戦略ファウンドリーとは何か? − ルメルトの戦略論㉖

リチャード・ルメルト(Richard P. Rumelt)は、戦略論と経営理論の世界的権威で、ストラテジストの中のストラテジストと評されています。

この記事では、『良い戦略、悪い戦略』(GOOD STRATEGY, BAD STRATEGY)および『戦略の要諦』(The Crux: How Leaders Become Strategists)を基に、ルメルトの戦略論を概説します。

戦略ファウンドリーとは、少人数の経営幹部が集まって課題を検討し、最重要ポイントを見極めて、課題解決のための一貫性のある行動計画を立てるプロセスのことです。

「ファウンドリー(foundry)」は「鋳造所」と訳されます。

戦略ファウンドリーは、長期予算計画を立てるだけの戦略プランニングとは全く違います。経営幹部チームが戦略を目標設定と混同しないよう正しく導き、組織が直面する問題を洗い出し、診断し、最重要課題の最重要ポイントを見極め、どう取り組むかを議論します。

戦略ファウンドリーの成果は、組織にとって今最も重要なことが明らかになること、それに取り組むための行動の指針が定まることです。最後に、対外的な発表や説明にも注意を払います。

戦略ファウンドリーを成功に導くには

戦略ファウンドリーが成功するためには、経営幹部と主なシニアマネジャーが課題ベースのアプローチで戦略立案に臨まなければなりません。

参加メンバーは、戦略策定が財務指標や会計報告とは関係がないこと、戦略策定は毎年の予算編成とは違うことを理解し、この方針に同意しなければなりません。

この方針に従うため、戦略ファウンドリーは、予算編成と分離して実施される必要があります。定期的な戦略ファウンドリーを実施する場合でも、年間予算サイクルとは切り離さなければなりません。

戦略ファウンドリーは、少人数の経営幹部で行います。人数が多過ぎると上下関係の影響が生じる可能性が出てきます。ルメルトが推奨するのは10人以下、できれば8人以下です。メンバーにはCEOまたは事業担当のトップが必ず参加します。

戦略ファウンドリーは、オフサイトで実施することが望ましいといいます。期間は、状況の複雑さに応じて2〜5日間です。場合によっては2回に分け、2、3週間の間隔を空けて実施します。

ファシリテーターは、外部のコンサルタントが実施するほうがよいようです。ルメルト自身も実施することが多いと言っています。外部の信頼できる人間相手のほうが本音で話しやすいからです。

外部の人間の場合、地位の高い人も特別扱いせず単にメンバーの一人として扱い、全員に対等の立場での発言を促すとともに、議論における規律を徹底することが自然体でできます。

社内の人間がファシリテーターをやる場合は、政治的駆け引きや裏取引を遮断できることが条件です。ただし、社内の人間のほうが、社内事情や自社の技術や現場に明るいというメリットはあります。

ファシリテーターは、事前に参加メンバーおよび社内キーパーソン数人に個別インタビューをします。インタビューで知った情報は公表しませんが、議論の糸口をつけたり、停滞した議論を活性化させたりするために発言を引用することはあります。ただし、発言者が特定できないように十分注意を払います。

ファシリテーターは、課題の特定、診断、解決策の検討、具体的な行動方針の検討というステップに沿って議論を導きます。後半には、最重要ポイントに注意を集中させ、議論が脱線しないよう注意し、行動指針まで議論が進むようプッシュします。

戦略ファウンドリーが失敗するとき

地位の高い人間が権力を背景に議論を牛耳るとき、ファウンドリーは失敗します。反対意見を持つメンバーが攻撃的になり敵意をむき出しにする場合にも成果は得られません。

メンバーが必要な時間を捻出できないときにもうまくいきません。

重要課題を見極め、戦略を立てるためには、参加メンバーが自社の事業について基本的な知識を持ち、製品、市場、競争、技術をしっかりと理解していることが欠かせません。

複雑な多角化企業が抱える問題を解決する一つの方法は、製品や市場が共通する事業レベルまたは部門レベルで戦略を立てることです。ただし、事業・部門レベルでよい戦略が立てられても、会社としての支援が得られなければ、うまくいきません。

事業・部門レベルで戦略ファウンドリーを実施する場合にも、経営幹部に加わってもらうようにします。まず全社レベルでのファウンドリーを実施し、その後に事業・部門レベルで行う方法もあります。