「目的」と「目標」は、同じような意味で使われることが多い言葉です。
一般的に使用する分には、あまりはっきりと区別しなくても問題にならないことがほとんどだと思います。
しかし、経営において使用する場合は、違いをはっきりと定義しておくべきです。そうしないと、同床異夢になってしまって、目的と目標を相応しく設定できなくなってしまうからです。
経営の分野で一般的にどう区別されているかというと、「目標」は「目的」を達成するための「手段」に位置づけられます。
「目的」と「目標」の一般的な意味
- 目的
- 実現をめざす事柄。行動のねらい。目当て。行為に先だって行為を規定し、方向づけるもの。
- 目標
- 目印。行動が目指している結果。行動を進めるにあたって、実現・達成をめざす水準。
以上の意味を比べて、ほとんど同じようでありながら、違いを見出すとすると、
「目的」は目指す方向性を示すものであるのに対し、「目標」は目印や水準と言った具体的に確認できる結果を意味しているように理解できます。
そのような違いから、「目的」は比較的抽象的で長期にわたる目当てであり、内容に重点を置いて表現されることが多いと言えます。
一方、「目標」は、具体的で確認できるものとして表現されることが多く、例えば、具体的な地点、数値、数量などで表現されることが多いと言えます。
別の簡潔な言い方をすると、「目的は定性的」、「目標は定量的」という使い分けもされているようです。
「目的」と「目標」は明確に区別できる
「目的」と「目標」には、上記のような違いがあるわけですが、「何となく分かったような分からないような」というモヤモヤした感じを持つ方もいるかもしれません。
具体性の程度の違いのようにしか見えず、本質的な違いがよく分からないと感じられるかもしれません。
実際のところ、企業の目的を見たときに、「売上高10億円突破」といった具体的数値をあげている場合もあります。
これに対し、「そんな目的は具体的過ぎてダメですよ」と言ったところで意味はありません。何を目的にするかは、その会社の勝手です(個人的には、売上額や利益額の目的は望ましくないと思いますし、社員のモチベーションを高めることができるとも思いませんが)。
つまり、内容や具体性の程度によって「目的」と「目標」のどちらに相応しいかということを議論しても意味はありません。
「目的」と「目標」は、はっきりとした概念上の区別ができます。
はっきりと意味を区別したうえで同時に使うことができますし、特に経営においては同時に使うべきものです。
違いを理解したうえで、その人(組織)が、何を「目的」とし、何を「目標」とするかを決めなければなりません。
「目標」は「目的」を達成するための「手段」
「目的」と「目標」は、もともと対になる言葉ではありません。
「目的」と対になる言葉は「手段」です。目的を達するために使う方法のことです。
要するに、「目標」は「手段」に含まれます。
先ほどの例を使うと、
- 目的:売上10億円突破
- 今年の目標:売上1億円突破
という決め方ができます。
手段としての「目標」ですから、目的に向かって進んでいるときに、要所要所で進捗を確認するための目印が「目標」であると言えるわけです。「マイルストーン」という言い方もあります。
もちろん、「最終目標」という言い方もあります。その目標を達成したら、最終的に「目的を果たした」と判断してもよい具体的な目印という意味です。
「目的」から見たら、それを達成するための手段が「目標」です。
逆に「目標」から見たら、それを達成する意味や理由が「目的」に当たります。「何のためにその目標を達成しようとしているのか」の答えが「目的」です。
「目的」は戦略に含まれないが、「目標」は戦略に含まれる
「戦略」という言葉があります。曖昧で分かりにくい言葉の一つです。人によって様々に定義されていて、非常に混乱しやすいと感じます。
経営用語として大まかに定義すると、「経営戦略とは、経営目的を達成するための経営手段の大枠の体系」と言うことができます。
「戦略」は手段のまとまりですが、あくまで大枠の体系であり、各従業員の仕事までを事細かく記述するものではありません。
ドラッカーは「戦略」について、例えば『未来への決断』で「組織の目的を実際の仕事に転化するうえで必要となるもの」と簡潔に表現しています。
目的と仕事をつなぐ役割を果たすものであることが分かると思います。
経営手段とは、いわゆる経営資源(人、物、金、情報)が代表的ですが、それを具体的にどう配分(配置)して、どう使うか、といったことも経営手段になります。
言い換えると、経営目的を達成するために必要とされる経営資源とその配分・使い方を大枠でまとめたものが「経営戦略」です。
ですから、「目的」は戦略に含まれません。経営目的が決まって初めて、それを達成するための経営戦略を考えることができます。
手段としての「経営戦略」は、大きく2つに分けることができます。「目標」と「計画」です。目印(目標)を決め、それを誰の責任で、いつまでに達成するのか(計画)を決めるわけです。
- 戦略目標
- 戦略計画
という言葉があり、ドラッカーも使っています。
要するに、「目標」は戦略に含まれます。
「目的」と「手段」は相対的な関係
「目的」と「手段」は、相対的な関係です。階層構造をなします。
経営の例で説明します。
まず、会社全体の目的と、それを達成するための複数の手段(目標と計画)が設定されます。それらの手段を「戦略」という言葉で表現すると、経営戦略、全社戦略、企業戦略などと呼ばれます。
通常、それらの手段は、部門別に割り振られます。その時点で、ある手段が部門の目的となり、部門内でそれを達成するための複数の手段が設定されます。部門目標と部門計画に具体化されるわけです。
これらを、部門別戦略と言うこともあります。部門が機能別に分けられているのであれば、機能別戦略と言うこともできます。
そのように、順次、目的と手段が、組織階層に従って相対的に立場を変え、下に向かっては具体化・詳細化され、上に向かっては抽象化・概略化されていきます。
組織にとって望ましい「目的」と「目標」
組織の目的と目標をどのように定めるかは、組織の自由ではありますが、望ましい決め方はあると思います。
望ましい「目的」
組織は社会の中の機関であり、社会のための機能です。社会に対して何らかの価値を提供してこそ存在意義があります。
言い換えれば、組織には、社会の中に特定の顧客が存在し、その顧客に一定の満足を得てもらうことが「目的」であるということです。
組織の「目的」は、「組織の外部」にいる顧客の満足として達成されます。その意味で、目的が達成されるかどうかは、組織の外部にいる顧客が決めるのであって、組織が決めるのではありません。「目的は、組織の直接コントロール外にあるもの」です。
組織にできることは、顧客満足につながるような価値あるものを提供することによって、顧客に働きかけることです。
望ましい「目標」
顧客への働きかけは、組織の中で行われる様々な仕事の集まりによって実現されます。外部の顧客満足が「目的」であるなら、組織の中の仕事は「手段」です。手段としての仕事を明らかにし、効率的に実行していくために「目標」と「計画」を決めます。
「目標」は手段である以上、組織の中でどのような仕事をどの程度行うべきかを明らかにするものでなければなりません。つまり、「目標は、組織の直接コントロール内にあるもの」でなければなりません。
その意味で、上の例で示した「売上1億円突破」という目標は、それだけでは望ましくありません。売上があがるかどうかは顧客が決めることであって、そのためにどのような仕事をどの程度行うべきかを明らかにしないからです。組織がコントロールできず、「手段」として意味がないわけです。
ですから、目標を部門別にブレークダウンしていく過程で、コントロール可能な目標に具体化していく必要があります。目標を達成するためのプロセスを明らかにし、プロセスごとに、何をどの程度行うかという目標に細分化していくということです。
ところが、企業の中には、目標のブレークダウンと言いながら、会社全体の目標が「売上1億円」で、営業マンが10人いるから、一人当たりの目標は「売上1,000万円」だと言って、ただ「やれ」と言ったりしています。これは適切なブレークダウンではありません。「手段」になっておらず、何をどの程度行うかが分からないからです。まさにブラック企業の手口です。(参考:「職場での今どきのいじめ事情」)
まとめると、
- 目的:組織の外部において達成されるもの
- ⇒ 組織の直接コントロール外
- 目標:組織の内部において行うべき仕事の内容と程度
- ⇒ 組織の直接コントロール内
というのが望ましい姿であると言えます。
ちなみに、先の説明で、目的と手段は相対的な関係であり、部門別に割り振られていく過程で、上位の目標が下位の目的になると言いました。この点については、「組織の外部」や「組織の内部」という表現を、「部門の外部」や「部門の外部」という表現に置き換えて考えるとよいと思います。
つまり、
- 部門の目的:部門の外部において達成されるもの
- ⇒ 部門の直接コントロール外
- 部門の目標:部門の内部において行うべき仕事の内容と程度
- ⇒ 部門の直接コントロール内