この記事では、マイケル・トレーシーとフレッド・ウィアセーマの著書『No.1[ナンバーワン]企業の法則』(THE DISCIPLINE OF MARKET LEADERS)について紹介します。
本書には、市場でナンバーワンになり、その地位を維持するために必要となる3つの価値基準について書かれています。ここで「価値」とは、企業が特定の顧客に提供しようとする価格、品質、効率、選択、便宜性などです。
第一の価値基準は「オペレーショナル・エクセレンス」(経営実務面での卓越性)です。市場で平均的な製品を、最良の価格で、しかも最も面倒が少なくてすむ形で提供しようとするものです。
第二の価値基準は「製品のリーダーシップ」です。性能の限界をとことんまで追求する製品の提供に専心します。
第三の価値基準は「カスタマー・インティマシー」(顧客との親密性を徹底的に追求すること)です。特定の顧客が欲するものの提供に焦点を当て、その顧客との長期的な関係性を育成しようとします。
一つの企業がすべてに卓越することはできないので、自社が選んだマーケットで競争に勝ち抜いていくために、自社が追求すべき一つの価値基準を選び、その具体的内容を決定しなければなりません。ただし、残りの価値基準についても手を抜かないことが必要です。
ところが、マーケットで勝ち抜いた企業が、僅か数年後にスランプに陥るという例は枚挙にいとまがありません。そうした企業は勝利の栄冠の上に安住してしまい、マーケット・リーダーとしての基本ルールをいつの間にか犯していることに気づきません。
そのルールとは、マーケット・リーダーの地位を維持するために、価値を改善し続けることです。企業の持てるエネルギーを価値の飛躍的改善にフル動員していく必要があります。
改善に次ぐ改善
ビジネスの世界では、自社の占有状態が滅多に長続きするものではありません。勝者は必ず模倣されるからです。
マーケット・リーダーがなすべきことは、あくまで価値基準の焦点を守り通すとともに、自らの成功と徹底的に競争していくことです。
絶えず、自らのオペレーティング・モデル(価値を提供するための最適な手段)を改善し、同時にそれを時代遅れにさせてしまうことです。
顧客価値を高めるには、成績評価基準を高め、作業プロセスをリエンジニアリングし、コア・コンピタンスを向上させなければなりません。
ところが、マーケット・リーダーには誘惑が少なくありません。欲深くなること、成功から甘い汁を吸うこと、そして前進しないことです。
オペレーショナル・エクセレンスへの脅威
オペレーショナル・エクセレンス企業の場合、能率を高める資産の活用を重視するあまり、現在の資産パラダイムに過剰投資してしまいます。成功しているがゆえに資本に余裕があるため、コストに鈍感となってしまいがちです。
もはや役に立たないかもしれない資産をより効率的に使うにはどうすればいいかの検討に余分な時間をかけ過ぎ、いつの間にか能率的であった資産が負債と化してしまいます。
融通の効かない資産は、思い切ったリストラが不可欠です。
製品リーダーへの脅威
製品リーダー企業の場合、自社の偉大な製品に酔いしれ、顧客からの不平や改善提案に過剰反応し、完全主義者特有のパニックに陷ることがあります。
その場合、感知された欠点が本当に正しいかどうかの評価は無視されてしまいます。
製品リーダーは、飛躍的な革新を重ねていくことに深くコミットする以外に道はありません。自らの製品を時代遅れにすることこそが使命です。
そのためのアイデアが顧客から出てくることはまずありません。顧客はすでにある製品を改善することを望むからです。
カスタマー・インティマシーへの脅威
カスタマー・インティマシー企業の場合、顧客に約束した総合解決策を提供するために、文字通り何でもしてやれるという幻想にとらわれがちです。
その結果、本来なら断るべき仕事ないし他の供給者に任せるべき仕事まで請け負ってしまうことになります。
競争相手に突然リーダーの地位を追い落とされることもあります。この場合、同じ熟練技術の組み合わせがもっと強力な相手ではなく、リーダーが持っていなかった熟練技術を備えた競争相手であることが少なくありません。
顧客に頼りにされていた専門知識の価値は、顧客自身が次第に専門家になるにつれて薄れていきます。昨日の特上サービスが今日の標準になってしまえば、その積み卸しの道を探さなければなりません。
そのためには、各種の顧客から得た経験を身につけ、新たな人材を雇って新鮮な洞察力を養い、外部の専門家の頭脳を借りることが必要になります。
自らの専門知識を、既存顧客の基本的問題の変化あるいは新しい顧客に適応させていかなければなりません。
二次的な価値基準に関わる脅威
マーケット・リーダーが、トップにとどまるために必要な能力を絶えず洗練化しているとしても、なおかつ遅れをとる場合があります。それは、二次的な価値基準の定期的な改善を怠ったときです。
二次的な価値基準とは、マーケット・リーダーとなるために選んだ一つの価値基準以外の価値基準のことです。二次的な価値基準において卓越することは困難でも、並の水準を維持することは必要です。
ところが、自社が二次的な価値基準に位置づけているものにおいて、他社がマーケット・リーダーとなるべく努力している場合、顧客はその価値基準においても期待感を高めていくため、自社において維持しようとする並のレベルが上がってしまうのです。
このような場合、自社にとって二次的な価値の水準を引き上げることに二の足を踏むものです。本来卓越すべき価値の水準を高める努力が疎かになる可能性があるからです。
それでも、他社が顧客の期待感を上げてしまったために並の水準が上がってしまったのであれば、そこまではレベルを上げるべく投資する必要があります。
ここで問題になるのは過剰反応です。2つ以上の価値基準において卓越しようと過剰投資を行ってしまうと、本来追求すべき価値のオペレーティング・モデルを損なってしまいます。
近視眼的な脅威
マーケット・リーダーが近視眼的になることによって、照準を見失い、本来追求すべき価値の卓越性を損なってしまうことがあります。
企業が近視眼的になる理由の一つは、目先の利益に目が眩んでしまうことです。例えば、顧客の信頼に安住して、現在の事業から安易に利益を搾り取り、株価を釣り上げようとすることです。
成長があまりに急速な場合にも、近視眼的になりがちです。拡大戦略に夢中になっているうちに脇が甘くなり、事業の運営自体が疎かになってしまうのです。