成果が混同されると、成果が正しく評価されなくなります。特に、利益を評価基準にできない非営利組織で起こりがちです。
非営利組織に「今年の成果は何か」と問うと、例えば「今年は、セミナーを○回開催し、○○人の参加があった」という答えが返ってくることがあります。これは、目標達成の話にはなり得ますが、成果ではありません。
この場合に問われる成果は、「セミナーを開催した結果、顧客がどう変わったか」です。この違いをよく理解しておく必要があります。