経営の意思を実現する仕組み − マッキンゼー マービン・バウアーの経営論①

この記事では、マービン・バウアーの経営論について、『マッキンゼー 経営の本質』(ダイヤモンド社)に基づいて説明してみたいと思います。

事業の成功の第一の鍵は、経営に携わる経営幹部の確固たる意思にあります。ところが、多くの経営幹部は、日常の仕事に追われて、会社の経営のことまで考える余裕がありません。

目の前の利益や新しい問題の解決に気をとられて、どんなビジネスをしたいのか、どうやったらそのビジネスから利益を上げられるのかを考える時間がありません。

しかし、経営は、その他の業務と全く次元が違うので、そのための特別な仕組みが必要です。

意思を持てば、次に効率的な経営の仕組みを整えることが必要です。一貫性のある経営システムを整えることによって、会社の成長を自らの手で統制しようと決意しなければなりません。

毎日の仕事と経営の仕事

事業を経営することと、業務上の判断を下すこととは、全く別物です。地位が上がるにつれて、前者の仕事が重要になってきます。

経営者が行う「業務上の判断」とは、自分のところに上がってきた問題を処理する、部下を選抜する、部下のした仕事を評価あるいは調整する、部下を指導する、などの仕事です。

「事業を経営する」とは、経営の仕組み組み立て、定着させ、改善する仕事です。「経営の仕組み」とは、社員全員が会社の目標達成に貢献し、成功を実現できるような仕組みのことです。

計画性のある経営

経営の意思を行動に反映させる最善の方法は、組織的、体系的なアプローチです。自分の会社はどんな会社か、自社の事業には何が必要かを見極め、自社にふさわしい経営システムをつくり上げ、毎日の業務のなかで着実に実行していきます。

事業計画、投資判断、事業評価など、互いに影響を及ぼし、支え合う「経営プロセス」(組織の行動を効率よく行うための方法)の集合体のことを「経営システム」といいます。

プロセスは、システムの構成要素として組み合わせて活用され、システムは大きな方針や原則の枠組みとしてプロセスを結びつけます。

経営システムが機能している会社では、一つの目的に向かって様々な経営プロセスを効果的に働かせることができます。そのような経営は「計画性のある経営」と呼ぶことができます。

計画性のある経営が最大限の効果を発揮するためには、関与するすべての人がシステムを理解し、プロセス同士のつながりを把握しなければなりません。

経営システムが社員全員にはっきり理解され、会社の方針や規則が終始一貫しているとき、社員は目的に向かって生産的に仕事に取り組むことができます。

思いつきで下される決定の数は少なくなり、ある決定が他の決定を支え、また支えられもするといった具合に、一つひとつの決定や行動が目標達成に貢献するようになります。

「経営の意思」と「経営システム」は、車の両輪のごとく働いて、事業成功の可能性を高めます。「経営の意思」は「経営システム」を整える決意であり、「経営システム」は「経営の意思」を具体的な行動に変え、行動は意思を一層強めます。

経営の意思を阻害するもの

計画性に欠ける経営スタイルには、2つの大きな欠点があります。

第一は、経営プロセスがはっきりしないことです。それは意思決定や行動の指針となるべきものがはっきりしないということですから、社員に一貫性のある行動を期待することができません。

第二は、プロセス間のつながりが理解されないことです。例えば、ある方針や組織の変更を検討するときに、目標達成に役立つのかどうかが考慮されないといったことが起こります。

計画性のない経営は首尾一貫しないので、感情に左右されやすくなります。原理原則がないので、裁量的で不明瞭です。社員が従うべき方針や手順も不備です。有能な社員が正しく評価されません。

会社を経営するには、会社に適した経営システムをつくる必要があります。規律がある中で激励することによって社員の士気が高まり、共通目標に向けて、社員の最大限の努力を引き出すことができます。

実のところ、優れたシステムほど個人が自由に動く余地が大きくなります。いつ何をどうすればよいか社員が分かっているので、上司が始終命令したり要求したりする必要がないからです。

適切に構築された経営システムの下では、経営幹部は、自ずと手続きよりも業績を重視するようになります。その結果、会社は、事業環境や将来の変化に対応しやすい体質になります。

よくできた経営システムは時の試練に耐えるものですが、同時に変化も厭いません。複数の経営プロセスの結合体として柔軟な構造や骨組みを持つので、システムを構成する特定のプロセスが変化しても、全体のバランスは損なわれません。新しい方針や計画が抵抗なく受け入れられ、スムーズに行動に結びつきます。

目新しいプロセスが重要なのではありません。プロセスがどのように機能し、影響を及ぼし合うかが重要です。システムとして行われる経営は、それ自体が競争力の源泉であり、資産です。

経営プロセスとは

「経営プロセス」とは、集団や組織の行動を効率よく行うための方法を意味します。

経営プロセスは、「人」という共通要素を中心に組み立てられますから、人間の欲望、能力、個性、関心・無関心、長所・短所、恐怖心、性癖などが考慮される必要があります。

経営システムの役割は、会社の利益に適うような計画、決定、行動を促すことですが、最も望ましいのは、社員自らがそうしたいと思うことです。社員が何をどうすべきか決める助けとなるのが、経営システムの本来の姿です。

経営システムは、会社の魅力を高める有能な人材を集めることにも貢献すべきです。

経営システムには、業種や規模にかかわらず、共通する経営プロセスがあります。

  • 経営理念を打ち出す。
    信念、価値観、会社としての姿勢などの方向性を確立する。
  • 経営目標を設定する。
    会社全体または事業部がなすべきこと、目指すものを定める。
  • 到達目標を設定する。
    期限あるいは範囲を定めた具体的な数値目標を定める。
  • 戦略を立案する。
    経営目標を達成し、競争に打ち勝つためのアイデアを練り、計画を立てる。
  • 行動方針を定める。
    戦略を実行するときに、あらゆるレベルの具体的な行動指針となるべきものを定める。
  • 基準を設定する。
    戦略の実行において参照すべき業務基準や評価基準を設定する。
  • 手順を定める。
    重要な仕事や反復的な作業の進め方に関する決まりをつくる。
  • 組織計画を立てる。
    組織は、経営理念の下で戦略、方針に従って行動するときに、社員の力を一つにする役割を果たす。
  • 人材を配置する。
    幹部候補を適切な比率で確保することに留意する。
  • 事業計画・業務計画を練る。
    経営資源の配分や業務の進め方に関する計画を策定する。
  • 施設設備を用意する。
  • 資金を手配する。
  • 社員に情報を提供する。
    事実や具体的な数値などの情報があると、戦略も行動方針も遂行しやすい。事業環境に働く外部要因の予測や業績評価にも役立つ。
  • 社員に行動を促す。

これらのプロセスを自社に合わせた経営システムとしてまとめ上げるのが、経営の仕事です。経営システムを浸透させ、守り、守らせるのは、あらゆるマネジャーが行うべき業務面の仕事です。

事業の成功を測る物差し

事業の成功は、次の3つの基準で測るのが適切です。

  • 売上高とシェアの拡大
    これらは競争優位を測る物差しとなります。
  • 長期的な投資利益率
    バウアーは、総資産・営業利益率を推奨します。
  • 経営の継続性
    事業の反映を持続できるような経営者を次々と輩出できることです。

成功するためには柔軟であることも大切です。事業環境への適応、先進的な製造プロセスの導入、コスト削減、最新の経営手法の活用を、経営幹部は常に心掛けます。